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325.童心とクジラ

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「・・・・様、お嬢様」

 セバスチャンに呼びかけられながら体を揺すられて目が覚める。

 僕が家族によくされてるみたいに縦抱っこ状態だったんだね。
いつも家族にするみたいにセバスチャンの太い首にしがみついてた。

「おはよう、ニーア、セバスチャン」
「「おはようございます、お嬢様」」

 目を開けるとセバスチャンのすぐ後ろに立ってた僕のできる専属侍女と目があったから、ニーアからおはようだよ。

 に、しても····。

「暑いね」
「火口に着きましましたからな」

 セバスチャンの首から体を離すけど、お尻からも感じる逞しい前腕は僕を乗せててもびくともしない。
さすが鍛えてる執事長だ。

「他の人達は?」

 確か従兄様に抱きつきながら眠っちゃった気がする。

「撒いてきました」

 ····ん、んん?
ニーア、何て?

「撒いちゃったの?」
「はっはっはっ。
目的地は一緒ですから問題ありませんよ、お嬢様」
「····そっか」

 いいのかな?
一応他領だし、ここの次期当主のジェン様がわざわざ案内してくれるっていうので同行してるんだけど。

 バシャッ。

 今バリーフェが跳ねたのかな?

「バリーフェが泳いでるの初めて見た!」
「はっはっはっ。
無邪気なお顔が何ともお可愛らしい。
近寄ってみますかな?」
「うん!
でも危ない?」
「心配いりませんよ。
何があってもこの爺がお守りします」
「お嬢様、私もおります」

 この場所は遠目で火口を確認できるくらいに離れてる。
それに周りの空気が少し冷えた。
多分セバスチャンが風の魔法で僕達を新鮮な空気で囲ってくれてる。
有害なガスの臭いもしていない。

 さすがグレインビルの執事長。
有能だ。

 それにバリーフェや他の魔獣に襲われても、ニーアが魔法でどうにかしてくれると思う。

 僕は全幅の信頼を2人に置いている。
だからそのお誘いにはしっかり乗っかろう!

「2人がいてくれるなら、大丈夫だね!
あ、もう目はちゃんと覚めたから下ろして?」
「いやいや、この爺の楽しみの為にもこのままで参りましょう」
「楽しみ?
でも重いから邪魔にならない?
イタチかモモンガになろうか?」
「お嬢様は羽根のように軽いのでこのままで問題ありませんよ。
さあさ、この爺にしっかりと掴まって下さい。
それでは参りましょう」

 言われた通りにしがみつく。

 セバスチャンはそんな僕を片手で軽々と抱えたまま、背中に装着した大槍をもう片方の手に持って火口に近づいていく。

「去年の冬には間引きはしたんだよね?」
「そう聞いております」
「なら今どれくらいいるのかと、他にもいそうな火口があればそこにも行ってみたい。
今はバリーフェを狩っても無駄にしちゃうから、観察するだけね」

 グレインビルで雪室を使えるようになるのはまだ先だもの。

「「承知しました」」

 そして皆で火口付近に近づく。

 結論から言おう。
僕は童心に返った。

「すごい!
本当にクジラがマグマ泳いでる!
うわー!
本当にマグマ吹きつけた!
あ!
ちっちゃいクジラ!
セバスチャン!
あっち!
あっち行って!」

 だってマグマを悠々とクジラが泳ぐなんて、興奮しかしないよ。

 あ、バリーフェは外見があっちの世界のクジラとそっくりなんだ。
大きさは本物のクジラよりずっと小さくて一般的には3メートルくらい。

 でもここのバリーフェは2メートルくらい?

 時々バリーフェをクジラって呼んでるから、僕のクジラ発言には2人共特に反応しない。

「お嬢様、こんなに喜ばれて。
この爺がどこまででもお連れしますぞ!」
「御老体ですから、いつでも私と交代してくれても構いませんからね!」

 セバスチャンは吹きかけてくるマグマを軽く躱しつつ、僕の望む通りに右へ左へと移動してくれる。
もちろんそんな執事長を心配するニーアも。

 セバスチャンは僕を抱えているにも関わらず、全然息が上がっていないんだ。
さすがに魔法で身体強化くらいしてると思うけど、身体能力はお年寄りというよりもそこらの青年顔負けだね。

 しかもずっと孫を慈しむようなお顔で僕を見てるのに危なげなく躱すとか、もう神業だよ!

 もちろん僕のできる専属侍女はいざという時の為にだろうけど、僕達の後ろをずっと追ってくれてるよ。

 そんなニーアはほぼ無表情なお顔がデフォルトのはずなんだけど、セバスチャンを見る目はとっても険しい。
きっと老年のセバスチャンを心配してるんだろうな。

「私のご褒美をよくも····耄碌爺め」

 ····え、心配してるんだよね?! 

 ビュビュッ。

 あ、子クジラがこっちにマグマ吹いた!

 もちろんそれも躱すよ。

 やっぱりここの火口のバリーフェは全体的に少し小ぶりだ。
他の国より火口の規模が小さいからかな?

 だからより一層あの子クジラが可愛らしく見える。

「ふあー、ちっちゃいクジラ、目がくりくりしてるー!
わわ!
また吹いた!
ニーア!
あの子可愛い!
うちで飼えたらいいのに!
あ、でもお母さんと離れるの可哀想か。
んふふー、諦めよう。
触りたいなー」
「ぐっ、破壊力が····。
何じゃ、この可愛い生き物は····凶悪じゃ」

 セバスチャンが何かぶつぶつ言い始めた?!

 でもわかる!
セバスチャンはずっと僕の方を見てるけど、そうしてないとあのつぶらな瞳の可愛らしさにノックアウトされちゃうよね!
確かに可愛いは凶悪だ!

「私のご褒美をよくも····耄碌爺」

 あ、あれ?!
2度目ましてな言葉が聞こえたぞ?!
ニーアもまたぶつぶつ言い始めた?!
え、爺って····。

 バチャバチャバチャ!

 ビュビュビュビュ!

 多分僕達が不用意に子クジラに近づき過ぎたせいで、同じ群れのバリーフェ達が一斉に攻撃してきた!

 跳ねたマグマや吹きつけて放物線を描くマグマが僕達を集中砲火?!
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