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134.兄の捜索~sideバルトス

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「グレインビル副団長?!」
「忘れ物ですか?!」

 突然の予定外の転移にホールに残っていた警備達がざわつくが、今は無視だ。

 転移魔具を通ってから暫しの間、どれだけ待っても俺の天使がやってこない。
あの王子バカがまさか何かやらかしてるんじゃないかと一抹の不安を覚えてホールへ転移してみれば、どういう事だ?
ホールにもあの可憐な俺の天使がいない。

 それどころかあのバカも近衛もいない····。

 まさかあのバカが拐ったのか?!

 そういえば前に妹が欲しいとかぬかしやがってたな?!
あの近衛も耳や尻尾撫でられて嬉しそうにしてやがったな?!

 ヤバい、俺の天使が危機だ!!

 王族傍迷惑達の予定外の行動はグルだったのか?!
俺の天使は可愛いからな。
拉致して監禁して愛でたくなるのもわかる。
わかるが、お前ら犯罪だ!!

 よし、あいつら全員消すか。

「おい、王子達はどこへ行った?」

 ひとまず警備に聞く。
大方素知らぬ顔で近衛と共謀して天使を騙して連れ出したんだろう。

「え?
そちらの転移魔具で狩り場へ向かわれたはずですが····」

 何言ってるんだ、こいつら。
あれ使ってたらちゃんと向こうに転移してただろう。
入れ違いになったか?

「いつ転移した?」
「副団長が王妃殿下と向かわれて数分以内には向かわれております」

 ····おかしい。

 念の為、魔石に手をかざして回路を確かめる。

 おい、どういう事だ。

 明らかに赤い魔石に刻まれた回路が書き変わっているぞ。
回数指定で転移先を変更する仕様····それも2重回路にして巧妙に隠してあったらしい。
転移は片道一方通行の1回のみか。

 もうこの魔具は使えないな。
せめて往復だったらすぐに回路から転送先を逆算できたものを、転移した後は転送先がリセットされて消えるよう細工してある。
この状態で逆算できるとしたら魔具作りの才能に長けたレイヤードくらいだ。

 バカ達の共謀じゃないな。
連中だったらそもそもこの魔具にこんな手の込んだ細工はできない。
見た目はデカイが、これはかなり繊細な魔具だ。

 しかし表れたこの回路では魔力耐性が恐ろしく低い天使が空間の歪みに巻き込まれかねない。
下手をすれば切り刻まれるか捻り潰される。

 すぐに広範囲に索敵魔法をかける。
魔力0のアリーだけならわからないが、あのバカがいる。
王族だけあって魔力量だけはいっぱしに多いから引っかかってくれるはずだ。

 何だ?
山側の麓あたりはやけに雑魚っぽい魔獣がわんさかいるな。
間引きしてないのか?

 山頂辺りの上のクラスは多分父上達が魔物呼びの香でも焚いたんだろう。
あれなら麓の雑魚はもう少し下の民家の方には向いて行かないだろうからまあいいか。
山に向かうならちょうど王族も貴族も揃っている。
どうせだったらあの伯父一家もしっかり巻き込まれてしまえばいい。

 しかし山側にはいないな。
となると海側か?

 更に探っていくと上級魔獣のような一団がこの城付近から一直線に海に向かっているのがわかる。
何でこの城あたりから向かってるんだ?
しかもスピードがやけに早いな。

 ····もしかして天使のお馬さん三兄妹か?!

 あの馬は産まれてすぐの頃から天使がお馬さん、お馬さんと言って可愛がっていた。
馬だが腹が立つほどに天使の愛情を注がれて育て上げられている。

 その中でも兄馬のディープはとんでもなく鼻が利く。
特に天使が怪我をして血を流した時にはすぐにどこかから駆けつける。
魔狼かと思うくらいの鼻の良さだ。

 そしてその場に俺がいると何故か蹴りを繰り出してくる。
間違っても俺が天使に怪我をさせるはずがないのにだ。

 中途半端な中級レベルの魔法で攻撃しようものなら魔馬特有の魔力耐性の高さを利用して攻撃魔法をそのまま身に纏って突進してくるし、中級程度の障壁なんか魔力耐性と馬鹿力の共同作業で簡単に踏み抜く。

 時々ご主人様救出訓練と称して天使の専属侍女が得意の火系統の魔法を纏わせた3頭同時訓練のせいで、とんでもない戦力とチームプレイを発揮するまでに成長した。
おかげで3頭は火系統の魔法攻撃ではなかなかダメージを与えられなくるほど耐性を上げているし、足はそこらの軍馬顔負けに早いし動きも俊敏だ。

 負けていられるか!!

 このままではあいつらに先を越される!
すぐに後を追おうとしたが、仕事中の身では天使を優先に動けない。
あのバカを優先するとかあり得んな。

 仕方がないので通信用の魔具でネビルに状況を報告し、この期間にいつでも天使の戯れに付き合えるようにと用意しておいた懐にしまった有休届けを出す。
もちろん天使の捜索と書き込む為だ。

 届けは魔法で鳥に変えて飛ばす。
これでネビルに向かって一直線に飛んで行く。
俺にここ最近天使との団欒を与えなかったのはそもそもあいつだ。
しっかり一直線に飛んでその嘴を存分に突き刺してもらいたい。

 さて、こいつにこんな細工ができるとしたら前の王宮魔術師団団長だったゲドグル=ダンラナくらいだろう。

 あの兄妹の進む先に索敵魔法をかければ不自然に察知出来ない場所が出てくる。

 やはりな。

 その男を直接的には知らない。
だが王宮魔術師団副団長になる時にそれまでの団長職にあった者達の経歴は一通り覚えさせられる。
奴の得意分野の1つが隠密だ。
魔力や気配を探らせないよう広範囲に隠密魔法をかけられる。
だから広範囲に索敵魔法を使える者でなければ探し出せない。

 場所をはっきり掴めない以上、転移魔法は使えない。
仕方ないからこの城の軍馬を拝借するしかないな。

「城には誰も入れるな。
そして誰も出すな。
すぐに王族達が転移してくるはずだ。
対応できるよう緊急配備を敷いておけ」

 一応指示をして軍馬をつなぐ厩舎に転移した。
城の中ならここ最近で隅々まで見ている。

 待ってろ、俺の天使。
今兄様が迎えに行くからな。
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