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3.
19.必要ございません、命がかかっております
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「……人を寄こす」
「必要ございません」
「いい加減にせよ、小娘!」
とはいえ、それを受け入れる必要もございません。
「私の命がかかっている事に、一体何をいい加減にせよと?」
「はぁ、陛下。
どういう事か説明せよ」
頭が痛そうなお顔で陛下を諌めた皇貴妃は、改めて私に向き直ります。
「現在私個人が支払った持参金、胡家の献金は全く有用に使用された形跡が見られません。
また、先に送った調度品等々も紛失されたまま。
持参金に至ってはこの離宮を新たに建て直しても余りある物であったはずですが、それもどのような状況かが分からず。
人手について後宮側で用意するとの事でしたが、何故か下女の働きすらせぬそこの破落戸が1人来るだけ。
そうそう、調度品に関わる全ての資料は揃いましたが、明らかな盗難の証拠が出てまいりました。
そのように手続きしてもよろしいかしら?
その者が身につけている装具の幾つかは実は石と金具の間に製造番号をふって販売されておりますし、仮に他の者が私の物を知ってか知らずか身につけていたとするなら、そのどれもが一点物。
加えてそれらは絵にして使う宝玉から金物まで描かれておりますから、誰であってもすぐに判別できてしまう。
そうなれば言い逃れできませんし、その者が仕える主にもまたご迷惑がかかるのではないかしら?」
「!!」
それとなく気配を消していたのに、声にならない声を出しては意味がありませんよ、破落戸。
貴方の手首についているそれは、そういう類の物ですよ?
ついでに後宮で第一位の権力者の後ろの何人かのお顔が凍りついたような?
「その上でそこの者曰く、新たに私の資産を用いてこの離宮とやらを建て直すなり、好きにしろとの事。
そもそも私の調べでは破落戸が離宮と称したこの場は正式には廃宮のはず。
昨夜の陛下のご様子では一夜にして正式な離宮とする手続きをなす事はされてらっしゃらないのでは?
して貴妃に廃宮を与えるとはこれ、いかに?
廃宮の扱いとは無いものとして登録せし宮。
無い物を与えるのが後宮としてどのような意味を成すのかわかりませんが、与えるのならばせめて再登録なさってからでございましょう?
なれど未だ現状の調査1つ無く、資産価値も無いのに与えると言われても、意味がわかりません。
それをこの破落戸に問うてもやはりさっぱり解らず、逆上して逃走しようとする始末」
「ふ、ふざっ、ち、違います!
皇貴妃様、私は……」
「何故そなたが勝手に話しかける?
そこにひれ伏し、黙っておれ」
「そん……はい」
何故かしら?
皇貴妃に救いを求めに行くのはわからなくはないけれど……違和感?
皇貴妃の目が随分と剣呑ですね?
「つまりそのような者が昨夜から引き続き私の前に来て後宮の責任者より命じられたとは、これ、いかに?
以上を踏まえ、改めて申し上げますが、少なくとも昨日《さくじつ》より私の身分は正式に貴妃。
どなたかが認めずとも、法では認められた皇帝陛下の伴侶のはず」
紫紺が睨みつけてきますが、無駄です。
そしてそれとなく後ろで丞相は愉快そうですね。
私もそこの翡翠の瞳やその後ろに控える名実ともに女官や宮女であろう方々と同じく剣呑なる光を宿したいものです。
もちろん致しませんが。
「そして傷を負わせ、このような不衛生な場である事をご存知のはずのどなたかは放置し続けたという事実。
一体何をどうすれば何者かの薬と称する物を、何者かわからぬ者に言われるがまま診察や治療と称する者を信じてこの首を差し出せと仰るの?
こちらに参ってやっと丸1日経った現時点で、様々なる事が小娘の抱えられる許容量を超えたと判断しただけの事。
この程度の傷こそが幸いにも些事と思っていても不思議ではございませんでしょう?」
「っ、こいつ……」
「わかりました。
ではそのままでいらっしゃい」
笑えば可愛らしいお顔でしょうが、今はとても冷たいものになっておりますね。
何やらご不興を買ってしまったようです。
素直にお礼を言って引く方が良いかしら。
「必要ございません」
「いい加減にせよ、小娘!」
とはいえ、それを受け入れる必要もございません。
「私の命がかかっている事に、一体何をいい加減にせよと?」
「はぁ、陛下。
どういう事か説明せよ」
頭が痛そうなお顔で陛下を諌めた皇貴妃は、改めて私に向き直ります。
「現在私個人が支払った持参金、胡家の献金は全く有用に使用された形跡が見られません。
また、先に送った調度品等々も紛失されたまま。
持参金に至ってはこの離宮を新たに建て直しても余りある物であったはずですが、それもどのような状況かが分からず。
人手について後宮側で用意するとの事でしたが、何故か下女の働きすらせぬそこの破落戸が1人来るだけ。
そうそう、調度品に関わる全ての資料は揃いましたが、明らかな盗難の証拠が出てまいりました。
そのように手続きしてもよろしいかしら?
その者が身につけている装具の幾つかは実は石と金具の間に製造番号をふって販売されておりますし、仮に他の者が私の物を知ってか知らずか身につけていたとするなら、そのどれもが一点物。
加えてそれらは絵にして使う宝玉から金物まで描かれておりますから、誰であってもすぐに判別できてしまう。
そうなれば言い逃れできませんし、その者が仕える主にもまたご迷惑がかかるのではないかしら?」
「!!」
それとなく気配を消していたのに、声にならない声を出しては意味がありませんよ、破落戸。
貴方の手首についているそれは、そういう類の物ですよ?
ついでに後宮で第一位の権力者の後ろの何人かのお顔が凍りついたような?
「その上でそこの者曰く、新たに私の資産を用いてこの離宮とやらを建て直すなり、好きにしろとの事。
そもそも私の調べでは破落戸が離宮と称したこの場は正式には廃宮のはず。
昨夜の陛下のご様子では一夜にして正式な離宮とする手続きをなす事はされてらっしゃらないのでは?
して貴妃に廃宮を与えるとはこれ、いかに?
廃宮の扱いとは無いものとして登録せし宮。
無い物を与えるのが後宮としてどのような意味を成すのかわかりませんが、与えるのならばせめて再登録なさってからでございましょう?
なれど未だ現状の調査1つ無く、資産価値も無いのに与えると言われても、意味がわかりません。
それをこの破落戸に問うてもやはりさっぱり解らず、逆上して逃走しようとする始末」
「ふ、ふざっ、ち、違います!
皇貴妃様、私は……」
「何故そなたが勝手に話しかける?
そこにひれ伏し、黙っておれ」
「そん……はい」
何故かしら?
皇貴妃に救いを求めに行くのはわからなくはないけれど……違和感?
皇貴妃の目が随分と剣呑ですね?
「つまりそのような者が昨夜から引き続き私の前に来て後宮の責任者より命じられたとは、これ、いかに?
以上を踏まえ、改めて申し上げますが、少なくとも昨日《さくじつ》より私の身分は正式に貴妃。
どなたかが認めずとも、法では認められた皇帝陛下の伴侶のはず」
紫紺が睨みつけてきますが、無駄です。
そしてそれとなく後ろで丞相は愉快そうですね。
私もそこの翡翠の瞳やその後ろに控える名実ともに女官や宮女であろう方々と同じく剣呑なる光を宿したいものです。
もちろん致しませんが。
「そして傷を負わせ、このような不衛生な場である事をご存知のはずのどなたかは放置し続けたという事実。
一体何をどうすれば何者かの薬と称する物を、何者かわからぬ者に言われるがまま診察や治療と称する者を信じてこの首を差し出せと仰るの?
こちらに参ってやっと丸1日経った現時点で、様々なる事が小娘の抱えられる許容量を超えたと判断しただけの事。
この程度の傷こそが幸いにも些事と思っていても不思議ではございませんでしょう?」
「っ、こいつ……」
「わかりました。
ではそのままでいらっしゃい」
笑えば可愛らしいお顔でしょうが、今はとても冷たいものになっておりますね。
何やらご不興を買ってしまったようです。
素直にお礼を言って引く方が良いかしら。
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