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241.化け物の誘拐〜エヴィンside
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「何だと!!!!」
報告を受けた瞬間、叫んでバンッ!とテーブルを叩いて立ち上がる。
ヒルシュが戻り、愛しの化け物は義兄に抱かれて可愛らしくうとうとしていたと報告を受けていた。
少し顔色が悪くなっていたから熱でも出すかと思ったが、安らかに寝ていたと聞いてひとまずほっとしていたというのに、連れ去られただと?!
「どうしてそうなった!!
護衛達は?!
あの兄は何をしていた?!」
「大公閣下が発作を起こし、救命処置をしている間に魔人属とおぼしき男に転移で連れ去られました!」
「くそっ!」
すぐに兄の元へ走る。
まだ1日に何度も転移ができないのがもどかしい。
このタイミングで現れる転移ができる魔人属の男なら、間違いなく例の誘拐犯の1人だろう。
最初は連中がアドライド国でやらかした王族誘拐の腹いせに、お粗末な反逆者達を囮にしてあの化け物を殺すのが目的かと思ったが、それにも違和感があった。
もちろん逆恨みで殺意の強い元王女をけしかけたから、その可能性を考えないわけにもいかない。
だが元王女を捕らえた時に誘拐犯は誰も側にいなかった。
化け物を狙ってたんなら俺が護衛をつけていたのも、あの義兄がいるのも気づいていただろう。
あの元王女程度の実力じゃあいつにかすり傷すら負わせられるはずがない。
だとしたら最初から反逆者達を囮にして、あいつを拐うのが真の目的だったんじゃないか?!
あいつの守りはかなり堅い。
グレインビル領にいる間はほぼ不可能だ。
あいつが拐われる度に守りが強化されるし、家族だけじゃなく領民含めて周りの連中の戦闘能力が根本的に年々底上げされている。
今じゃ鋼の要塞のど真ん中で守られてるようなもんだからな。
だとしたら隙ができるのは領どころか、国から離れた今のタイミングくらいしかない。
挙げ句、あいつは護衛に特化している専属侍女を連れていない。
俺が殺したあの時の専属侍女の影響があいつの中で今も何かしらあるからわざと置いて来たのは間違いない。
あいつが3才くらいのよちよち歩きのガキだった頃の事をこんなきも明確に覚えてるなんて、どんな頭脳を持ってやがるんだ。
だから俺は俺の愛しの化け物を手に入れられない。
こんな形で返ってくると知っていれば····いや、当時に戻れたとしても俺は同じ選択をしただろう。
あの時あいつの専属侍女を殺したからわずかでも国から食料の物資が届いた。
死ぬはずの領民は命を繋げたのだから。
そしてあいつは殺すはずの俺を王にする手はずをほんの1週間程度で整えた。
私情は胸の内に押し込んで。
いつぶっ倒れても不思議じゃない見た目3才の幼児が俺に与えたのは、化け物並みの知識。
そして領主だった俺の領民全てを人質に取った末の化け物並みの謀略だ。
あの時一緒にいたもう1人の見目麗しい、燃えるような長く真っ赤な髪と光の角度でその青さを変える特徴的な目をした化け物は、あの時以降1度も姿を見せていない。
あの青年がその気になれば、貧弱だった当時のこの国なら簡単にたった1人で制圧できただろう。
そう思わせるほどの純粋な力の権化とその存在感。
あの青年は口答えすれば平気で猛火を生み出し、人でも物でも一瞬で燃やした。
当時の青年を知る者の1人にゴードン=アルローがいる。
彼の上司にあたる当時の隊長は一瞬で灰にされた1人だ。
その男は国王の息のかかった者で、時々こちらの邪魔をしていた。
思い返せばそんな奴らばかりが最初に幾人か見せしめのように青年に焼き殺された。
集めた10名にならないくらいの上層部の、そんな奴ら数名ばかりが愛しの化け物に食ってかかり、焼かれた。
全員が驚愕し、中には顔を背ける者もいる凄惨な光景だ。
『信用のおけない腐ったコリンは早めに捨てないと周りを腐らせるからね。
これで少しは楽に事を進められるね』
可愛らしい顔の幼児は冷笑を浮かべてそう言いながら、謀略の話を淡々と進めた。
今思い出しても軽く恐怖を感じる光景だ。
『お前達、勘違いしてないかな?
この領に人っ子一人いないように完全に掃除する方がこっちは簡単なんだよ?』
青年の援護射撃は恐らく実現可能だとその場の誰もが直感した。
『だからそうならないように、俺の愛し子の言う事には素直に首を縦にふろうね』
軽い口調で暴君まがいの言葉を吐くそんな男は、俺の愛しの化け物の支配下に置かれていた。
国王なんて立場にいれば身にしみて思う。
純粋な力や魔力など、当人に無くてもどうとでもなるのだと。
そんなものは外注すればいいだけだ。
上に立つ者に必要なのは強い者を自身に惹きつける魅力と、それを御して使うべき場所とタイミングを適切に見計らえる智力に基づいた先見の目だ。
魔力が無かろうが、あいつは強い。
計り知れない智力はもちろん、生粋の人誑しで強い者を引きつける。
それにあいつの物事の捉え方は、実際に人の上に立った事がある者のそれだ。
時に情を、時に無情を、時に明確な殺意を振る舞う感性もそうだ。
だから化け物。
あいつと初めて出会って過ごした1週間で、俺は何度もあいつの謀略に畏怖した。
今もそうだ。
俺が唯一畏怖する化け物だ。
なのに小さくて虚弱な体を気力だけで不眠不休で動かす様子はあまりに痛ましく、同時に愛おしいと感じた。
今もあいつの顔色が優れないだけで心配で、あの時のあの赤毛の青年のように、あの義兄のように抱き上げて膝に乗せていたい。
そんな愛おしい化け物が拐われた。
許せるはずがない!
担ぎ込まれたらしい部屋に行けば、自分と同じ顔が顔面蒼白となって眠っていた。
唇の色も青紫色でかなり状態が悪いのは一目でわかる。
「落ち着きなよ。
ひとまず命は繋ぎ止めたんだから」
ベッドの横に腰かけていた、相変わらず小憎たらしいグレインビルの1人はそんな俺にため息を吐いた。
「落ち着け?
兄が目の前で死にかけ、大事な者が連れ去られたのにか?!」
怒りに沸く頭を抑えきれない。
ここにあのアドライド国の王子がいないだけ感情を吐き出しやすいのもある。
あの王子達は別室で待機しているらしく、この場にはいない。
「そうだよ。
アリーは問題ない。
連れ去られても命の危険はまずない。
アリーだって拐われた時の対処は心得ているんだ。
それにアリーが望んだから僕は今ここにいる。
この意味はわかるでしょ。
だけどいくら妹の望みでも、僕だってこんな所で時間を無駄にしたくはない。
心配じゃないわけじゃないんだ。
君がこのまま冷静になれないなら、さっさと見捨ててアリーを探しに行くんだけど?」
そうだ。
あの化け物が留まるよう望まない限り、この義兄が、グレインビルが留まるはずがない。
ふうっと息を吐く。
「悪い。
それで、兄の様子はどうなんだ。
お前がこの場に留まるのをあいつが望んだ理由は?」
「君の兄の心臓に言葉そのまま雷を落とす為」
「おい?!」
思わず素でつっこんだ。
報告を受けた瞬間、叫んでバンッ!とテーブルを叩いて立ち上がる。
ヒルシュが戻り、愛しの化け物は義兄に抱かれて可愛らしくうとうとしていたと報告を受けていた。
少し顔色が悪くなっていたから熱でも出すかと思ったが、安らかに寝ていたと聞いてひとまずほっとしていたというのに、連れ去られただと?!
「どうしてそうなった!!
護衛達は?!
あの兄は何をしていた?!」
「大公閣下が発作を起こし、救命処置をしている間に魔人属とおぼしき男に転移で連れ去られました!」
「くそっ!」
すぐに兄の元へ走る。
まだ1日に何度も転移ができないのがもどかしい。
このタイミングで現れる転移ができる魔人属の男なら、間違いなく例の誘拐犯の1人だろう。
最初は連中がアドライド国でやらかした王族誘拐の腹いせに、お粗末な反逆者達を囮にしてあの化け物を殺すのが目的かと思ったが、それにも違和感があった。
もちろん逆恨みで殺意の強い元王女をけしかけたから、その可能性を考えないわけにもいかない。
だが元王女を捕らえた時に誘拐犯は誰も側にいなかった。
化け物を狙ってたんなら俺が護衛をつけていたのも、あの義兄がいるのも気づいていただろう。
あの元王女程度の実力じゃあいつにかすり傷すら負わせられるはずがない。
だとしたら最初から反逆者達を囮にして、あいつを拐うのが真の目的だったんじゃないか?!
あいつの守りはかなり堅い。
グレインビル領にいる間はほぼ不可能だ。
あいつが拐われる度に守りが強化されるし、家族だけじゃなく領民含めて周りの連中の戦闘能力が根本的に年々底上げされている。
今じゃ鋼の要塞のど真ん中で守られてるようなもんだからな。
だとしたら隙ができるのは領どころか、国から離れた今のタイミングくらいしかない。
挙げ句、あいつは護衛に特化している専属侍女を連れていない。
俺が殺したあの時の専属侍女の影響があいつの中で今も何かしらあるからわざと置いて来たのは間違いない。
あいつが3才くらいのよちよち歩きのガキだった頃の事をこんなきも明確に覚えてるなんて、どんな頭脳を持ってやがるんだ。
だから俺は俺の愛しの化け物を手に入れられない。
こんな形で返ってくると知っていれば····いや、当時に戻れたとしても俺は同じ選択をしただろう。
あの時あいつの専属侍女を殺したからわずかでも国から食料の物資が届いた。
死ぬはずの領民は命を繋げたのだから。
そしてあいつは殺すはずの俺を王にする手はずをほんの1週間程度で整えた。
私情は胸の内に押し込んで。
いつぶっ倒れても不思議じゃない見た目3才の幼児が俺に与えたのは、化け物並みの知識。
そして領主だった俺の領民全てを人質に取った末の化け物並みの謀略だ。
あの時一緒にいたもう1人の見目麗しい、燃えるような長く真っ赤な髪と光の角度でその青さを変える特徴的な目をした化け物は、あの時以降1度も姿を見せていない。
あの青年がその気になれば、貧弱だった当時のこの国なら簡単にたった1人で制圧できただろう。
そう思わせるほどの純粋な力の権化とその存在感。
あの青年は口答えすれば平気で猛火を生み出し、人でも物でも一瞬で燃やした。
当時の青年を知る者の1人にゴードン=アルローがいる。
彼の上司にあたる当時の隊長は一瞬で灰にされた1人だ。
その男は国王の息のかかった者で、時々こちらの邪魔をしていた。
思い返せばそんな奴らばかりが最初に幾人か見せしめのように青年に焼き殺された。
集めた10名にならないくらいの上層部の、そんな奴ら数名ばかりが愛しの化け物に食ってかかり、焼かれた。
全員が驚愕し、中には顔を背ける者もいる凄惨な光景だ。
『信用のおけない腐ったコリンは早めに捨てないと周りを腐らせるからね。
これで少しは楽に事を進められるね』
可愛らしい顔の幼児は冷笑を浮かべてそう言いながら、謀略の話を淡々と進めた。
今思い出しても軽く恐怖を感じる光景だ。
『お前達、勘違いしてないかな?
この領に人っ子一人いないように完全に掃除する方がこっちは簡単なんだよ?』
青年の援護射撃は恐らく実現可能だとその場の誰もが直感した。
『だからそうならないように、俺の愛し子の言う事には素直に首を縦にふろうね』
軽い口調で暴君まがいの言葉を吐くそんな男は、俺の愛しの化け物の支配下に置かれていた。
国王なんて立場にいれば身にしみて思う。
純粋な力や魔力など、当人に無くてもどうとでもなるのだと。
そんなものは外注すればいいだけだ。
上に立つ者に必要なのは強い者を自身に惹きつける魅力と、それを御して使うべき場所とタイミングを適切に見計らえる智力に基づいた先見の目だ。
魔力が無かろうが、あいつは強い。
計り知れない智力はもちろん、生粋の人誑しで強い者を引きつける。
それにあいつの物事の捉え方は、実際に人の上に立った事がある者のそれだ。
時に情を、時に無情を、時に明確な殺意を振る舞う感性もそうだ。
だから化け物。
あいつと初めて出会って過ごした1週間で、俺は何度もあいつの謀略に畏怖した。
今もそうだ。
俺が唯一畏怖する化け物だ。
なのに小さくて虚弱な体を気力だけで不眠不休で動かす様子はあまりに痛ましく、同時に愛おしいと感じた。
今もあいつの顔色が優れないだけで心配で、あの時のあの赤毛の青年のように、あの義兄のように抱き上げて膝に乗せていたい。
そんな愛おしい化け物が拐われた。
許せるはずがない!
担ぎ込まれたらしい部屋に行けば、自分と同じ顔が顔面蒼白となって眠っていた。
唇の色も青紫色でかなり状態が悪いのは一目でわかる。
「落ち着きなよ。
ひとまず命は繋ぎ止めたんだから」
ベッドの横に腰かけていた、相変わらず小憎たらしいグレインビルの1人はそんな俺にため息を吐いた。
「落ち着け?
兄が目の前で死にかけ、大事な者が連れ去られたのにか?!」
怒りに沸く頭を抑えきれない。
ここにあのアドライド国の王子がいないだけ感情を吐き出しやすいのもある。
あの王子達は別室で待機しているらしく、この場にはいない。
「そうだよ。
アリーは問題ない。
連れ去られても命の危険はまずない。
アリーだって拐われた時の対処は心得ているんだ。
それにアリーが望んだから僕は今ここにいる。
この意味はわかるでしょ。
だけどいくら妹の望みでも、僕だってこんな所で時間を無駄にしたくはない。
心配じゃないわけじゃないんだ。
君がこのまま冷静になれないなら、さっさと見捨ててアリーを探しに行くんだけど?」
そうだ。
あの化け物が留まるよう望まない限り、この義兄が、グレインビルが留まるはずがない。
ふうっと息を吐く。
「悪い。
それで、兄の様子はどうなんだ。
お前がこの場に留まるのをあいつが望んだ理由は?」
「君の兄の心臓に言葉そのまま雷を落とす為」
「おい?!」
思わず素でつっこんだ。
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