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11.どんなやり手娘なんだ〜暁嵐side

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『皇貴妃の年齢もございますれば……父として娘の肩にこの帝国の未来がこれ以上重くのしかかるのだけは……』

 これまでと同じく言葉を濁しながら、しかし俺にとっては限りなく悪いタイミングでそう忠言し、深く頭を下げながら大尉の言に乗ってきたのは立法を司る長、林傑明リン ジェミン司空。
牡丹ムゥダン宮を含めた後宮の主にして、唯一無二の妻の父親だ。

 この後、法律上とはいえ他に貴妃を持つ事は腹黒と妻の泣き落としにより意志を曲げた。
しかし妻を王花ワンファと呼ばれる牡丹を象徴とする宮の主にし、皇貴妃とし、決して閨を共にせぬ事だけは曲げなかった。

『故に不敬罪など適用できませぬ。
しかし適用されるならば……それはそれで楽しめそうですから、どうぞご随意に。
それでは、楽しみにお待ち申し上げておりますわ』

 ムカッ。

 やっぱりあの小娘は不敬罪で良いのではなかろうか。
しかし帝国法があり、皇帝とはいえそれに従う義務があるのが悩ましい。

 小娘の言葉が全て虚言でも、事実あの小娘が1人であそこの小屋に在るという事そのものが問題なのだ。
責任者たる俺とユーの落ち度なのはどうしようもない事実だ。

 今思えばこの廃宮を復活させ、改修する届けも何も俺達は出していない。
これまでのように勝手にやるだろうと放置した。

 いや、待てよ。
ユーは……そういえば……何か言っていたな。

 あ、放っておくよう言ったの……俺だったか……マズイ……。

 あの時はあの腹黒が勝手にやるだろうと思っていたが……そういえば俺は何の決裁印も押した覚えがない。

 あ……これ、本当に不敬罪にできんやつだ。
しかも小娘の言う通り、俺が尋ねた事にただ応えただけだと主張できる話運びだった。

 しかも俺はずっと小娘に覇気を当てていたから、俺の方が分が悪い。
まあそこらへんは何の証拠もないからどうとでもなるのだが、もちろんしない。
仮にも皇帝がそれはできん。

 魔力の高さによっては生活魔法以外にも俺のようにそれを纏って相手に圧を与える威圧や覇気という物が使えるようになる。

 魔力の低い平民や獣なんかは、それを直接的に目を見ながら当てれば気絶させたりもできる。
だが俺は皇子時代から初代皇帝並みに魔力が高いと言わしめたくらいに魔力量が多い。

 そんな魔力をいくら小娘が無礼だったとしても、威圧を飛び越えて覇気を直接的にぶつけたのだ。

 にも関わらず、剣で首を切られて血を流した小娘は俺の目を見て平然と微笑み返した。

 覇気が全く効かない。

 なのに魔力量は伯の出自に相応しい低さだ。
魔力量が多いと相手の目を見た時に直感的にわかるが、見た感じ平民より気持ち多いくらいだったぞ?

 あの実年齢にそぐわない余裕のある態度に、最後はこちらがはっとさせられる風格。

 ……嫌な予感しかしない。

 それに明日には紛失の証拠書類を出すんだよな?
わざと俺がわかるように強調していたから間違いない。

 まずは丞相腹黒に問い質さねば。

 ユーには後で予定が狂ったと知らせを出し、事前調査録や契約とやらの内容を精査するしかあるまい。

 そこで持参金や献金の額もわかるだろう。

 あの小娘、初めから何かしらの問題が浮上する事を見越して動いている。
書類は2部以上作成して、手元にも控えを残すくらいはしてるんじゃなかろうか。

 金が関わっていて、何かしらの問題が起きても後々証拠とする事ができそうな物は、俺がいつでも確認できる状況で必ず公の形で書類を提出しているはずだ。

 どんなやり手娘なんだよ。

 入宮したのが形だけにすぎない貴妃とはいえ、小娘の言うように確かに初夜だ。

 大事な妻皇妃が不安にならない筈はないというのに……クソ。

 しかも夜中に廃宮の小屋の前で2人きりなんて事が、俺の弁明よりも先に耳に入ってみろ。

 絶対、ユーは傷つく。

 挙げ句、胸も未熟なつるんとした少女趣味なんてあらぬ噂がたったらどうしてくれようか。
俺は成熟した女人が好き……いや、何考えてるんだ。

 つまり妻に心底ベタ惚れって事だ。

「継承順位が1番低い9番目の末皇子だったのにな」

 ぼやきながら腹黒がいるだろう政務室へと引き返す。

 こんな風に精神的に疲れる夜は皇帝なんぞなるもんじゃないと、しみじみと感じてしまう。
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