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264.献血と悪魔と化け物のイチャイチャ〜エヴィンside

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「なあ、こんなちゃんとした器具あったのかよ」

 腕に刺さる鉄製の針。
そこから延びる細長い透明の管。
管は魔具らしき箱に入っている透明で軽そうな袋に繋がっていて、俺の赤い血液が袋にどうしてだか勝手に流れていく。

 あの時の鳥の羽根やら獣の膀胱やらとは全く違う、見た目からして清潔そうなと呼ぶに相応しい代物。

「ふふふ、レイヤード義兄様と一緒に作ったんだよ。
ねー」
「ねー。
僕の可愛いアリーに可愛くお願いされたら張り切ってしまうよね」

 義理の兄妹が顔を見合わせて笑い合う。

 俺には決して向けられる事のない邪気のない、年相応の可愛らしい笑みに心が少しばかり締めつけられる。

 手術を受けると兄弟で返答した数時間後、指示通り1人で化け物兄妹の部屋に転移すればグレインビルの次兄と妹がいた。

 早朝に俺の寝所への突撃訪問の片棒を担いだ長兄は自国の王太子に呼ばれて出ているらしい。

 例の専属侍女は主のコリンジュースだけを置いて早々に裏に引っこんだ。
主に似て良い度胸してるよな。

 そのままテーブルに座るよう促されれば、双子の兄の手術の為に俺の血を寄越せときた。
手術中は必ず大量出血するからだと聞かされれば、即座に了承した。
治癒魔法でも血を補うのだけは不可能だからだ。

 するとその場で血を採ると告げると椅子に腰かけた俺の腕はテーブルの上で針と管に繋がれたこの状態となった。
幅のある紐で針と管を腕に固定しているから多少動いても痛くはない。
刺してんのに痛くないとか普通に驚きだ。

 あの伝染病の時のユエキと同じように、テンテキで血をラスティンの体内に送るのかと聞けば肯定された。

『採取した血は状態保存の利くマジックバックで保管するんだ。
輸血する時は袋に状態保存の魔法をかけて血が固まらないようにして使うよ。
でないと血が固まっちゃうから』

 そう説明した後、手術までの間、週に1度1袋ずつ血を採るから体調管理を徹底し、回復魔法をかけておくようにと注意された。

 そして····。

『馬鹿なの?
君、そんなんでも一応国王でしょ。
本当は最低でも数ヶ月空けるものなんだけど、血の気多そうだし回復魔法があるからとりあえずその頻度でやってみようとしてるんだ。
回復魔法かけても失った血が増えるわけではないから、貧血の症状が出たら報告して。
1番いいのはイチランセイ双生児っぽい君の血だけど、他の人から採る方法も無くはないから』

 もっとたくさん取ってもいいと言ったら罵倒····いや、あいつなりに心配してくれた····と信じたい。
イチランセイとはどういう意味なんだろうかと思ったが、あまりに面倒そうに言われたからタイミングを逃した。

 にしても管も箱もそうだし、何より透明で軽そうな袋なんて初めて見たぞ。
どうやって作ったんだ?
この袋、色々使えそうじゃねえ?

「えへへー。
兄様大好き!
天才!」
「僕も大好きだよ、可愛いアリー」

 で、この状態で俺は何を見せられているんだろうな。

 幼児の頃とは違う、ぷるぷるしないしっかりした手つきで針を刺し、紐で縛った後は次兄と仲良く並んで座ってニコニコと顔を見合わせた末に暇があれば椅子に座って隣の兄に抱きつく。

 針を刺された時に触れた小っこい手の温度が高かったから、熱が出てきているんだろうかと内心心配しているが、そんだけくっついてりゃ兄も気づいて対処すんだろ。

 ほら、水分補給を促した。

「ふぅ。
コリンジュース美味しい。
バルトス兄様の氷は溶けなくていいね」
「ふん、僕の可愛いアリーの為に今度こそ溶けない氷を作るから」

 あの長兄もこの次兄もどんだけ妹挟んでライバル視してんだよ。
つうかこの程度でその目つき、やばいだろ。

「わー、楽しみ!」

 愛しの化け物よ。
殺人犯みたいな兄を前に能天気に喜んでんじゃねえよ。
この兄弟が本気で殺り合ったら城が崩壊すんだろ。
止めてくれよ、絶対。

 にしてもどんだけイチャイチャしてんだ。
俺、一応国王って立場だけど他国の令嬢のお前に婚約の申し出を何回かしたくらいにはお前に惚れてんだぞ?

 あの日のお前と専属侍女の事を最後まで聞いた今じゃ、2度とそんな話出来ねえけどよ。

 くそ、兄の奴、愛しの化け物の脇に手を入れて膝に乗せやがった。
チラッとこっち見てほくそ笑むな!

 お前もお前で首に抱きつくな!
久々に会う恋人みたいに熱い抱擁してんじゃねぇよ!
血の繋がらない兄だろう!
本当にそういう関係じゃねえよな?!
しかも俺からすりゃ幼児に毛が生えたっくらいの小っこさだがな、もうすぐ成人だろう!

 あー、くそっ········羨ましいだろうが。

「あの時はまだこういうのを作るなんて考えた事も無かったから、何の用意もしてなかったんだ。
これも母様の心臓病の為に準備してたやつだし。
それに今、当時のあの場面に出くわしたとしても、患者の人数があんなに多かったら足りるほどには用意できないよ」

 そう言って兄の首に腕を回したまま、顔だけ俺に向けた。

 ····こんなんあったのか発言の回答に戻ったのか。
間に悪魔と化け物のイチャイチャ挟んだからすっかり頭に無かったな。
つうか自由かよ。

「しかもあの伝染病は感染力が強い。
感染対策の知識もまともにない人が下手に使いまわしてたら必ず二次感染が起こってたはずなんだ。
お手軽な素材で手っ取り早く器具を大量に作って使い捨てにする方が安全だったんだよ。
それにあの病気を直接的に治す薬は存在してない。
体から出て行った体液の代わりを補充して自浄作用で病原を体外に排出させつつ自然回復させる以外に方法はない。
下手をすれば明日には亡くなりそうな重症者も多かったから時間との勝負だったんだし、見てくれをかまってる余裕もなかったのは君もわかってるでしょ。
まあ見た目は悪かったのは認めるけど、煮沸して魔法で洗浄後に消毒液につけこんだ上で1日以内に使用して廃棄する分には問題無しと判断してたし、実際問題無かったでしょ」

 相変わらずこいつのこの手の話は俺には小難しいんだよな。
わかるのは医療知識がずば抜けて非常識で正しかったってだけだ。
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