上 下
426 / 491

425.潜伏、後、キュイキュイ

しおりを挟む
「それでは、グレインビル侯爵令嬢との取り成しが終わりましたら、お呼び致します。
世話係も身体検査を済ませたら、すぐにこちらへ寄越すと、教皇と側妃殿下より言伝てがございました」
「……わかった」

 ガチャ、とドアが開く音と共に、そんな声が遠くで聞こえて意識が覚醒し始める。

 あの声……僕のお顔に見とれてた、聖騎士かな?
もう1人は初めて聞く、凛とした女性の声。
何となく警戒した、硬い口調だったね。

 あれからエセ教皇が、側妃とのお茶会を3日後に敢行しようとしたんだ。
それも王妃抜きだったのに、僕には黙ってた。

 てことで寸前になって気づいた僕は、タマシロ君を起動。
そのせいでイタチになれちゃうのがベルヌにバレちゃった。
護衛としてすぐ後ろにいたからね。

 でもベルヌは王妃の件も、僕が白い獣になれちゃうのも知ってたんじゃないかな?

 ニーアもいたけど、そこは打ち合わせ通りにイタチ姿で僕だけ逃亡。

『お嬢様は人です!
服!』

 うん、ベルヌをガードするニーアに、すれ違い様、叫ばれたけど着る暇ないよね?

 でもちゃんと首の巾着には、お着替えセット入れてあるからね。
巾着はレイヤード義兄様が更に手を加えた収納魔巾着マジックポーチで収納容量がアップしてるんだ。

 今はいつものきぐるみ服を着てるよ。

 あれから1週間経過して、その間はずっと逃げたり隠れたりしてたからね。
ここに本殿と2つの離殿があって良かったよ。
あちこちウロウロしたり、隠れたりしてたから見つからなかった。

 今は比較的お掃除されていた、小さい方の離殿の一室に忍びこんで、ソファの隅っこでお昼寝中。
だったけど、ぼんやりと目を開けるとお部屋が薄暗くなってる。
ほぼ夜になってたみたい。

 もちろん僕の出てくる条件は側妃が帰るか、王妃が来るか。

 で、一昨日かな。
とうとう王妃がここに来るって事になったらしいんだ。
キティと第3王子が窓から叫んでた。

 ついでにあのお供な令息も命の危機は去ったって言ってた。
……猶予が延びただけだって、キティはいつ気づくのかな。

 それはともかく一国の王妃を呼びつける教会って、どんなヤバイ教会なんだろう。
呼び出される王妃も王妃だし、国王の力はどうなってるんだか。

「はぁ、明かりもなしとは……」

 妙齢の女性らしきため息混じりの声と、重い足取りらしきコツコツとなる靴音。
この人何だか疲れてる?

 僕も疲れていたせいか、思っていたより深く寝入ったみたい。
すぐに頭が回転しなくて、近づく人影をぼうっと見てしまう。
逃亡生活も楽じゃないね。

「ふぅ……」
 __ドサッ。

 ため息と共に、すぐ隣に勢いよく腰を下ろした?!
僕の軽いイタチボディが、シーソーの原理で上にポン、と跳ねた。

「へっ?!」

 突然の浮遊感に、うっかり声を出しちゃった。
そのまま座面にボディがバウンド。
慌てて座面に爪を立て、転がり落ちるのだけは、何とか免れる。

「何?!」

 隣の誰かは僕の間抜けな声に驚いて、慌てて指を鳴らしてソファから腰を浮かす。

 その瞬間、この人の出した魔法の明かりが光り、橙色の切れ長な目と視線が交わる。

「「…………」」

 互いに見つめ合い、暫しの沈黙。

 ……マズい、イタチの鳴き声……どんなだったかな?

 あちらは息をのんで僕を凝視してるよ。

「キュ……キュイ?」

 とりあえずそれっぽく鳴いて、ただのイタチの顔して首を傾げてみる。

「……何故……鼠?
……鼠が鼠の……着ぐるみ?」

 あ、忘れてた。
ただのイタチは無理だ。
かくなる上は……。

「キュイキュイ」

 なるべく可愛く鳴きつつ、座面を歩いて近寄ってみる。

「……随分と……人慣れしている?」

 その人は立ち上がったまま、そっと手の甲を出す。
僕は人畜無害なイタチ顔で、そこに軽く頭を擦りつけてみた。

「……お前……どこから迷いこんだの?
白い……何かしら……鼠?
胴が長い……鼠?
ここは危ないから、早く飼い主の所へお帰り。
といっても……どこから入ったのかしら?」

 鼠じゃなくて、イタチなんだけど、知らないみたいだ。
なら鳴き声はもうキュイキュイでいいよね。

 改めて光に照らされた彼女を見やり、その正体を察した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...