上 下
35 / 124
3.

35.お宝はあるものですね

しおりを挟む
「ガウニャ~ゴ」

 子猫ちゃんも気が済んだのか私の腰にスリスリ顔を擦りつけにいらっしゃいました。

 大きくなった分、力が増し増しになっていませんか?
足腰鍛えていてようございました。

 それにしても子猫ちゃんの鳴き声にも気づかないくらい私にうっとりとした視線を投げ続ける下女といい、甘えん坊の子猫ちゃんといいどうし……はっ、もしや。

 慌てて腰の帯に差しこんでいた手鏡を取り出し、顔を確認します。

 ふむ、特に化粧は落ちておりませんね。
驚かせないで欲しいものです。

「それではその者を連れてお帰りなさいな」

 手鏡を仕舞いながらいつの間にか気絶していた破落戸に軽く視線をやって踵を返します。
子猫ちゃんもついてくるようですね。
真横に侍ります。

「へっ、あ、あの、お待ちを!
文をお受け取り下さいまし!
明日は……」

 文は受け取らずそのまま落としてあったのに気づいたようですね。

 しかしいい加減しつこい。

「無礼が過ぎるわ。
身の程を弁えよ」

 今度こそヒタリと瞳に魔力を纏わせて圧を与えつつ、冷たく言い捨てます。

「言葉そのまま妾に伝えるといいわ」
「あ……」

 下女は震え上がって二の句が告げられず、黙りこみました。

 何かしら事が起こりそうなので丞相、皇貴妃にこの件は伝えた上で……そうですね。
梅花《メイファ》宮の主、凜汐リンシー貴妃にも抗議しておきましょうか。

 不満だらけではありますが、契約は契約。
餌の役割はしっかりして差し上げねばなりません。

「さてさて、まいりましょうか」

 ここでの戦利品はお酒と七輪と……。

「ガウニャ~ゴ」
「ひぃ~」

 子猫ちゃんの鳴き声にやっと気づいたらしく、下女は悲鳴を上げます。
しかし体を竦ませてキョロキョロと辺りを見回しているのならば、やはり見えてはいないのでしょう。

 その隙きに七輪と瓢箪瓶を持って立ち去ります。

「1人になさらないで下さいまし~」

 あら、気づかれましたか。
もちろん下女の声は無視です。
そもそも気絶しているとはいえお仲間がいるのですから1人ではありませんよね。

 そのまま1階に降り、軽く中と外を探索すれば、埃の被った棚にお猪口を見つけたのでそれも七輪の中に入れて運びます。
これにも玄武の絵が描かれておりました。

「意外にお宝はあるものですね」

 と言いつつ足取りも軽く、何なら鼻歌を歌いながら荷物を置く為に一旦小屋へと戻ります。
子猫ちゃんには外で待つよう申しつけました。

 ガウッ、と良いお返事を頂きましたよ。
もう酔いは冷めたのですね。
随分と大きくはなりましたが、可愛いです。

「戻りました」

 薄暗い小屋の奥に向かって声をかければ、無造作に置かれていた縁台に腰かけて奥をじっと見つめていた先人がこちらへ向き直ります。

 昼間でも薄暗い小屋ですから、その表情まではわかりません。

「ああ、この七輪と瓢箪ですか?
飲めそうなので持ってきてしまいました。
鳥を獲って来ますから、後で焼きつつ晩酌なんていかがです?
その酒瓶と同じ形の入れ物に入った辛味調味料も見つけました」

 視線の先が私の手元に集中している事に気づいてそう声をかけてから、特に返答を待たずにもう1度外に出れば、子猫ちゃんは大人しく待ってくれておりました。

 懐かれたのでしょうか?

 窮奇は不徳者を好むらしいのですが……もしや私、不徳者認定されたとか?!
これでも信のおける者には誠実だと自負しているのですが?!

「お待たせしました」
「ガウッ」

 しかし胸中を表には出さずに声をかければ、良いお返事。

「そうそう、少し試したい事がありました」
「ウガウ?」

 厳つい虎顔もこうやって首を傾げて意思疎通していると可愛らしく見えるのですが、個人的にはやはり愛らしい子猫ちゃんな外見が好みなのです。

 懐からそっと金の延べ棒を取り出せば、子猫ちゃんはビクッと体を震わせます。

 翼の傷は癒えたようですが、投げつけられたせいで負った心の傷はまだ完治していない模様。
ちょっぴり元肉泥棒ちゃんに罪悪感を抱きそうです。


 延べ棒にゆっくりと魔力を纏わせれば、プルプル震えながら子猫ちゃんの腰が引けて後ずさり。

 あら、尻餅をついてしまいました。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

亡くなった王太子妃

沙耶
恋愛
王妃の茶会で毒を盛られてしまった王太子妃。 侍女の証言、王太子妃の親友、溺愛していた妹。 王太子妃を愛していた王太子が、全てを気付いた時にはもう遅かった。 なぜなら彼女は死んでしまったのだから。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

彼女の幸福

豆狸
恋愛
私の首は体に繋がっています。今は、まだ。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

婚約をなかったことにしてみたら…

宵闇 月
恋愛
忘れ物を取りに音楽室に行くと婚約者とその義妹が睦み合ってました。 この婚約をなかったことにしてみましょう。 ※ 更新はかなりゆっくりです。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~

緑谷めい
恋愛
 後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。

最近様子のおかしい夫と女の密会現場をおさえてやった

家紋武範
恋愛
 最近夫の行動が怪しく見える。ひょっとしたら浮気ではないかと、出掛ける後をつけてみると、そこには女がいた──。

処理中です...