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170.3バカ~sideバルトス

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「何だよ、これ。
こんな小さい子供に····」

 黄虎が震える羊少年を慰めるようにギュッと抱きしめている。
白虎は顔をしかめてマセガキに視線を向けた。

『そもそも獣人の孤児なんかがザルハード国王子とその婚約者である私の前に堂々と出てくる事自体があり得ないのよ?
なのにこのブースの責任者を呼びにも行かずに大事なお客様を迎えに行って留守?
いつ戻るかわからない?
責任者の弟が代わりに相手をする?
しかもそいつも野暮ったい獣人····』

 確実に羊少年を叩く動きを見せたマセガキがレイヤードの言葉と共に座り込む。
大方レイヤードの殺気に当てられて腰を抜かしたんだろうが、映像ではそんな事はわからない。

 というか子供達まで当てられてるぞ。
まあ映像ではそこのマセガキに泣かされてるようにしか見えないからいいか。

 その後マセガキがどかされたのはわかったが、都合が良い事に首根っこ掴んで脇にやっただろう映像は映っていない。
多少うめき声が聞こえたが、まあ問題ない。

『よく頑張ったね。
後ろの小さい子達をよく守った。
えらいね』

 俺の天使の要望だったからか、間違いなく天使の言うところの王子様スマイルで治癒魔法使ったな。
子供達がぎゃんぎゃん泣いてたが、大人しくなった。

『あの、私、立てないんですのよ?
ザルハード国の貴族令嬢ですの。
留学を終えたら教会からも聖女認定されますの!
ねえ、手を貸して下さらない?』
『いたいけな幼児を虐げる醜悪な者が聖女、ねえ』
『····え?!』

 そこで映像は途切れていた。

 よしよし、レイヤードは目に見えた危害は何も加えていないな。
最後の媚びる言い方とか、レイヤードの言うところの<性格・女>ってやつで下手したら雷撃してる。

「リリ····これ····」
「あ····あ····違いますの。
こんな映像魔法····嘘に決まってます!
嵌められたの!
信じてコッヘ、エリュウ様!」

 橙頭が信じられない物を見たように目を見開いてマセガキを見れば、マセガキはまるで自分が被害者であるかのように目を潤ませて俺様の胸にしがみついて上目遣いだ。

「····そうだな、リリ。
安心しろ。
こそこそと気配を殺して潜むような怪しい輩の魔法だ。
信じるはずもない」

 マセガキをギュッと抱きしめた俺様がこっちを睨み付ける。

「思い出したぞ。
王宮魔術師団副団長。
この国の辺境の地にいる田舎貴族だろう。
爵位は確か侯爵でお前は嫡子だったな。
だがお前もまたここにいるコッヘル=ネルシスと同じくただの貴族子息だろう!
しかも魔術師家系でありながらお前の義妹は魔力0の捨て子だそうだな!」

 俺様の言葉にピクリとこめかみがひくつく。
橙頭とマセガキが愉悦の顔をこちらに向けた。

「しかも誘拐などされてこの国の王家とも距離を置かれた傷物令嬢だ!
無能な捨て子を養うのに相応しい田舎貴族が王族である俺様の側近や婚約者に随分な口をきいてただで····すむ、と····」
「ひっ」
「え、え」

 いつも抑えている魔力を静かに垂れ流す。
3人の足元が凍り始めるがバカだからか殺気をぶつけるまで誰も途中まで全く気づいていない。

 マセガキは小さく悲鳴を上げ、話の途中で口をつぐんで震え始めた俺様の足元にへたりこむ。
橙頭は言葉にならない何かを呟きながら俺様の後ろで尻餅をついた。

「この国の騎士と魔術師の中でも団長や副団長職にある者は伯爵位以上相当の爵位を持たされている。
お前達のように立場を盾に愚かな暴挙に出る者がいるからな。
そしてグレインビル侯爵家の家格がどこに位置するかも、誘拐事件解決での妹の功績をこの国の王家がどう評価したのかも友好国たる隣国のザルハード国王族であるエリュシウェル=ザルハード第3王子とその側近候補や婚約者が知らないとはな」

 マセガキと橙頭の下半身と床についた手が氷で覆われていく。

「きゃあ!
助けて!」
「や、やめてくれ!」

 大事なはずの婚約者と側近が悲鳴をあげるすぐ側で、俺様の足元だけは靴の底を凍りつかせたところで止めておく。

「なるほど、留学という言葉を隠れ蓑にした間者や王族の名を語る偽物の可能性もあるな」
「何だと?!」

 俺様がパニック気味に吠える。

「わが国の他国との交易に支障をきたした行為に、この国の公にされている騎士や魔術師の爵位制度も、まだ1年程しか経っていない、この国の前代未聞な誘拐事件の全貌も、ここまで把握できていないのだろう?
これは····怪しいとしか言えんな」

 更に殺気を上乗せしてやれば、3バカは一言も声を発する事なく震える。

「ほら、吐け。
何の狙いがあっての行動だ?」

 冷たく目を見れば、3バカは首を横にぎこちなく振る。

「ああ、わかっている。
もちろん素直には吐かないだろう。
そうだな。
ゆっくりと凍らせていく間に吐いた方がいいぞ?」

 さっきまでの威勢はどこにいった?
3バカは目と口を大きく見開き、凍える空間になっているはずなのに汗をかいている。
マセガキは追加で涙をながしているが、少し前の物とは違って真に迫っているじゃないか。

「しかしあくまでもお前達は何も知らない子供だと、言うのならば····平身低頭謝れ」

 その言葉にすがるようにマセガキと橙頭が叫ぶ。

「ごめんなさい!
私が悪かったわ!」
「す、すまなかった!
爵位持ちだと思わなかったんだ!」
「····す、すまな····」

 それにつられるように謝ろうとする俺様の言葉は途中で遮る。

「何を言っている?
謝る相手が違うだろう?」
「「「は?」」」

 やはりバカだな。
想像力が欠落しすぎてないか。

「確かにわが国にも獣人や孤児への偏見はある。
だがそれをわが国の王族も、国の守護を司る職につく俺達も良しとしていない。
大事な民であり、民は宝だ。
そこに貴賓は関係なく、全てがこの国の存続に必要な人財なんだよ。
平民や獣人差別を他国でやる分には口を出さないが、このアドライド国で認める訳にはいかない。
わかるか?
それを国の魔術師としての爵位を持ち、王宮魔術師団副団長という立場の俺が彼らの前で諌めないのは、それを認める事と同意となるんだ。
俺自身が思ってもいない事に同意したなどと取られたい筈もない」

 恐怖と屈辱からか3バカの顔つきが歪む。

「だからな、お前達が彼らにきちんと謝罪した上でお前達の私財から弁償しろとしか俺は言わないし、お前達の俺個人への薄っぺらい謝罪なんぞ、はなからいらないんだよ」

 下半身の凍りついた2バカは絶句する。
靴底だけが凍りついた俺様の次の行動に期待して待つ。

「ふ、ふざけるな!
ザルハード国の王子たる俺様が獣人や孤児共に謝るか!
寮に帰る!
ひとまずお前達の無礼は不問にしてやる!
お前達もへたりこんでないで、さっさと氷を溶かして帰ってこい!」
「「そんな····」」

 俺様の言葉に表情が抜け落ちて呆然と呟く2バカを残して去ろうとして、つんのめる。

 ちっ、転ばなかったか。

「くそ!」

 脱げた床に貼りついた靴にもう1度足を入れて力任せに引き剥がし、どけ!、と威嚇しながら出て行った。

 この後2バカの胸元までじわじわ凍らせながら俺の天使がいかに素晴らしいかをこんこんと説教してやった。
鬱陶しいこの国の王族兄弟が来る前に騎士が殴れば砕ける程度に氷を薄くして、西のブース近くに転移して中に入った。

 結局バカは死ななきゃ治らないんだろうと結論付けられるほどに、自国のバカ王子に見捨てられた2バカはあの黒髪兄弟が到着するまで叫んで悪態をつきまくったと知ったのはもう少し後だ。
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