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221.女狐=色気ムンムン悪役令嬢

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「お前のせいで私の可愛いビアンカが牢に入れられて濡れ衣を着せられたのよ!」

 ん?
突然何事?

 声の主を見やればそこには憤怒の形相の宰相夫人。
相変わらずのきらびやかなドレスと毛皮コーデだけど、濡れ衣とはこれいかに?

 夫人の憎悪に駆られた目は真っ直ぐ僕に向けられている。

 咄嗟に王子が対面していた僕達を、ずっと黙って見守っていたシル様とコード令息は王子含めた僕達を背後に庇う。

 ゴードンお爺さんは僕の前に立ったまま、やれやれってため息吐いてるね。
お城勤めが長いから夫人に慣れてるだけあるよ。
でも夫人が何かしてきたら僕を庇える立ち位置だ。
さすが元軍人さん。

 そして侍従扮する義兄様が僕の背後に回ったと思ったら、バックハグされた。
背中が温かいね。
皆夫人に釘づけだし、夫人からも僕は目の前の人達で見えない。

 誰も僕達を見てないからか、義兄様は僕の頭頂部に頬ずりしてくる。

 義兄様ってば体は冒険者らしい感じで大きくなってるのに、可愛いが過ぎるね。
上を見上げて綺麗な赤目と微笑み合う。

「コンプシャー夫人、何事であろうか?
まさかとは思うが、グレインビル侯爵令嬢へ向けての物言いか?」

 そんな僕達をよそに王子は厳しい声を発する。

「左様ですわ!
その女狐が陛下や重臣達を唆してビアンカを陥れたのです!」

 うわぁ、僕女狐なの?!
これって大人の魅力が溢れてきたって事かな?!
ふふふ、美少女から美女に格上げされたんじゃない?!
あのラノベ的な色気ムンムン悪役令嬢に成長してるって事だよね?!

 ん?
コード令息が僕の方を気遣わしげに軽くみて、呆れたお顔になった?

 大人の女へランクアップの手応えを感じて笑顔になっちゃまずかったかな。

「我が国の貴族令嬢に対しての先日からの数々の暴言、いよいよ目にあまるぞ」

 どうした、王子。
王子らしい物言いだね。
れっきとした王子だけど。

「それが何か?!
私はクェベル国元王女にして今はこの国の王位継承権を持つ宰相を夫にする筆頭公爵夫人でしてよ!
その賤しいどこの馬の血を引くともわからぬ他国の侯爵の養女とは血筋も格も違いますわ!
可哀想な血筋正しき我が娘のビアンカは、その女狐にはめられて牢で泣いておりました!
あの子はこの国の血統としては更に由緒正しい血筋ですのに!
他国の王子とはいえ、このような非道な仕打ちを何故黙って見ておられたのですか?!」

 あらら、なかなかの無茶ぶり理論が来たな、これ。
金切り声ってこういうのなんだろうね。
興奮してていつもより高い声だ。
お耳が痛くなりそう。

 シル様は大丈夫かな?
最前列で金切り攻撃受けてるけど。

 それにしても、この国の血統としては更に由緒正しい血筋なんて大声で言っちゃって。
興奮しすぎじゃない?
騒ぎで兵士さんが集まり始めたけど大丈夫かな?

 確か夫人の名前は····うーん····忘れた。
コンプシャー公爵夫人なのは間違いないからそれでいいや。

「コンプシャー公爵夫人、どうされましたの?
私はコンプシャー公爵令嬢が牢に入れられた事も知りませんでしたのよ?」

 一応声かけしておく。
予想通りではあるけど、知らないのは間違いないからね。

「白々しい!
よくもそのような戯れ言を!」
「それにご令嬢が父君より由緒正しい血統のような言い方をされるのも良くありませんわ?」

 ついでだから白々しく注意しといてあげようか。

「離しなさい、この無礼者!
ビアンカは王族直系の血を引いているの!
お前など不敬罪で処刑してやるわ!」

 声が近づいてきたからこっちに来ようとしたんだろうね。
多分シル様に止められたのかな。

 僕の注意が煽りになっちゃったのかな。
王族直系の血、かあ。
誰の血を引いたのかな?

「魔法をこちらに向かって使えば、我が国の王族を害する者として貴女を排除せねばならない。
下がられよ」
「黙りなさい!
たかが獣人如きが無礼な!
立場を弁えなさい!
王子ではなくあの女狐を成敗してやるのよ!」

 うっわ。
こっちに向かって攻撃しようとしたの?
それは例えば現在もどこぞの王女的な立場で逆に成敗されたとしても、シル様は罪に問われないやつだよ?

 それにしてもどこぞの国王とその側近は何してるのかな?
こんなの野放しにしたりして。
娘を牢に入れればがどう出るか分かってるよね?
監視してるよね?
他国の人にあわよくば成敗されるの待ってるとか?

「ふざけてるのかな?」

 小さく口にする。

 罪に問われないからって言っても、もし実行すればシル様が他国で気まずい思いやら事情聴取されたりやらするのは間違いないんだけど?

 やっぱりこの国から早く出たいな。
こういう些事で苛つかされるのは、ねえ。

「アリー」

 義兄様が耳元で囁く。
ただ呼ばれただけだろうけど、ささくれ立った心が幾らか凪ぐ。

「····ん、平気」

 まだハグしてくれてる腕に両手を添わせて義兄様補給だ。

「テゼリア=コンプシャー!!!!」
「ぎゃあぁぁぁぁ!!」

 不意に怒声が響き、カマイタチが夫人を四方から襲い、直後に彼女の足元で火球が爆発する。

 うわ、血しぶきと叫び声を撒き散らして夫人が後ろに吹き飛んで地面に叩きつけられちゃった。

 思い出した。
夫人の名前はテゼリアだったね。

「····な、な····」

 大袈裟な動きだったけど、ダメージは大してないのか。

 髪を振り乱しながら上半身を何とか起こした彼女は顔面蒼白でショックからかわなないて言葉が出ないみたい。

 今まで暴力を振るう側でしかなかった彼女が、暴力を振るわれる側に立ったんだから当然かな。

 悠然とした足取りで彼女に近づくのは青みがかった黒髪に水色の目をした宰相。
無表情に殺気を纏う彼はまさに氷の宰相のような鋭利な冷たさを感じさせる。

 そんな夫に恐怖を感じたのか、逃げようとお尻を雪に埋没させたままズリズリ後ろに下がる夫人。

「ん?!」

 突然義兄様に縦に抱き上げられてちょこんとその腕に座らされる。

「悪かった。
わざとじゃねえんだ!」

 すると焦った様子で最近覚えたらしい転移魔法を使って僕の隣に来たのは、向こうの彼と同じ髪にレモン色の目をした、どこぞの国王だった。
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