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433.あの時とは違う、けど、やっぱり不愉快

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「ようやっとお越しになられたか。
すぐに本殿の1番良い部屋にお通しせよ」

 耳打ちされたエセ教皇は、途端に顔を可輝かせた。
すぐに席を立ち、耳打ちしたエセ神官に向かって、そう指示を出す。

 もしかしてと僕が思う間もなく、彼は当然のように踵を返した。

 さっき僕のできる専属侍女、ニーアに失礼がどうとか言っていなかったかな?
イタチな他国の侯爵令嬢にならともかく、王族に当たる2人の女性に断りも入れないとか、あり得る?
そっちの方がよっぽど非常識じゃない?

「お待ちになって、教皇。
どうしたと言うの?
突然席を立つのは、それこそ、この国の妃たる私に失礼よ」

 うん、言ってる事はわかるけど、この側妃も大概だよ。

 まず彼女は妃じゃない。
その言葉を用いるなら側妃と言うべきだし、立場上は王妃に敬意を払って、まずは王妃に失礼だと主張すべきだよ。

 けれど当の王妃はただ成り行きに任せている。
というより、興味がないお顔してるよね?
普通に2つ目のサンドウィッチを頬張っている。

 昨日はもちろん、今朝もお昼も、僕がここに来て食べていたどの食事より質素だったし、量も少なかったものね。

 でも他のケーキや焼き菓子には手をつけていない。
僕が考案したそれを、特に気に入ってもらえたって事なのかな。

 そうそう、毒は気にしていないんだ。
だってここにある食べ物や飲み物は、グレインビル侯爵令嬢である僕が食べちゃう可能性しかなかったはずだもの。

 エセ教皇、側妃の前に置かれたデザートの他には、あと1人分しかなかったからね。
ちなみに今回は、従兄様おにいさまが普及させている、あのアフタヌーンティーセットだよ。
だからすぐに何人分用意されているか、わかっちゃった。

 僕と王妃のどちらがアフタヌーンティーセットの置かれた席に座っても、お互いの立場上、絶対にシェアしていたはずだ。
更にもう1つ用意させる方法もあるけれど、その場合この国の王妃と、無理を言って招いた他国の侯爵令嬢では、どちらがどちらのセットを選ぶか僕にも読めない。

「どうぞ」

 僕も王妃同様気にせずにクッキーを頬張っていれば、ニーアがお茶の入ったイタチ専用カップをそっと差し出す。

 さすがニーアだ。
いつの間にカップを用意していたんだろう。

「キュイキュイ」
「いえ」

 ありがとうって鳴いたらちゃんと通じた!
さすがニーア!

「はぁ、妃殿下。
私の口添えがあったからこそ、今の地位があるのだとまだ理解されていのか」

 とか思っていたら、何だか内輪もめしそうな雰囲気?
社会科の教科書的な宣教師顔なのに、嫌味っぽいモラハラ男に見えちゃうなんて、不思議。

「それは……しかし今の私の地位があるからこそ教皇も……」

 僕の期待に反して、結局側妃がぐっと唇を真横に引き結び、最後まで話さずにいい止めた。
もの凄く不服そうなお顔ではあるけど。

 ただ側妃と教会は、やっぱり彼女が側妃として嫁ぐ前からのお知り合いだったみたい?

 チラリと王妃を見上げて様子を窺う。

 ふむ、王妃は相変わらず無反応だ。
これは最初からこの国の王族側は、わかりきった事ってところか。

 けれどこれ以上の情報も、王妃といる間は出てこなさそうだ。
側妃はもう一言も……。

「あら、お取りのみ中だったかしら」

 突然エセ達の後ろから、僕の背にゾワリと悪寒を走らせる、あの盗人の声が降って湧く。

 相変わらず気持ち悪い。

 思わず次のマフィンに手を伸ばそうとして立ち上がったまま、動きを止めてしまう。

 でもファムント領で従兄様おにいさまにしがみついて聞いた時のような、荒れ狂う感情はもう湧かない。
その事にまずはほっとする。

 きっとあの直後時、色々な人達にたくさん慰めてもらえたお陰だ。
今の僕には、つらい時につらいって言える人達がたくさんいる。
そう受け入れられた。
それだけでこんなにも心が安定するなんて、我ながらびっくりだ。

 同時にそう思えるようになれた事が、とても嬉しい。

「これはこれは!
ようこそいらっしゃいました、ミシェリーヌ王女殿下!」
「王女殿下って……まあ、初めまして!
まさかこんな所で会えるなんて思わなかったわ!」

 エセ教皇の言葉に側妃が反応する。
どちらもテンションが上がっている。

「貴女が側妃のマーガレット様ね。
初めまして。
イグドゥラシャ国第2王女、ミシェリーヌ=イグドゥラシャです」

 でも……やっぱり不愉快極まりない気持ちにはなっちゃうみたい。
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