上 下
327 / 491

326.溶岩キューブ

しおりを挟む
「わああああ!!」
「「アリー!!」」

 僕の叫び声を聞きつけたのか、従兄様とジェン様が血相を変えた様子で火口間際に走ってきた。

 お耳様とお尻尾様を携えたりそうでない護衛さん達もすぐ後に続いてる。

「従兄様!
ジェン様!
見て見て!
すごーい!!」

 僕はもちろん大興奮を継続だ!

 ニーアの張ってる結界魔法にバシャバシャとマグマが吹きつけられ、当たっては火花を上げつつ下に落ちるというのを繰り返している。
橙色の液体がガラス板に強力ストレートシャワーモードで当たる様は圧巻の光景だね。

 もちろん僕はセバスチャンに抱っこされてるし、僕達の周りはガラスの箱のように結界魔法で囲まれてる。

 ちなみに僕達の隣には僕達の周りと同じ結界魔法で作ってもらった、同じくらいのサイズで高さだけ半分の箱を設置してる。
跳ね返った溶岩がその箱にも入って徐々に溜まってるんだ。

 あ、子クジラのつぶらな瞳と目が合った。
子クジラの吹きつける溶岩は勢いが足りなくて届いてないのが、また可愛い。

 もちろん僕はちゃんと手を振ってご挨拶するよ。

「えーっと・・・・楽しんでるみたいで良かったよ」

 マグマの川を挟んで向こう側にいる従兄様ってば、脱力したみたいに笑ってる。
ここまでの道のりで疲れちゃったのかな?

 僕はセバスチャンに抱っこされて眠ってたからわからないけど、火山の火口だものね。
きっと険しい道のりだったに違いない。

 ジェン様や護衛の皆は呆然と立ってる。
きっと皆話せないくらい疲れてるんだね。

「あ、そろそろいい感じ!」
「わかりました。
少々名残惜しいですが、しばしお待ち下さい」

 そう言って老齢の筋肉執事長は僕を下に下ろして庇うように前に出た。

「参るぞ」
「はい」

 セバスチャンが大槍を両手に構えて前に突きだすと魔法で風を纏わせる。
ブン、ブン、という音と共に扇風機の羽根のように回転させていくと、風が広範囲に渦を巻いて前方のクジラの群れに向かった。

 僕達を囲う結界魔法は風がぶつかる瞬間にニーアが絶妙なコントロールで前方の壁と天井を消した。

 渦を巻いた風は吹きつけるマグマを巻きこんで群れに跳ね返る。
セバスチャンの扇風機の魔法って、こんなにめちゃくちゃな強風モードになるんだね。
初めて知った。

 驚いた群れは僕達の前からいなくなってしまったから、ちょっと寂しい。
あの子クジラにまた会いたいな。

 なんて思ってる間にも、ニーアは隣で溶岩が溜まっていたガラスケース、じゃなかった、結界に向かって冷たい風を当てている。

 すぐに温度が下がって固まっていくのをにこにこ微笑んで眺めていると、セバスチャンにまた片手で抱っこされてしまった。

「1人で平気だよ?」
「またいつ群れが襲うかわかりませんからな」
「んー、それもそっか。
重かったらいつでも言ってよ?」
「お嬢様は羽根のように軽いから問題ございませんよ」

 何回目かのやり取りをして、負担を少なくするのにまたぴとっと体をくっつけておく。
 
「ちっ、耄碌爺」

 あ、あれ、今舌打ちと一緒に何かが聞こえた?!

「空耳です」
「そ、そう?」

 僕のできる専属侍女が隣の溶岩を冷ますのに思ってた以上の風を魔法で吹きつけているから、よく聞こえないんだ。

 ニーアの言う通り聞き間違いだったみたい。

 そんなに大量の風を使って慌てて冷まさなくてもいいと思うんだけど、場所が場所で危険だものね。
そこらへんはニーアにお任せしとこう。

「できました。
危ないですから、少し離れていて下さい」
「あ、ちょっと待って。
従兄様!
皆様!
そこ退いててー!」

 ニーアの言葉に向こうの人達に声をかける。

 瞬間、ガッ、という音と共に固まった溶岩が向こうに飛んで行った。

 あ、あれ、もう少し待っても良かったんじゃ····。

「うわー!!
俺の方に来たー!!」

 溶岩は綺麗に孤を描いて従兄様の方へ。
間一髪で避けた従兄様はへなへなと座りこむ。

「あ、あぶっ、あぶっ、危なかっ、、」

 う、うん、本当にね。
従兄様の30センチくらい手前の地面にめり込んでるね。

 言葉になってない言葉をあわあわ言いながら吐いてるけど、怪我はしてなさそうで何よりだ。

「チッ」

 あ、あれ?
また舌打ちの音が。

 ニーアをちらりと見れば、サッカーのシュートの後のフォームからいつもの侍女立ちになるところだった。

「空耳です」
「そ、そう?」

 できる専属侍女がそう言うなら、きっとそうだね。

 改めてあちらを見れば、ガラスケースはいつの間にか消えて無くなって、真っ黒い溶岩キューブが出来上がってる。

「参りましょうか」
「うん!」

 セバスチャンはそう言って僕を抱っこしたまま軽く走って跳躍する。

 僕の体に浮遊感は感じるけど、着地の時の衝撃は殆どなかった。

 マグマ川の幅は10メートルくらいだったけど、危なげなく渡ってしまった。
身体強化して追い風を起こしてたにしても、老人の身体能力は超越してるね。

「すげえな」

 うんうん、まだ驚いてるらしいジェン様を背に庇ってる豹属のおじさんに僕も同意するよ。
驚きを表すようにピンとしてるお耳様とお尻尾様をなでなでしたいな。

「さすがの身のこなしっす」
「あれがグレインビルの先代当主の頃から仕える····」

 鳥属と彼の言葉に続いた山羊属の青年達のひそひそ話にうんうんと頷く。

 うちの先代当主の頃から仕えてくれてる執事····。

「鮮血の····」

 ん?
鮮血?

「お嬢様」
「ふぁい!」

 おっと、聞き耳立ててたのバレちゃった?!
お行儀悪いね?!

 僕の頭越しに向こうの護衛さん達をちらりと見たセバスチャンの呼びかけにビクッてしちゃった。

「はっはっは。
驚くお嬢様もお可愛らしい。
あの塊はどうされますか?」

 あ、何だ、そっちの事か。

 あれ?
何であの護衛さん達体を寄せ合って固まってるんだろ?
しおりを挟む
感想 12

あなたにおすすめの小説

目覚めたら地下室!?~転生少女の夢の先~

そらのあお
ファンタジー
夢半ばに死んでしまった少女が異世界に転生して、様々な困難を乗り越えて行く物語。 *小説を読もう!にも掲載中

まさか転生? 

花菱
ファンタジー
気付いたら異世界?  しかも身体が? 一体どうなってるの… あれ?でも…… 滑舌かなり悪く、ご都合主義のお話。 初めてなので作者にも今後どうなっていくのか分からない……

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

転生したら死んだことにされました〜女神の使徒なんて聞いてないよ!〜

家具屋ふふみに
ファンタジー
大学生として普通の生活を送っていた望水 静香はある日、信号無視したトラックに轢かれてそうになっていた女性を助けたことで死んでしまった。が、なんか助けた人は神だったらしく、異世界転生することに。 そして、転生したら...「女には荷が重い」という父親の一言で死んだことにされました。なので、自由に生きさせてください...なのに職業が女神の使徒?!そんなの聞いてないよ?! しっかりしているように見えてたまにミスをする女神から面倒なことを度々押し付けられ、それを与えられた力でなんとか解決していくけど、次から次に問題が起きたり、なにか不穏な動きがあったり...? ローブ男たちの目的とは?そして、その黒幕とは一体...? 不定期なので、楽しみにお待ち頂ければ嬉しいです。 拙い文章なので、誤字脱字がありましたらすいません。報告して頂ければその都度訂正させていただきます。 小説家になろう様でも公開しております。

夫婦で異世界に召喚されました。夫とすぐに離婚して、私は人生をやり直します

もぐすけ
ファンタジー
 私はサトウエリカ。中学生の息子を持つアラフォーママだ。  子育てがひと段落ついて、結婚生活に嫌気がさしていたところ、夫婦揃って異世界に召喚されてしまった。  私はすぐに夫と離婚し、異世界で第二の人生を楽しむことにした。  

辺境伯令嬢に転生しました。

織田智子
ファンタジー
ある世界の管理者(神)を名乗る人(?)の願いを叶えるために転生しました。 アラフィフ?日本人女性が赤ちゃんからやり直し。 書き直したものですが、中身がどんどん変わっていってる状態です。

土属性を極めて辺境を開拓します~愛する嫁と超速スローライフ~

にゃーにゃ
ファンタジー
「土属性だから追放だ!」理不尽な理由で追放されるも「はいはい。おっけー」主人公は特にパーティーに恨みも、未練もなく、世界が危機的な状況、というわけでもなかったので、ササッと王都を去り、辺境の地にたどり着く。 「助けなきゃ!」そんな感じで、世界樹の少女を襲っていた四天王の一人を瞬殺。 少女にほれられて、即座に結婚する。「ここを開拓してスローライフでもしてみようか」 主人公は土属性パワーで一瞬で辺境を開拓。ついでに魔王を超える存在を土属性で作ったゴーレムの物量で圧殺。 主人公は、世界樹の少女が生成したタネを、育てたり、のんびりしながら辺境で平和にすごす。そんな主人公のもとに、ドワーフ、魚人、雪女、魔王四天王、魔王、といった亜人のなかでも一際キワモノの種族が次から次へと集まり、彼らがもたらす特産品によってドンドン村は発展し豊かに、にぎやかになっていく。

このやってられない世界で

みなせ
ファンタジー
筋肉馬鹿にビンタをくらって、前世を思い出した。 悪役令嬢・キーラになったらしいけど、 そのフラグは初っ端に折れてしまった。 主人公のヒロインをそっちのけの、 よく分からなくなった乙女ゲームの世界で、 王子様に捕まってしまったキーラは 楽しく生き残ることができるのか。

処理中です...