上 下
185 / 491

184.捕まえて欲しい魔獣

しおりを挟む
「ニーア、私のお部屋の机の一番上の引き出しにあれが入っているの。
取ってきて」
「アリー?」

 扉近くのニーアが出て行くのを横目に訝しげなレイヤード義兄様のお顔が僕をのぞき込む。
大丈夫。
僕はまだ決めていないから。

 バルトス義兄様は僕をしばらく見つめてからゼスト様に尋ねる。

「ウィンスには将来的にお前が西諸国との新たな取り引きの権限を一任される可能性の話はしたのか?」
「話はしたというか、読まれて先に話をされたというか。
その、私は口頭で告げられたがそれ以外の書簡等での確約は受けていないのだ」
「要求したのか?」
「····いや」

 やっぱり。
ウィンスさんは敢えて言及したんだろうね。

「ウィンスは何と言った?」
「自分をサポートできる側近を早急に作れと。
祭りの一件については慰謝料と補償金で矛を収めるが、慰謝料については相手が未成年である以上両親である国王、王妃、側妃の名義で支払えと。
それがブランドゥール国とアドライド国にも正式通達しない、非公式にする条件だと」

 ウィンスさんやるね。
慰謝料に王妃も加える所が大事なんだよ。
それに今のゼスト様の立場では仮に将来的な約束を書面なんかでしてたって商会としては大して意味がないんだ。

 商人は先見の明と実利を追求してナンボだよね。

 それにしてもザルハード国王妃の生家の現状が気になる。
と。
ウィンスさんは何か気づいてるのかな?

「慰謝料については後日となったが、両陛下が真っ先に了承した事により側妃も首を縦に振った」

 なるほど。
これでアボット商会は労せずしてその名を国の2トップに宣伝できたわけか。
将来的なザルハード国への進出の足がかりにはなったんじゃないかな。

「それで、最後と指定されていた師匠とその家族への名誉棄損に対してなのだが····」

 ゼスト様は僕の方をチラッと見る。
七光り王子の暴挙はもちろん具体的には伝えてない。
最初の謝罪で何かしらはバレてたと思うけど、腕を掴まれたまでは知らないはず。
少し前のルド様の不用意な爆弾発言に対しての僕の態度で何かを察してくれたみたいだね。

 その行動で何かしら気づかれた気がしないでもないけどね!
義兄様達2人して無言で僕のお顔をのぞくの止めてくれない?!

「····照れちゃう」

 美形2人に至近距離でお顔見られると恥ずかしいんだからね!
カッコいいの暴力だよ!
思わずお顔を両手で覆っちゃう!

「僕のアリーは可愛いね」
「俺の天使は可愛いな」

 息ぴったりに言葉をシンクロさせる義兄様達は素敵に無敵だ!

「アリーは照れ屋さんだね。
それで、肝心の師匠達と責任者として話さなくていいの?」

 ギディ様ってば時々絶妙なアシストするよね。
もしかして七光り王子と僕のカツアゲ騒動を知ってるのかな?
例の3人に監視を付けてなかったなんてあり得なさそうだし。

「いや、話さなくてはならない。
だが正直バルトス師匠が何を望むのか予想ができなかったのだ。
レイヤード師匠からは言われた通り第3王子とネルシス侯爵令息の反省文は徹夜で何度もやり直しとなったようだが受け取って貰えたと聞いている」
「そうだね。
王族だ、高位貴族だと言うくせにあまりにも酷すぎたから思わず机大破して床で書かせちゃったよ」

 義兄様、器物破損はダメだけど、確かに中身の薄い部分があったからイライラしちゃったのかな?
仕方ないよね。

 ていうかゼスト様はいつの間にか師匠呼びになってない。

「レイ····」

 ルド様ってば、僕の素敵なレイヤード義兄様にそんな呆れた声出さないでよね。
もちろん僕の方をチラッと見てもプイッてそっぽ向いちゃうよ。
まだ怒ってるんだから。

「アリー嬢····」

 う····そんな哀れそうな声出したって知らないもん!

「その、それでバルトス師匠は何か望む物はあるだろうか?」
「そうだな····俺の天使は何か捕まえて欲しい魔獣はいるか?」
「魔獣?」
「ああ。
何でもいい」
「うーん····バリーフェ?」
「「「何故?!」」」

 ロイヤル達も仲いいね。
息ぴったり。

 わあ。
護衛2人のお耳様がピンてしてる!
うっとりしちゃう!

 リューイさんは無表情だけど、ちょっとだけ目がおっきくなった?

「よし、俺の天使が望むならそれにしよう」

 あれ、いいの?
バリーフェって確か····。

「ま、待って、バルトス。
もしかしてバリーフェをくれって言うつもり?」
「別名マグマを泳ぐ魚だぞ?!」
「アリー嬢····」

 ギディ様、多分流れ的にそうじゃない?
本当に捕獲できるかはわからないけど。

 ルド様の言う通り、バリーフェはマグマに住んでてその姿は魚っぽい。
でも僕的には魚というより、あっちの世界の鯨なんだよ。
ただし全長は3メートルくらいでそんなに大きくはないんだ。
数体から10体くらいでマグマの中で群れを作ってる。

 各国の火山地帯に生息する魔獣で、基本的にマグマを潜って移動するからなかなか捕まえられないんだ。
攻撃自体は頭らへんからマグマを吹き上げてぶつける単調なものだけど群れで行動するし、場所的に有毒ガスだって発生する事もあるんだ。

 それに素材的には代用が利く物や、むしろ全く使えない代物ばかりで危険を犯してまで捕るメリットはないとされてる。
冒険者ギルドに頼んでも嫌がられる依頼じゃないかな。
下手したら受け付けすらお断りされちゃうはず。

 だからまあ、ゼスト様が顔を引くつかせて僕のお名前を呆然と呟く気持ちもわからなくはない。
ゼスト様からすれば、ほぼ嫌がらせだよね。

「俺やグレインビル家への慰謝料はバリーフェでいいぞ」
「いや、下手をすればギルドも依頼を断るんだが····」
「何を言ってる?
あの2人とお前で捕るに決まっているだろう。
心配しなくとも他国の留学生だからな。
俺も行く。
そのついでにお前達の甘えた根性を鍛えてやる」

 うん、そんな気がしてた。
何だかんだで師匠って呼ばれて嬉しいのかな?
最後にニヤッと笑う義兄様も可愛いね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

冷宮の人形姫

りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。 幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。 ※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。 ※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので) そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

目が覚めたら夫と子供がいました

青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。 1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。 「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」 「…あなた誰?」 16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。 シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。 そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。 なろう様でも同時掲載しています。

異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?

すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。 一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。 「俺とデートしない?」 「僕と一緒にいようよ。」 「俺だけがお前を守れる。」 (なんでそんなことを私にばっかり言うの!?) そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。 「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」 「・・・・へ!?」 『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!? ※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。 ※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。 ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。

悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない

陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」 デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。 そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。 いつの間にかパトロンが大量発生していた。 ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

処理中です...