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303.卒業祝いと新生活に向けて〜ルドルフside

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「あの子は人を受け入れるのに時間がかかるんだと思うが、自分を受け入れて愛し続けてくれる者の事はちゃんと受け入れられる子だと思う。
俺は立場からしても、きっと多くの時間を要するだろうが、それでもいつか寄り添うのを許されたい。
あの子が寂しくなった時は、俺の側にいて欲しい」

 今は独占欲が大きくあるわけではない。
未だに体躯の幼いあの子に、男の欲望を吐き出したいとは微塵も思えない。
これが男女の思慕かと問われると、父性に近いのかもしれない。
それでも····側にいたいんだ。

 レイはそんな俺を見透かしたようなため息を吐く。

「ルドのそれが男としての感情かは置いておくけど、それなら先にやるべきことを最速でやりなよ。
忠告しておいたよね?
中途半端な強さでアリアチェリーナ=グレインビルの側にいると死ぬって。
何度でも言うけど、それができなければ僕の可愛いアリーに近づかせないよ?」
「わかっている。
そうしなければあの子も許してはくれなさそうだ。
王家が約束した接近禁止の期間を過ぎるまでに、準備する」
「それから僕の可愛いアリーの気持ちを無視して手を出そうとしたら、殺すから」

 言葉と殺気が一々物騒だ。
俺、一応王子····。

「無論だ。
それに俺はロリコンじゃない。
体がまだ幼いのに何かしら手を出したいなんて思っていない」
「ふん、僕の可愛いアリーに寄り添うなんて言うだけでも不潔だね」
「いや、他にどう言えと····」

 殺気の中に先程までのような明確な殺意は無くなった。
いつもの殺気に戻ったから、排除の危険は去ったと思う。

 ほっとして、ふと、いつもの殺気って何だろうな、と自問自答する。
何だかレイに色々毒されている。

 まあ仕方ない。
俺は目の前のこの男の事が好きなんだから。
もちろん男色的な意味ではない。

「城の近くまで送っていくから、ルドはもう戻りなよ。
魔力も無いみたいだし、今すぐのA級冒険者になるより大事な事に気づいたでしょ」
「····お見通しだな」

 思わず苦笑した。

「君との付き合いも一応長いからね。
来月からは学園の臨時講師としても働くんでしょ?」
「ああ。
兄上から学園の講師と留学生達の指導を頼まれた。
王子としての仕事もあるから、正規の講師にはなれないが」
「そう。
これ、卒業祝い。
これからのルドにぴったりな機能付きだ」

 そう言って懐から取り出した耳飾りとブレスレットを無造作に渡された。

 耳飾りは赤い、小さな丸い石だ。
ブレスレットは金属製の輪に内側に4つの石が等間隔に付いている。
石の色は青、黒、白、金。

 どちらも見た目はシンプルだ。

「それ、例外はあるけど1度つけると製作者の僕以外は外せない仕様になってるんだ。
でも両方に目くらまし機能がついているから、見えなくする事もできる。
ブレスレットは自動調節機能がついていて、腕のどこにつけても止まる。
効果は····」

 やはりレイの作る魔具は高性能だった。
レイの説明を聞いて確かにこれからの生活に必要な機能だと納得する。

「相変わらず、レイの情報収集力は凄いな」
「情報収集って大事だよ。
ルドももう学生じゃないからね。
自分独自の情報収集源は持つようにした方がいい。
精査する力も自然と身につく」
「う····わかった」

 そうだな。
これからもっと力をつけると言ったばかりだ。
少しはできる王子になってきたつもりだったが、レイと比べると改めて先は長い。

「落ち込む暇なんてないよ。
これから君の周囲は何かと不穏になりそうだろう?
闇の精霊が常時張りついてたり、できる専属護衛がいるザルハードの第1王子はともかく、ルドにはまともなのがついていないからその代わりだ」
「その上察しが良すぎる。
だが、ありがとう、レイ」
「僕の可愛いアリーに迷惑かけられたくないだけ。
それじゃあ、行こうか」
「ああ、頼む」

 途中、乗って来ていた数年の付き合いの竜馬を拾いに行った。

 少し離れた場所に愛馬のポニーちゃんに跨がる心の妹とお馬さん3兄妹が散歩していた。
墓参りの帰りにそのまま立ち寄ったようだ。

 その楽しそうな笑顔にほっとしたが、どこぞの殺気が怖かったから声をかけず、また有無を言わせない転移に合い、気づいたら城門近くに戻っていた。

 ふん、という鼻息を置土産に殺気はいなくなった。

 何だかなー、と思っていたら愛馬が慰めるように軽く頭を擦りりつけてきて、癒やされた。
そういえば、ここ最近で初めて誰かに慰められた気がする。

 お前、いい奴だな····。

 自室に戻って一息ついて、改めてここ何ヶ月かに思いを馳せる。

 最初は心の妹がただ心配でヒュイルグ国に赴いたが、随分と自分の中のアリアチェリーナという存在が変化したと思う。

 ヒュイルグ国で知らなかった一面を目にし、あの子の傷と秘密の片鱗に触れた。
思っても見なかった内面の苛烈さには正直面食らったし、抱えているだろう秘密は大きくて仄暗さも感じる。

 けれど初めて会ったあの茶会の時からずっと特別だった。

 最後にあんな寂し気な顔までされたら、自覚しないはずがない。

 結局、焦る事を止めて確実な一歩を選んだ俺がA級冒険者となったのは、新生活が始まってしばらくしてだった。

 だが何年後かに、成長していくアリアチェリーナを前に更に変化していったこの想いを抱えて振り返ってみれば、それが正しかったのだと思うだろう。


※※※※※※※※※
後書き
※※※※※※※※※
いつもご覧下さりありがとうございます。
お陰様で、やっとルドルフが自覚するに至りました。
このお話でこの章は完結します。
話を少しばかり動かそうとしたら、思ってた以上に動きました。
そして思ってた以上の長編····。
他の作品も投稿し始めて正直ちょっと疲れたので、次の章にいくまでに数週間お時間下さい。
でも間で小話は挟むかもしれません。

お暇でしたら同時進行中のこちらをご覧下さい
今のところ毎日更新しています。
【稀代の悪女と呼ばれた天才魔法師は天才と魔法を淑女の微笑みでひた隠す~だって無才無能の方が何かとお得でしょ?】
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