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459.実験材料以外の魅力〜ゲドグルside

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「本当に使えないわね、ゲドグル=ダンラナ。
魔人属である貴女がいながら、まだグレインビルの妖精は捕まらないの?
せっかく聖騎士という身分まで教皇に用意させて潜り込ませたのに」

 そう言って、今はミシェリーヌ=イグドゥラシャと名乗るこの女は、もう何度ため息を吐くのだか。

 見た目は10代真ん中くらいの、珊瑚色の髪に灰色の目をした、付き合いが数百年にもなるこの女。
貴族令嬢としてならまだしも、王族ともなると明らかに凡庸な顔立ち。

 初めて会った頃とは違う、顔形、そして以前とは顔立ちが幼くなったこの女は、私より年が上で、下でもある。

「そのようですねえ。
私も早くお会いしたいのですが」
「貴方は実験材料にしたいだけでしょう」
「そうとも限りませんよ。
あの冷たい紫暗の眼差しで射抜かれると、ゾクゾクしますし、もっとたくさん話をしてみたいのですよ」

 そう、これは私の本心。

 彼女の後ろに控える、子供好きなベルヌが、それとなく私を睨みますが、何をどう誤解しているのだか。

 確かに、実験材料に欲しいと思ってはいます。
あの魔力0という体質、いえ、その状態で生きていられる状態こそが、あまりに異質なのですからねえ。

 皆、勘違いをしているのですよ。

 彼女は史上3人目の魔力0という人間。
そして私の知らない1人目と、知っている2人目であった時の、かつてのこの女とは、結果が同じでも状態が明らかに違うのです。

 だからあの小さな、今にも痩せこけて死んでしまうのではないかと感じる、みすぼらしい体そのものにも、もちろん魅力を感じます。
切り刻んでみたいという欲求も、無くはない。

 ですがかの令嬢には、実験材料以外の魅力もまた、感じています。

 例えば、あの知識。
むしろこちらが危ぶむような勘の鋭さは、誰よりも様々な知識を有している。
それを繋ぎ合わせて導き出す答えからこそ、その勘は高確率で当たるのだと感じました。

 そして恐らく、魔法が使えずとも、それに精通した知識はありそうなんですよねえ。

 そうでなければ、あのように魔具を使いこなしたりは本来、できないはず。
その魔具がいくら素晴らしい物であったとしても、使用者には魔法を使う感覚がわかっていなければ、起動する事もできませんから。

 もちろん普段は自動で起動するのでしょうが、かの令嬢と初めて会った時、ルーベンスの時間逆行を止めたあの起動は、彼女の意志を反映していました。

 ならばかの令嬢は、少なくともかつては魔法を使いこなせていたはず。

 そして魔力を遮断されたが故に、魔力0となった、かつてのこの女の状態とも、また違う。
むしろ魔力が極度に枯渇したように、私には見えるのですよ。

 それに気づけたのは、魔力0であった者を知る私くらいのものでしょうが。

「変態」
「何とでも。
それよりずっと気になってあたるのですが、何故この時期に貴女がこちらへ?」

 失礼な女ですが、そう思ってくれている方が、今は都合が良いですからね。
私が興味を持ち続ける限り、私に実験材料を提供する限り、喜々として自分の駒になると信じてくれている方が。

 チラリと後ろに控えるベルヌの隣に、陶酔した顔でこの女の後頭部を見つめるジルコミア=ブディスカを見る。

 この女は、やり過ぎた。
流石に魅縛まで使ったのは、ね。

「そうですねえ。
もうじきイグドゥラシャの王太子がなくなるのでしょう?
貴女がここへ来て、立太女できなければ、どうなるのです?」
「どうせ、どうもできないわね。
イグドゥラシャ国王は、既に第1王女から離れられない。
そしてあの王太子の余命も、あと少しよ。
まさか私も同じ心臓病を患うとは思わなかったけれど」

 そう、順調だったこの女の、初めての誤算は自らもまた、王太子と同じ心臓病を患った事でしょうね。

 時間稼ぎに、何をどうしたのかアドライド国王に自分と息子の婚約を認めさせた上で、イグドゥラシャ国王太子一派との派閥争いを回避させ、第2王女などという存在を作り出したのですから。

 イグドゥラシャ国王と違い、アドライド国王は魅縛どころか魅了すらされていなかったというのに、何をどうやったのか。
その謎も、かの令嬢ならば解いてくれるのでしょうか。
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