上 下
30 / 124
3.

30.あちきの肉ー!!!!

しおりを挟む
「……あ」

 目が合ったのは生き物。
金色の瞳をした黒いトラ猫ちゃん。

 ですが蝙蝠こうもりのような黒い翼がついております。
時折ふとした時に出くわすあやかしの類いかもしれません。

 しかし今はそんなのどうでも良いこと……。

「あちきの肉ー!!!!
返すでありんすー!!!!」

__どうでも良うござんせんのは猫がかぶりつくその肉でありんすよー!!!!

 猫はビクッと高く跳ね、バサッと翼を羽ばたかせます。

「逃しんせん!!!!」

 懐に手をやり延べ棒をサッと掴み、魔力を纏わせて翼を目がけて全力投擲。

「フギャッ」

 猫らしい悲鳴を上げてお肉が地面にボトリ。

「んっふっふっふっ。
逃しんせんよ、子猫ちゃん」

 すぐさまちょこっと齧られたお肉と近くに落ちた延べ棒に飛びついて拾いん……コホン、拾います。

「フーッ、フーッ」

 それにしても随分と威嚇しまくりな子猫ちゃんですね。
毛が逆立ってトゲトゲで、今にも飛びかかって来そう。

 牙もさることながら、何だか刺さりそうなほどに毛が硬そう。
あ、葉っぱが突き刺さっております。
それに翼……あら、手加減を間違えてしまいましたか。
魔力を物に纏わせて投げると的中率がアップするだけでなく、威力が少しばかり上がります。
もちろんこれにはかなりの鍛錬と繊細な魔力の調整力が必要なので誰彼とはできません。

 色々器用なんですよ、私。

 ですが今回ばかりはやりすぎましたね。
片翼から血が出ております。
これではこのように威嚇されても致し方ございません。

「けれど、人様の獲物を強奪する方が悪いのですよ?
このいたずらっ子。
め、ですよ」
「フーッ、フーッ」
「まあ言葉は通じませんよね」
「フガオッ、ガオッ」

 話しかけたものの自嘲気味に呟けば、何だか言葉が通じたような?

「あら、わかるのかしら?
お肉欲しいですか?」
「ガウッ」
「そうですか。
では半分……」
「フーッ」

 あら、何とも反抗的。

「では一欠片として差し上げません」
「ガ、ガウッ」
「元よりこれは私のお肉ですよ。
子猫ちゃんならもっと愛想を振りまきなさい」

 プイッと踵を返してそのままスタスタと歩き、鉄鍋とお肉を魔法で洗って再び水を満たして火にかけます。
私もこれくらいの魔法は日常的に使えるんですよ。

 鳥の脚を持って表面の産毛を焼いてから懐にしまっておいた小刀と葉っぱを取り出して葉っぱはまな板代わりに。
お肉をパパッと切り分けて食べられない内臓は火に焚べ、お肉は鍋に入れてしまいます。

「んふふ、鳥出汁を取ったら焼きましょう。
せめて塩かジャンがあれば……」
「ガウッ」

 おやおや?
諦めてどこかに消えたかと思ったのですが、戻ってまいりましたね。

 口に陶器でできた瓢箪を咥えておりますが……私の前に置くと、少し下がって腰を下ろしました。

 毛は普通の柔らかそうなものに変わっているので、何かしらの仕組みがあるのでしょう。

「この離宮にあった物ですか?」
「ガウッ」

 子猫ちゃんは空腹が過ぎるのでしょうか。
最初と比べて本当に従順です。

 埃を被ったそれを手に取り軽く払れば、シャラシャラと乾いた音。
しかし中が少し固まっているかのような感覚もしますね。

 グルリと観察すれば、古ぼけた底に玄武の焼き印。
ここの所有物で間違いないようです。

 口の栓を抜いて臭いを嗅げば、これは唐辛子をブレンドした特有の香りでしょうか。
恐らく1度も栓を引き抜かなかったからこそ長年の保存にも劣化の進みが遅かったか、もしかしたら何者かが保存魔法を掛けて幾年月かは劣化そのものが起こらなかったのでしょう。

 わざわざ玄武の焼き印を押したという事は、当時の水仙宮の夫人が口にする物だったかもしれません。
保存魔法は誰でもかけらものではありませんし、それがかけられた品物は高額商品です。

 栓をし直して縦に振ってみれば、固まった粉がちゃんとバラバラになる手応え。
念の為少し手に出してから口に含みます。
塩と唐辛子、乾燥薬味を配合した万能調味料のようですが……。

「美味しい。
これは調合した者の腕の良さがうかがい知れますね。
私にくれるのですか?」
「ガウッ」

 返事をすると、それとなく煮ているお肉を見ていますね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

私は何人とヤれば解放されるんですか?

ヘロディア
恋愛
初恋の人を探して貴族に仕えることを選んだ主人公。しかし、彼女に与えられた仕事とは、貴族たちの夜中の相手だった…

妻のち愛人。

ひろか
恋愛
五つ下のエンリは、幼馴染から夫になった。 「ねーねー、ロナぁー」 甘えん坊なエンリは子供の頃から私の後をついてまわり、結婚してからも後をついてまわり、無いはずの尻尾をブンブン振るワンコのような夫。 そんな結婚生活が四ヶ月たった私の誕生日、目の前に突きつけられたのは離縁書だった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】夫は私に精霊の泉に身を投げろと言った

冬馬亮
恋愛
クロイセフ王国の王ジョーセフは、妻である正妃アリアドネに「精霊の泉に身を投げろ」と言った。 「そこまで頑なに無実を主張するのなら、精霊王の裁きに身を委ね、己の無実を証明してみせよ」と。 ※精霊の泉での罪の判定方法は、魔女狩りで行われていた水審『水に沈めて生きていたら魔女として処刑、死んだら普通の人間とみなす』という逸話をモチーフにしています。

王が気づいたのはあれから十年後

基本二度寝
恋愛
王太子は妃の肩を抱き、反対の手には息子の手を握る。 妃はまだ小さい娘を抱えて、夫に寄り添っていた。 仲睦まじいその王族家族の姿は、国民にも評判がよかった。 側室を取ることもなく、子に恵まれた王家。 王太子は妃を優しく見つめ、妃も王太子を愛しく見つめ返す。 王太子は今日、父から王の座を譲り受けた。 新たな国王の誕生だった。

処理中です...