上 下
323 / 491

322.賛否両論の温泉玉子とギラリと光る目

しおりを挟む
「やっと言えたんだね」
「ガ、ガウディード様!」

 からかうような従兄様の言葉にお姉様、もとい、ジェン様のお顔が真っ赤になった。

「あはは、ごめんごめん。
馬車の中で話してた時から、ずっと切り出すタイミングを見計らっては諦めてを繰り返してたから、こっちがやきもきしちゃったよ」

 言われてみれば、お話の途中で時々何かを言いかけて、止めてを繰り返してた。
今みたいにお顔を赤くして。

 へへへ、ジェン様可愛い。

「はぅ、にこにこしてる····可愛らしい」

 両手を頬に当ててうつむいて、ぶつぶつ呟き始めちゃった。

 あの貴族名鑑という名の王家の悪戯名鑑では、グレインビル侯爵家は公爵家と同格の扱いなんだ。

 でも一応同じ侯爵家でジェン様は僕より年上。
加えて次期ファムント侯爵家当主だと今の当主がちゃんとお披露目してるからね。

 ただの令嬢である僕の方から口調を改める提案はしない方が無難なんだ。
だから口調は令嬢言葉まではいかないにしても、丁寧にしてたんだけど、お許しが出たみたい。

「それで、アリー。
返事はしなくていいのかな?」

 従兄様が僕にウインクする。

 はっ、可愛らしいスーパーモデルなジェン様にメロメロになってた!

「もちろん喜んで!
ジェン様!」
「!!」

 うわ!
バッとお顔を上げたら、キラキラした目をしてた!
スーパーモデルがワンコみたい!
ナニコレ、可愛いな!

「それから、もうそろそろできあがる頃だと思います」
「できあがる?」

 そんなワンコなジェン様には餌付けせねば!

 そういえば温泉玉子のお話してなかったね。

 きょとんとしたジェン様のお顔がもうワンちゃんにしか見えないよ。
お父さんの侯爵に生えてたお尻尾様とお耳様がジェン様にも見える。
お尻尾様がぶんぶん揺れてる。

 実際に生えてるの見た事ないのに、おかしいな?

「アリー!
さっそく何か作ってたんだね!」

 そういえばお顔を輝かせる従兄様にも言ってなかった。

 でも従兄様のそのお顔は僕の思ってたのと違うんだ。
残念。

 従兄様が僕のお顔をじっと見て、一言。

「アリー、お願い。
俺も食べたいな」

 それだ!
やっぱり従兄様ってば、あざといね。

「もちろんだよ!」
「お嬢様、どうぞ」

 わお!
立ち上がって取ってこようとしたら、大槍背負ってるセバスチャンがもう差し出してくれてる?!

 ジェン様と従兄様が突然の執事長の出現にビクッてした。

「チッ」

 ん、んん?!

 思わず舌打ちの音に振り返るけど、いつものおすましニーアがいるだけだ。
気のせいだったかな?

「フッ」

 ん、んん?!

 思わず馬鹿にした鼻息の音に元の方に振り返るけど、いつもの微笑みセバスチャンがいるだけだ。
気のせいだったかな?

「ア、アリー?
早くその袋開けようか?」

 何故かお顔を引きつらせた従兄様がセバスチャンの差し出す袋を受け取るよう促す。

 さっきまで温泉に浸かっていたはずなのに、袋は乾いていた。
気を利かせて乾かしてくれたんだね。
うちの執事長は気が利く執事長だ。

「ありがとう、セバスチャン」
「いえいえ」

 お礼を言って受け取って、中が見えるように全開にすれば、10個の茹で上がった玉子がこんにちはだ。

 真っ黒になってる。

「えっ、黒い。
これ、玉子?」
「温泉玉子です!」

 ジェン様にエヘンと胸を張って答える。

 確か黒いのは、鉄分が付着した殻が硫化水素と反応して硫化鉄になるから、じゃなかったかな?

 あちらの世界では寿命が延びるとか眉唾なお話もあったはず。
旨味成分が普通のゆで卵より多く含まれているってお話も聞いた事がある。

「あ、中は普通の白いゆで卵だ。
どれどれ、味は····」

 もはや僕の出す物には何の危機感も抱かない従兄様は殻をむきむき、解説しながらぱくんと半分ほど口に含んでもぐもぐする。

 それを見てジェン様もむきむき、ぱくん、もぐもぐ。

「ほんのり温泉の香りがして、普通のゆで卵とは少し違う美味しさを感じる。
美味しい」
「うん、これ、いいね!」

 お行儀よくお口の中を無くしてから話すジェン様と、残りの半分もお口に入れて、もぐもぐしながら話す従兄様。

「良かった。
でも人によってはこの温泉の香りが苦手な方もいるかもしれないの。
鼻の利く獣人さんは特に分かれるお味かもしれない」
「ああ、確かに····あら、戻ってきたのね。
ちょうどいいわ。
護衛達に試してもらいたいのだけど、いいかしら?」
「もちろん!」
「貴方達、こちらへ」

 ジェン様に呼ばれて鳥属、豹属、山羊属の3人が近寄ってくるけど、初めて目にする黒い玉子に心なしか緊張感がお顔に走っている。

「食べてみてちょうだい」

 ジェン様に言われて3人はそっと手を伸ばし、殻を剥いてぱくん。

「俺は····すまねえ、苦手だ」

 そう言ったのは微妙な面持ちになった豹属のおじさん。
お耳がピンとして、尻尾がどこか不機嫌そうに揺れている。

「俺は平気っす」
「俺も。
むしろこの風味、いい」

 他の2人はほっとしたお顔になって、鳥属と彼の言葉に続いた山羊属の青年達が頷き合った。

「やっぱり好みが分かれるみたいね。
でも温泉玉子····使えそう」

 ジェン様の目がギラリと光る。

 あ、あれ?!
良く知る商会長さん達が時々してる目に見える?!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...