116 / 491
5
115.誓い
しおりを挟む
「シル!
しっかりしろ!
くそっ、この枷さえ外れたら!」
僕の足下あたりでガツガツと枷を岩に打ち付ける音がする。
「おう、じ」
「気づいたか?!」
「もうし、わけ····」
シル様の声が随分とか細い。
そろそろまずいね。
「シル····すまない。
俺がもっと····」
「何を····おっしゃ、る。
随分、ご立派、に····どうか····生きて····ご、ぶじ····」
「シル!
そんな····頼む、シル!
死ぬな、シル!!」
····ちょっと、うるさいよ、そこ。
まだラディアスが完全に立ち去りきってないんだから黙ってて欲しい。
あとシル様の体揺すってない?
何もしないで欲しいんだけど。
お涙ちょうだいドラマを展開してるとこ悪いんだけど、王子なんだからもっとドンと構えてよ····あ、完全に気配が消えたね。
よし。
「はい、そこまでです。
とにかく止血しましょう。
まだきっと助かります」
僕はむくりと上体を起こすとケープを脱ぎ、巻きスカートのリボンをほどくとズリズリと座ってルド様の方に後退りした。
「え、ア、アリー?」
首だけ振り返って後ろのルド様を見れば、突然てきぱきと動き出した僕に目を白黒させている。
シル様もルド様も上がシャツ1枚になってるね。
上着は色々隠しポケットもあるから取られたのかな。
にしても王子なのに役立たずだね。
僕なんて絶賛眩暈中なのを無理してるのに。
止血くらいしときなよ。
いや、王子だからこれなのかな?
「ルド様、私の腰の縫い目をちぎって巻きスカートと分離して下さい」
少年2人は重そうな手枷をしてる。
魔封じだけど魔法使えないだけだし、年頃の少年なんだから縫いつけた糸ブチッと引きちぎるくらいできるでしょ。
「早くして下さい、王子」
「あ、ああ、すまない」
もう、いつまでも呆けてないでよね。
自分の立場思い出してしゃんとしてよ。
こうして僕は気を失ったシル様にてきぱきと止血していったのだけど、対面に座ったかつて見た事ないほど深刻そうな顔をしたルド様はそれを呆然と見てるだけ。
時々僕に言われて布引きちぎるだけ。
····王子、邪魔····まあ、無いよりマシな猫の手かな。
「なぜ患部以外も縛るんだ?」
切られたのと反対側の太ももや二の腕を縛るのが不思議だったみたい。
僕はそれよりも体の時間が巻き戻ったのに傷はそのままの方が不思議だよ。
「腹部の傷口からの出血を抑える為です」
もちろん腹部の傷口も直接圧迫して止血を試みる。
背中までは貫通してないみたいだけど、臓器は幾つか損傷したみたい。
ルド様はそれだけの説明ではやっぱり理解出来ないみたいだけど、事態が切迫してるのは理解してるのか余計な質問はしてこない。
「····すまない、アリー」
1番深いお腹の傷を直接押さえて止血してたら、ぽつりと洩れ聞こえた。
うん、今のところ王子は邪魔なだけだものね····。
それに僕からすれば今回のは完全に巻き込み事故で、しかも空間に挟まれて死にかけてる。
心も体も現在進行形でストレスマックスだからどうにかなりそう。
そして愛想笑いをしつつ、僕はずっとこう思ってる。
(どうしてこうなったー!!!!)
本当に叫んでストレス解消したいよ。
「····アリーは凄いな。
俺よりずっと幼いはずなのに、ずっと正しく行動できている。
本来ならアリーにも気を配らないといけないのに、目先のシルが死にかけてるとそれでいっぱいいっぱいだ。
具合は?
動いても大丈夫なのか?」
そりゃ、前世40才オーバー、今世すでに300才オーバー、合わせて四捨五入したら400才だもんね。
まだ15才のルド様なんて赤ん坊みたいなもんだよ。
「私の事はお気になさらないで下さい。
この通り、今は動けております」
「····そうか。
私達王族に巻き込まれた上に、肝心の私が役立たずで本当にすまない。
しかも俺はあの3人を知っているし、近衛や王宮魔術師として守られた事だってある。
なのに····何を見ていたんだろうか」
自嘲気味に自分を責めてるところ悪いんだけど、本当にうじうじしてるのが側にいるって邪魔でしかないんだから自重してよね。
押さえてるスカートが血に染まっていく。
駄目か。
「後悔は全て終わった後からでもできます。
それに彼らが任務で王子を守っていた時、ルド様は最長でも10才。
10才の子供に、仮にもそれなりの立場に登り詰めた大人の何が気づけるんです?
しかもその頃には既に彼らは今日のこの日の為に何かしら画策し、動いていたはずですから王族と直接接する際には細心の注意をしていたでしょうね」
「しかし····」
僕はそっと手を離して真っ直ぐ金の目を見つめる。
「いつ後悔しても過去は変えられませんが、今動く事で未来をどうにかする事ならできる可能性はございます。
ひとまずルド様が今すべき事は、これから私がする事を見なかった事にすると何も聞かずに誓っていただく事だけですが、誓って下さいますか?」
はっとしたようにルド様も僕の目を真っ直ぐ見つめ返した。
僕の真意を見定めるように。
「ルドルフ=ウォース=アドライドはこれからアリアチェリーナ=グレインビルがする事を秘密にすると誓う。
シルを助けてくれ」
やがてルド様は静かに誓った。
「必ず助けると誓います」
静かに頷いて僕も誓った。
しっかりしろ!
くそっ、この枷さえ外れたら!」
僕の足下あたりでガツガツと枷を岩に打ち付ける音がする。
「おう、じ」
「気づいたか?!」
「もうし、わけ····」
シル様の声が随分とか細い。
そろそろまずいね。
「シル····すまない。
俺がもっと····」
「何を····おっしゃ、る。
随分、ご立派、に····どうか····生きて····ご、ぶじ····」
「シル!
そんな····頼む、シル!
死ぬな、シル!!」
····ちょっと、うるさいよ、そこ。
まだラディアスが完全に立ち去りきってないんだから黙ってて欲しい。
あとシル様の体揺すってない?
何もしないで欲しいんだけど。
お涙ちょうだいドラマを展開してるとこ悪いんだけど、王子なんだからもっとドンと構えてよ····あ、完全に気配が消えたね。
よし。
「はい、そこまでです。
とにかく止血しましょう。
まだきっと助かります」
僕はむくりと上体を起こすとケープを脱ぎ、巻きスカートのリボンをほどくとズリズリと座ってルド様の方に後退りした。
「え、ア、アリー?」
首だけ振り返って後ろのルド様を見れば、突然てきぱきと動き出した僕に目を白黒させている。
シル様もルド様も上がシャツ1枚になってるね。
上着は色々隠しポケットもあるから取られたのかな。
にしても王子なのに役立たずだね。
僕なんて絶賛眩暈中なのを無理してるのに。
止血くらいしときなよ。
いや、王子だからこれなのかな?
「ルド様、私の腰の縫い目をちぎって巻きスカートと分離して下さい」
少年2人は重そうな手枷をしてる。
魔封じだけど魔法使えないだけだし、年頃の少年なんだから縫いつけた糸ブチッと引きちぎるくらいできるでしょ。
「早くして下さい、王子」
「あ、ああ、すまない」
もう、いつまでも呆けてないでよね。
自分の立場思い出してしゃんとしてよ。
こうして僕は気を失ったシル様にてきぱきと止血していったのだけど、対面に座ったかつて見た事ないほど深刻そうな顔をしたルド様はそれを呆然と見てるだけ。
時々僕に言われて布引きちぎるだけ。
····王子、邪魔····まあ、無いよりマシな猫の手かな。
「なぜ患部以外も縛るんだ?」
切られたのと反対側の太ももや二の腕を縛るのが不思議だったみたい。
僕はそれよりも体の時間が巻き戻ったのに傷はそのままの方が不思議だよ。
「腹部の傷口からの出血を抑える為です」
もちろん腹部の傷口も直接圧迫して止血を試みる。
背中までは貫通してないみたいだけど、臓器は幾つか損傷したみたい。
ルド様はそれだけの説明ではやっぱり理解出来ないみたいだけど、事態が切迫してるのは理解してるのか余計な質問はしてこない。
「····すまない、アリー」
1番深いお腹の傷を直接押さえて止血してたら、ぽつりと洩れ聞こえた。
うん、今のところ王子は邪魔なだけだものね····。
それに僕からすれば今回のは完全に巻き込み事故で、しかも空間に挟まれて死にかけてる。
心も体も現在進行形でストレスマックスだからどうにかなりそう。
そして愛想笑いをしつつ、僕はずっとこう思ってる。
(どうしてこうなったー!!!!)
本当に叫んでストレス解消したいよ。
「····アリーは凄いな。
俺よりずっと幼いはずなのに、ずっと正しく行動できている。
本来ならアリーにも気を配らないといけないのに、目先のシルが死にかけてるとそれでいっぱいいっぱいだ。
具合は?
動いても大丈夫なのか?」
そりゃ、前世40才オーバー、今世すでに300才オーバー、合わせて四捨五入したら400才だもんね。
まだ15才のルド様なんて赤ん坊みたいなもんだよ。
「私の事はお気になさらないで下さい。
この通り、今は動けております」
「····そうか。
私達王族に巻き込まれた上に、肝心の私が役立たずで本当にすまない。
しかも俺はあの3人を知っているし、近衛や王宮魔術師として守られた事だってある。
なのに····何を見ていたんだろうか」
自嘲気味に自分を責めてるところ悪いんだけど、本当にうじうじしてるのが側にいるって邪魔でしかないんだから自重してよね。
押さえてるスカートが血に染まっていく。
駄目か。
「後悔は全て終わった後からでもできます。
それに彼らが任務で王子を守っていた時、ルド様は最長でも10才。
10才の子供に、仮にもそれなりの立場に登り詰めた大人の何が気づけるんです?
しかもその頃には既に彼らは今日のこの日の為に何かしら画策し、動いていたはずですから王族と直接接する際には細心の注意をしていたでしょうね」
「しかし····」
僕はそっと手を離して真っ直ぐ金の目を見つめる。
「いつ後悔しても過去は変えられませんが、今動く事で未来をどうにかする事ならできる可能性はございます。
ひとまずルド様が今すべき事は、これから私がする事を見なかった事にすると何も聞かずに誓っていただく事だけですが、誓って下さいますか?」
はっとしたようにルド様も僕の目を真っ直ぐ見つめ返した。
僕の真意を見定めるように。
「ルドルフ=ウォース=アドライドはこれからアリアチェリーナ=グレインビルがする事を秘密にすると誓う。
シルを助けてくれ」
やがてルド様は静かに誓った。
「必ず助けると誓います」
静かに頷いて僕も誓った。
1
お気に入りに追加
413
あなたにおすすめの小説
冷宮の人形姫
りーさん
ファンタジー
冷宮に閉じ込められて育てられた姫がいた。父親である皇帝には関心を持たれず、少しの使用人と母親と共に育ってきた。
幼少の頃からの虐待により、感情を表に出せなくなった姫は、5歳になった時に母親が亡くなった。そんな時、皇帝が姫を迎えに来た。
※すみません、完全にファンタジーになりそうなので、ファンタジーにしますね。
※皇帝のミドルネームを、イント→レントに変えます。(第一皇妃のミドルネームと被りそうなので)
そして、レンド→レクトに変えます。(皇帝のミドルネームと似てしまうため)変わってないよというところがあれば教えてください。
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました
市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。
私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?!
しかも婚約者達との関係も最悪で……
まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
目が覚めたら夫と子供がいました
青井陸
恋愛
とある公爵家の若い公爵夫人、シャルロットが毒の入ったのお茶を飲んで倒れた。
1週間寝たきりのシャルロットが目を覚ましたとき、幼い可愛い男の子がいた。
「…お母様?よかった…誰か!お母様が!!!!」
「…あなた誰?」
16歳で政略結婚によって公爵家に嫁いだ、元伯爵令嬢のシャルロット。
シャルロットは一目惚れであったが、夫のハロルドは結婚前からシャルロットには冷たい。
そんな関係の二人が、シャルロットが毒によって記憶をなくしたことにより少しずつ変わっていく。
なろう様でも同時掲載しています。
異世界は『一妻多夫制』!?溺愛にすら免疫がない私にたくさんの夫は無理です!?
すずなり。
恋愛
ひょんなことから異世界で赤ちゃんに生まれ変わった私。
一人の男の人に拾われて育ててもらうけど・・・成人するくらいから回りがなんだかおかしなことに・・・。
「俺とデートしない?」
「僕と一緒にいようよ。」
「俺だけがお前を守れる。」
(なんでそんなことを私にばっかり言うの!?)
そんなことを思ってる時、父親である『シャガ』が口を開いた。
「何言ってんだ?この世界は男が多くて女が少ない。たくさん子供を産んでもらうために、何人とでも結婚していいんだぞ?」
「・・・・へ!?」
『一妻多夫制』の世界で私はどうなるの!?
※お話は全て想像の世界になります。現実世界とはなんの関係もありません。
※誤字脱字・表現不足は重々承知しております。日々精進いたしますのでご容赦ください。
ただただ暇つぶしに楽しんでいただけると幸いです。すずなり。
悪役令嬢が美形すぎるせいで話が進まない
陽炎氷柱
恋愛
「傾国の美女になってしまったんだが」
デブス系悪役令嬢に生まれた私は、とにかく美しい悪の華になろうとがんばった。賢くて美しい令嬢なら、だとえ断罪されてもまだ未来がある。
そう思って、前世の知識を活用してダイエットに励んだのだが。
いつの間にかパトロンが大量発生していた。
ところでヒロインさん、そんなにハンカチを強く嚙んだら歯並びが悪くなりますよ?
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる