33 / 124
3.
33.不徳者を好む性質
しおりを挟む
「おたおたおたおた……」
「おた?」
大きな体躯となった子猫ちゃんに何かを舐め取られている破落戸は私に向かって手を伸ばしながら言葉にならない言葉を話しますが、何が言いたいのかわからず首を傾げてしまいます。
必死にこちらへ手を伸ばしているのですが、押し倒されているせいか動く事はできなさそうです。
「あわわわわわ……」
もう1人は腰砕けになって床に座りこみ、こちらも言葉にならずにズリズリと不器用な後退り。
殆ど後ろに下がれておりません。
あ、子猫ちゃんが動きました。
「ングッ、ゴホ、ギャ……」
腰砕けの後ろに回って襟を噛み、引きずって起き上がれずにいた破落戸の隣に転がします。
「「フグッ」」
まあ、仲良く蛙が潰れたような声が……。
子猫ちゃんが仰向けに並んだ2人の腹にドカッと寝転がったので仕方ありません。
非力な後宮に住まう軟弱な女子達には中々の苦行かもしれませんね。
再びのヒイィィィとか、ギャアァァァとか騒ぐ耳にキンとくる悲鳴もなんのその。
今度は代わる代わるザリュザリュして何かを舐め取っては堪能し始めました。
あら?
舐めれば舐めるほど体が大きくなっていませんか?
それに何でしょうね、この状況は?
思わず考えこんでしまいます。
「……ふむ、ごゆっくり~」
しかし考えてもわからないものはわかりません。
何より私には無縁の者達に加え、勝手に宮に立ち入った破落戸達なので放置で良いでしょう。
そのまま脇をすり抜けようとしましたが……。
「お助け下さいまし!」
先に押し倒された立場が上と豪語していた方にガシッと足を掴まれてしまいました。
「まあ、何故?」
「み、見ておわかりになりませんか!」
「全く?」
「お、襲われているのですよ!」
「何に?」
きっと大くなっていく子猫ちゃんは彼女達に見えていませんよね?
「姿の見えない何かにです!」
「話になりませんね。
良いですか?
お前達は私が何者であるのか確認もせず、貴妃の宮に無断で立ち入り、礼を取る事も、ましてや名乗りもせずに文を手渡すでもなく押しつけたのですよ?
それも妾の嬪が妻たる貴妃の予定も聞かず、よりによって翌日の茶会に来いとは、これ、いかに?
その上勝手に騒ぎ、突然埃まみれの床に寝そべり助けてとは、これ、いかに?」
「そ、それは……」
「その髪と瞳の色からしても、仕える女官がいない事からしても、滴雫貴妃じゃない!
それに嬪とはいえ生家の爵位は梳家の方が上!
それも正式に風家の後ろ盾のある巧玲様の方が立場は上よ!」
口ごもる範と呼ばれていた破落戸とは対象的に吠えますね。
「本気で申しているの?
もう一度言うわ。
ここは貴妃の宮、お前達は無断侵入した上に、この宮で主に無礼を働いているのよ?」
次は敬語を取り払い、少し口調を変えて話します。
何だか少し前の皇貴妃の女官達に話した時のようですね。
「だから何?!
さっさと助け……」
「止めて!」
__パチン!
「な、た、叩いた?!
何する……」
__パチン!
まあ、見事な平手打ち。
もちろんお見舞いしたのは範と呼ばれていた破落戸です。
もっとも寝転がりながらなので大した威力ではなかったでしょう。
「ふざけないで!
連座なんてごめんよ!
申し訳ございません!
貴妃様!
どうか、どうかお許し下さいまし!
あんたも謝りなさいよ!
え、ギャ!」
お仲間が何かを言う前に怒鳴り散らして、というよりも恐怖で半狂乱に近いようですが、ある意味正しい判断です。
もしやあの時のやり取りを聞いていたのかもしれませんね。
破落戸から下女には格上げしておきましょう。
下女がそう言うと子猫ちゃんが興味を失ったかのように謝罪した方を解放し、後ろ足で私の足元に蹴り飛ばしました。
もう要らないと言いたそうですね。
きっと美味しくなくなったのでしょう。
「なっ、何で?!
私も……くっ、やっぱり動けない?!
何でよ?!」
__ザリュ、ザリュ、ザリュ。
「ひぎゃああああ!
何でぇぇぇ!!!!」
何故と叫ばれても、ねえ?
やはり子猫ちゃんは私の知るある妖に性質が似ております。
確かかの妖は初代の清国では四凶と呼ばれる霊獣の内の一体で、不徳者を好む性質を持っていたはず。
「おた?」
大きな体躯となった子猫ちゃんに何かを舐め取られている破落戸は私に向かって手を伸ばしながら言葉にならない言葉を話しますが、何が言いたいのかわからず首を傾げてしまいます。
必死にこちらへ手を伸ばしているのですが、押し倒されているせいか動く事はできなさそうです。
「あわわわわわ……」
もう1人は腰砕けになって床に座りこみ、こちらも言葉にならずにズリズリと不器用な後退り。
殆ど後ろに下がれておりません。
あ、子猫ちゃんが動きました。
「ングッ、ゴホ、ギャ……」
腰砕けの後ろに回って襟を噛み、引きずって起き上がれずにいた破落戸の隣に転がします。
「「フグッ」」
まあ、仲良く蛙が潰れたような声が……。
子猫ちゃんが仰向けに並んだ2人の腹にドカッと寝転がったので仕方ありません。
非力な後宮に住まう軟弱な女子達には中々の苦行かもしれませんね。
再びのヒイィィィとか、ギャアァァァとか騒ぐ耳にキンとくる悲鳴もなんのその。
今度は代わる代わるザリュザリュして何かを舐め取っては堪能し始めました。
あら?
舐めれば舐めるほど体が大きくなっていませんか?
それに何でしょうね、この状況は?
思わず考えこんでしまいます。
「……ふむ、ごゆっくり~」
しかし考えてもわからないものはわかりません。
何より私には無縁の者達に加え、勝手に宮に立ち入った破落戸達なので放置で良いでしょう。
そのまま脇をすり抜けようとしましたが……。
「お助け下さいまし!」
先に押し倒された立場が上と豪語していた方にガシッと足を掴まれてしまいました。
「まあ、何故?」
「み、見ておわかりになりませんか!」
「全く?」
「お、襲われているのですよ!」
「何に?」
きっと大くなっていく子猫ちゃんは彼女達に見えていませんよね?
「姿の見えない何かにです!」
「話になりませんね。
良いですか?
お前達は私が何者であるのか確認もせず、貴妃の宮に無断で立ち入り、礼を取る事も、ましてや名乗りもせずに文を手渡すでもなく押しつけたのですよ?
それも妾の嬪が妻たる貴妃の予定も聞かず、よりによって翌日の茶会に来いとは、これ、いかに?
その上勝手に騒ぎ、突然埃まみれの床に寝そべり助けてとは、これ、いかに?」
「そ、それは……」
「その髪と瞳の色からしても、仕える女官がいない事からしても、滴雫貴妃じゃない!
それに嬪とはいえ生家の爵位は梳家の方が上!
それも正式に風家の後ろ盾のある巧玲様の方が立場は上よ!」
口ごもる範と呼ばれていた破落戸とは対象的に吠えますね。
「本気で申しているの?
もう一度言うわ。
ここは貴妃の宮、お前達は無断侵入した上に、この宮で主に無礼を働いているのよ?」
次は敬語を取り払い、少し口調を変えて話します。
何だか少し前の皇貴妃の女官達に話した時のようですね。
「だから何?!
さっさと助け……」
「止めて!」
__パチン!
「な、た、叩いた?!
何する……」
__パチン!
まあ、見事な平手打ち。
もちろんお見舞いしたのは範と呼ばれていた破落戸です。
もっとも寝転がりながらなので大した威力ではなかったでしょう。
「ふざけないで!
連座なんてごめんよ!
申し訳ございません!
貴妃様!
どうか、どうかお許し下さいまし!
あんたも謝りなさいよ!
え、ギャ!」
お仲間が何かを言う前に怒鳴り散らして、というよりも恐怖で半狂乱に近いようですが、ある意味正しい判断です。
もしやあの時のやり取りを聞いていたのかもしれませんね。
破落戸から下女には格上げしておきましょう。
下女がそう言うと子猫ちゃんが興味を失ったかのように謝罪した方を解放し、後ろ足で私の足元に蹴り飛ばしました。
もう要らないと言いたそうですね。
きっと美味しくなくなったのでしょう。
「なっ、何で?!
私も……くっ、やっぱり動けない?!
何でよ?!」
__ザリュ、ザリュ、ザリュ。
「ひぎゃああああ!
何でぇぇぇ!!!!」
何故と叫ばれても、ねえ?
やはり子猫ちゃんは私の知るある妖に性質が似ております。
確かかの妖は初代の清国では四凶と呼ばれる霊獣の内の一体で、不徳者を好む性質を持っていたはず。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/chara_novel.png?id=8b2153dfd89d29eccb9a)
闇に堕つとも君を愛す
咲屋安希
キャラ文芸
『とらわれの華は恋にひらく』の第三部、最終話です。
正体不明の敵『滅亡の魔物』に御乙神一族は追い詰められていき、とうとう半数にまで数を減らしてしまった。若き宗主、御乙神輝は生き残った者達を集め、最後の作戦を伝え準備に入る。
千早は明に、御乙神一族への恨みを捨て輝に協力してほしいと頼む。未来は莫大な力を持つ神刀・星覇の使い手である明の、心ひとつにかかっていると先代宗主・輝明も遺書に書き残していた。
けれど明は了承しない。けれど内心では、愛する母親を殺された恨みと、自分を親身になって育ててくれた御乙神一族の人々への親愛に板ばさみになり苦悩していた。
そして明は千早を突き放す。それは千早を大切に思うゆえの行動だったが、明に想いを寄せる千早は傷つく。
そんな二人の様子に気付き、輝はある決断を下す。理屈としては正しい行動だったが、輝にとっては、つらく苦しい決断だった。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
五歳の時から、側にいた
田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。
それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。
グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。
前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。
意味のないスピンオフな話
韋虹姫 響華
キャラ文芸
本作は同列で連載中作品「意味が分かったとしても意味のない話」のスピンオフ作品に当たるため、一部本編の内容を含むものがございます。
ですが、スピンオフ内オリジナルキャラクターと、pixivで投稿していた自作品とのクロスオーバーも含んでいるため、本作から読み始めてもお楽しみいただけます。
────────────────
意味が分かったとしても意味のない話────。
噂観測課極地第2課、工作偵察担当 燈火。
彼女が挑む数々の怪異──、怪奇現象──、情報操作──、その素性を知る者はいない。
これは、そんな彼女の身に起きた奇跡と冒険の物語り...ではない!?
燈火と旦那の家小路を中心に繰り広げられる、非日常的な日常を描いた物語なのである。
・メインストーリーな話
突如現れた、不死身の集団アンディレフリード。
尋常ではない再生力を持ちながら、怪異の撲滅を掲げる存在として造られた彼らが、噂観測課と人怪調和監査局に牙を剥く。
その目的とは一体────。
・ハズレな話
メインストーリーとは関係のない。
燈火を中心に描いた、日常系(?)ほのぼのなお話。
・世にも無意味な物語
サングラスをかけた《トモシビ》さんがストーリーテラーを勤める、大人気番組!?読めば読む程、その意味のなさに引き込まれていくストーリーをお楽しみください。
・クロスオーバーな話
韋虹姫 響華ワールドが崩壊してしまったのか、
他作品のキャラクターが現れてしまうワームホールの怪異が出現!?
何やら、あの人やあのキャラのそっくりさんまで居るみたいです。
ワームホールを開けた張本人は、自称天才錬金術師を名乗り妙な言葉遣いで話すAI搭載アシストアンドロイドを引き連れて現れた少女。彼女の目的は一体────。
※表紙イラストは、依頼して作成いただいた画像を使用しております。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/fantasy.png?id=6ceb1e9b892a4a252212)
側妃に追放された王太子
基本二度寝
ファンタジー
「王が倒れた今、私が王の代理を務めます」
正妃は数年前になくなり、側妃の女が現在正妃の代わりを務めていた。
そして、国王が体調不良で倒れた今、側妃は貴族を集めて宣言した。
王の代理が側妃など異例の出来事だ。
「手始めに、正妃の息子、現王太子の婚約破棄と身分の剥奪を命じます」
王太子は息を吐いた。
「それが国のためなら」
貴族も大臣も側妃の手が及んでいる。
無駄に抵抗するよりも、王太子はそれに従うことにした。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる