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308.お願いループと淑女ブーメラン

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「アリー、俺のお願い聞いて欲しいな」
「んふふー、従兄様、可愛い。
 もう1回!」
「アリー、俺のお願い聞いて」
「んふふー、従兄様、素敵。
もう1回!」
「····アリー、もうそろそろ····いや、えっと、お願い」
 
 どうしたのかな?
突然僕の背後に視線をやってビクッと驚いちゃった?

「んふふー、従兄様、素晴らしいです。
もう1回!」
「アリー、お願い、もうそろそろ許して欲しいな」
「えへへー、従兄様、まだまだ。
もう1回!」
「ふぐっ、アリー、お願いだからもう許してぇ」

 あらら、さすがにサンドイッチを頬張りつつ1時間はやり過ぎたかな。

 何だか従兄様の妹で現在行方不明中という名の、僕が出資する研究所職員になったような気がしないでもない従姉様おねえさまがいた時の、あの別荘でのやり取りを彷彿とさせるね。

 あの頃より会う回数もずっと増えて、お互い気心も知れたし口調も砕けていってるんだ。

 目尻の涙は開始30分の時と違って本物の煌めきを感じるところもあの時のようだ。
やっぱりこの角度の従兄様ってば、義母様に似てて可愛らしいんだよね。

 僕は何時間でもニマニマできるけど、晴天とはいえグレインビルの初春は間際は体が冷える。
それに少し眠くなってきた。
そろそろ中でお話聞こうかな?

「それで、ガウディードは何をしに来たんだい?」

 なんて思っていたら、背後からの急なお声!
僕が声の主を間違うはずがない!
凛々しい僕のダンディパパだ!

「父様!」
「お、叔父上」

 立ち上がってくるりと振り向くと目の前に背の高い義父様。

 素敵か!!

 従兄様の上ずったお声は無視!

「今日は帰るの早いね!
お帰りなさい」

 そのまま義父様に抱きつく。

 するとすぐに暖かな風が僕を包んだ。
義父様の魔法だね。

 暖かさに気が緩むとまた眠くなる。

「ああ、ただいま。
まだ外は冷える。
晴れた昼間とはいえあまり長く外にいるのは感心しないな。
中に入ろう」
「はーい!」

 そう言って義父様は僕を縦に抱き上げてくれる。

 ここに帰って来た1年前より背がいくらか伸びて少しは重くなった体重だけど、家族全員がこうやって軽々持ち上げるんだ。
僕の家族は皆逞しいね。

 でも成人した、もうじき15才がこれは恥ずかしいって思うべきなのかな?
あっちの世界でも中学2年生くらいだよね?

 でも今みたいに家族に抱っこされてぎゅってされたり、背中ぽんぽんされるの好きなんだ。

 あれ?

 いつの間にかニーアも来ていた。
僕のピクニックセットを片づけようとしているなんて、さすが僕のできる専属侍女。
仕事が早い。

 義父様はそのままスタスタと邸に入って行く。

「待って下さい、叔父上。
俺を忘れてる~」

 なんて言いながら従兄様もちゃっかり後に続く。

 あ、義父様越しに僕を見上げるその角度、義母様に似てて良い!
好き!

 思わずきらきらした視線を送っちゃう!

「ガウディード」

 ん?
どうしたの、義父様?
立ち止まって振り返ってからの、ダンディボイスが心なしか低いね。

「いえ、これは不可抗力····」

 どうしてか従兄様がビクッと震えて困り顔になってしまった。
まあ従兄様がよくする行動だから、気にしなくていいか。

「父様」
「どうかしたかい、私の可愛いアリー?」
「降ろして?
厨房行きたい。
従兄様はいつもの客間で待ってて。
父様はこのまま執務室行くのかな?
それともご一緒する?
従兄様と何かお約束してた?」

 少し体を離して切れ長の凛々しいお顔を腕にお尻を乗せてるせいか少し高くなった位置からのぞく。

「約束はしていないけど、私も一緒しようかな。
ガウディード、いくら従兄妹でも先ぶれもなく突然来て私の可愛いアリーに個人的なお願いをしたいなら、私に前もって声をかけるべきだろう?
私の可愛いアリーはもう立派な淑女だよ」

 ふぐっ。
淑女がお子ちゃま風抱っこされて、にこにこしてたんだけど。

 義父様、地味に僕にブーメランが····。

「はい、もちろんそのつもりでしたが、叔父上がいらっしゃらなかったので。
それに可愛い従妹に一言デビュタントを、成人の儀を迎えたお祝いを直接伝えたかったものですから」

 ····嘘だ!
顔合わせた途端に僕のジュースをカツアゲしようとしたくせに!

「ほう。
その割りには私の可愛いアリーの果実水を強請っていたと聞いたんだけどね?」
「だ、誰がそんな········あははは」

 僕達のいた場所的に、大方庭師のお爺さんだろうな。

 従兄様はごまかし笑いして僕に助けを求めるような目を向けるけど、知らないよ。

「!!」

 プイッとそっぽを向くとショックを受けたようなお顔になる。

 でもやっぱりちょっと可哀想?

「じゃあ、父様にもできたてとっておきの果実水ご用意するから、待っててね」
「慌てなくていいから、怪我はしないように気をつけるんだよ」
「もちろん。
ニーア、行こう」

 そう言って義父様の気をそらしてあげれば、従兄様のお顔は輝いてる。
相変わらずの顔芸っぷりだけど、そのお顔も嫌いじゃない。
義母様には似てないけど。

 降ろしてもらった僕は厨房へと向かう。
義父様に僕の新作ジュースをお披露目すると思うと、くふふ、と淑女らしからぬ笑いが漏れちゃう。

 何か言いたそうなニーアも僕がピクニックに持って行ってたグラスやお皿を持ってついてくるよ。



※※※※※※※※※
お知らせ
※※※※※※※※※
新章始まりました。
本日2話目です。
お休み中もお気に入り登録していた方もいて、大変喜んでおりますm(_ _)m
明日までは午前と午後に1日2話更新しようと思っています。
お休み中も応援いただいたささやかなお礼の気持ちです。
よろしければご覧下さい。

同時進行中の下の作品もよろしければ。
1話1600文字程度のお話なので、サラッと読める仕様です。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
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