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436.イタチ的拷問

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「キュイキュイ!
キュイ~!」
「あっ……やめっ」

 3人目の誰かはどこだ!
吐け、吐くんだ~!

 僕は今、黒豹さんの長い尻尾を伝って頭に登り、そのお耳をフミフミする。

 んん?!
この分厚いお耳、なかなか手触りが良いぞ!
それそれそれそれ!

「キュイキュイ、キュキュイ!
キュッ、キュイン!」
「ぐふっ」

 この僕の、イタチ式肉球マッサージは気持ちがいいだろう!
うわっ、ガクリと膝をついたな!
ちょっとびっくりした!

「キュイキュイ!
キュイキュイキュイ!
キュキュッ、キュキュッ!
キュイ~!」
「んぐっふ~……」

 そうか、勢い良く四つん這いになる程の気持ち良さか!
危うく投げ出されるかと思ったぞ!
良くぞ支えたな、褒めてつかわす!
さあ、吐け~!

「……何を見せられているのかしら……」

 さっきまで息子に怒っていた王妃の呆れたお声。

「くっ……羨ましい……」

 ふん、僕は今、黒豹さんのお耳を拷問中だ。
王子は静かにお母さんに怒られててよ。

「ぷぷっ」
「……」

 どうしてか隣の美人騎士が笑っている。
リューイさんは無言だけど、いつもの無表情なお顔がどことなく微笑ましそうに和んでない?

 王子と王妃のシリアス展開に突入していたはずなのに、皆の視線が僕の拷問に釘づけだ。

 よし!
次はこの黒くて細長い尻尾に狙いをロックオン!

 背中を伝って腰に移動。
タシッ、と尻尾を根元から押さえる。

 そのまま何となくピクピクして、動きがぎこちなくなった尻尾をフミフミ。

「キュイキュイ!」

 さあ、吐け!

「こ、降参だ!
そこは駄目だ!
それに可愛い過ぎる!」
「キュイ?」

 ん?
駄目はともかく、可愛い過ぎるって何で?
僕は今、拷問してるんだよ?

「キュイ?!」

 思っていたより大きな手が僕を後ろ手に捕まえて、そのまま立ち上がる。
落とされるような不安定感はないけど、そのまま逆さになってクルッと回転しながら、いつの間にか腕の中に収まっている?!

「キュウ~」

 元々万全の体調ではないから、ちょっと目が回ったぞ?!
例えるなら、前世で乗った遊園地のコーヒーカップだ。

 あの時の体は健康体だったから、親友の子供がいくら回しても対した事は無かったけど、この体は貧者にして、軟弱。

 仕方がないから、柔らかさに違和感のあるお胸と、見た目より逞しさを感じる腕の間に顔を埋め、回転と浮遊感が治まるのを待つ。

「え、目が回ったのか?!
すまない!」

 相変わらず違和感しかないお声が、慌てているけれど、僕は動かないそ!

「全く、何をしているの。
ほら、いらっしゃい」
「キュイキュイ……」

 黒豹さんが酷いんだよ……。

 気を利かせた王妃が僕をサッと奪還して、再びソファに腰かける。
女性らしい確かな柔らかさを感じるお胸と、華奢な腕に抱かれて、優しく撫でられれば、何だか義母様を思い出して愚痴ってしまった。

「お、いや、私が悪い……のか?
そうか……すまない、アリ……いや、イタチ」
「ぷぷっ」
「母上……いいな」

 何となくすまなさそうな黒豹さんはともかく、相変わらず美人騎士は楽しそう。

 王子はマザコンかな?
何でか手をワキワキさせて、僕じゃなくて王妃を見て呟いているけど。

「コホン、とにかく王子はすぐにここから離れなさい。
リューイ、王子と共に……」
「嫌です」

 どうやら話は振り出しに戻ったらしい。

「母上、父上から命じられました。
我が妃共々、無事な姿で戻れと」
「……陛下が?」
「はい、必ず共に戻ります。
ですから全てを話して下さい。
いえ、私の推察に頷くか、否定するかだけでもいい。
私も、何も調べずにいたわけじゃない。
それにリューイの他にも側近や、仲間もできたんです。
今も私の為に動いてくれている」

 側近?
そういえば、コード伯爵の養子になってたジャスパー=コードの姿が見えない。
てっきりリューイさんだけ連れて来たのかと思っていたけど、彼も来たって事?

 仲間は……王妃の護衛騎士達の事?
だとしたら、そこの美人騎士以外の2人の正体は、魔眼を使わなくたって、直接的に姿を確認しなくたって確信できる。

 はあ、やっぱり……僕が1番恐れている事が現実になってしまうのかな……。
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