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111.蔓

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「シル、何人だ」
「3人です」
「俺が2人を引き受ける」
「では····」

 うーん、どうあっても1回捕まるだろうなあ。
王子は多分しばらくは生かされる。
恐らく僕も。
問題は護衛のシル様だよね。

「アリー、怖い思いをさせてすまない」
「体調は大丈夫か?」

 おっと、僕がずっと無言だったから心配させちゃったか。
正直なとこ歪みに挟まれたせいで体調は悪いけど、まだ大丈夫だ。

「平気です。
ちなみに私を囮にお2人だけで逃げるという選択肢はいかがでしょうか?」
「何を言っている?!」
「その選択肢はあり得ない」

 そっか。
3人全員の生存確率が1番高い方法なんだけどなあ。
僕にはとっておきがあるし····。

「ですが王子の····」
「ルドだ」
「えっと?」
「ルド」

 そこ、今こだわる必要なくない?

「ルド様の安全を第一に考え····」
「却下だ」

 言い直しても結局ルド様に却下で遮られる。
解せない。

「でも私が1番の足手まとい····」
「私も却下する、アリー嬢。
私は王族だけでなく貴女方貴族の護衛でもある。
護衛が対象を囮にするなど有り得ない」

 ルド様に続いてシル様にも却下で遮られる。
言ってる事は至極当然だ。

 でもね、それだと護衛が1番殺られる確率高いんだよ?

「大丈夫だ。
私は簡単に死んだりしないから」

 安心させるように厳ついお顔で無理に笑う。
僕が何を危惧してるか気づいてたみたいだね。
こんな時だけどお耳と尻尾についつい目がいっちゃう。
とりあえずモフっちゃ駄目?

「よお、話がついたんなら出て来いよ、ルーベンス。
まだ遊び足りねえ」
「わかりましたよ、前近衛騎士団団長殿」
「はっ、嫌味かよ」
「まさか」

 シル様が軽口を叩きながら防壁を解いて出て行く。
そうか、あの人は前の近衛騎士団団長だったのか。
だからシル様は敵キャラでも敬語なのかな。

「ほら、王子も出て来て下さい」

 おっと、新たな敵キャラ登場だね。
僕を背後に庇いながらルド様が先に出る。

「お前達もか。
前王宮魔術師団団長に、お前は前々近衛騎士団副団長」

 ルド様に緊張が走る。
熊男の時みたいな驚きよりも、警戒心が強く出た感じ。

 剣を構えたシル様と対峙する熊男の少し後方でひょろ長い感じの麦藁色をした髪の魔術師っぽい人属の男性と、薄茶の三角耳に体格的には逞しい部類の腰に帯剣している騎士っぽい長身女性が並ぶ。
三角耳は肉厚で大きめだけど、何の獣人さんだろ?
尻尾は猫っぽいよね。
おっと、いかんいかん、ケモ耳尻尾センサーが発動しちゃった。
この2人はそれぞれ外套を羽織っている。

 何だか情報量が一気に増えたぞ。
前や前々は置いとくとして。

【熊男】元近衛騎士団団長
【ひょろ長麦藁男】元王宮魔術師団団長
【三角耳逞し女】元近衛騎士団副団長

 ん、オッケー。
てことは三角耳はちょっと忘れたけど、他の2人はここ5年くらいでそれぞれの肩書きを辞した人達だから、僕のは正しそうだね。

「ところでその子は誰だい?
貴族令嬢のくせに泣きも取り乱しもしないなんて、随分肝の座った子供じゃないか」
「それに魔力が全く感じられませんが····その髪色に魔力0の令嬢····まさかグレインビルの養女····そうか!
貴女があの養女!
当初の予定とは違う事が立て続けに起こりましたが、これは願ってもいない誤算ですね!」

 胡散臭い何かを見るような目の三角耳と、妙にテンション爆上げしたひょろ長さんがルド様の背に隠されている僕を見やる。

 当初の予定とは違う事が立て続け、ねえ。

「へえ、あの噂のグレインビルの養女か。
魔力がねえ奴が本当にいるんだな」

 ついでに熊男も僕を興味津々だ。

 さてさて、僕がここで取るべき言動は····。

「····ルド様」

 怯えてますよアピールだね!
とりあえずルド様の陰に隠れとこう。

「大丈夫だ。
必ず俺達が守る」

 ルド様が力強く宣言してシル様もそれに頷く。

 ザ·ラノベナイツ!

 格好いいね。
是非とも頑張れ!

「····男って単純だよね。
そういう子にすぐ騙されるのな」

 僕も激しく同意だよ!
男は悪女に騙されるもんなんだ。

 じゃなかった。
そんな呆れた目をして余計な事言わずにそのさわり心地の良さげな肉厚三角耳を触らせなさい。
ちょっとボサッてるから、今なら特別にブラッシングしてあげよう。

「ふん、そんな事を言っていられるのも今のうちですよ」
「おい」

 熊男が何かしら止めようとしたけど、ひょろ長の行動の方が早かった。
既に手に持っていた何かを僕達3人に投げつけた。

「時間もないでしょう」
「ちっ」

 熊男は舌打ちしながらもひょろ長に従うみたいだね。

 シル様は剣、ルド様は水刃でその何かを切り弾く。
コロコロと足下に転がる緑の丸い····種かな?

 そう思ってたら、一気に発芽して蔓性の植物へと変貌を遂げた。

 瞬きする間に蔓は僕の手首くらいの太さまでウニョウニョと育つと意思を持ったかのように僕と王子を狙って伸びてくる。

「なっ」

 王子はすぐに僕の腰を引いて後ろに下がると同時に火球をぶつける。
ぶつかった所は燃え飛ぶけど、すぐに再生する。
それは根元にぶつけても変わらない。

 これ、食糧難にうってつけじゃない。
黄色いお花が付いてるけど、お豆ができるのかな?
どうでもいいけど、王子の腕がお腹に食い込んでそろそろ気持ち悪い。
ケーキ食べ過ぎた?!

「王子!
アリー嬢!」

 シル様の方の蔓は行く手を邪魔するだけで襲いはしないみたいだけど、風刃で切り裂いても結局同じように再生する。
お豆同士の共闘とか、むしろ興味深いぞ。

 僕と王子は徐々に後退してあの岩壁に追い詰められる。
蔦に邪魔されてるシル様とも距離ができた。

 あの3人に目をやると、ひょろ長さんが懐から何かを取り出した?
熊男は仏頂面でそっぽ向いちゃっててちょっと愛嬌あるけど、三角耳は腕組みしてただ見てるだけか。

 ひょろ長の手には大人の男性の手の平サイズの少し大ぶりな銀色の懐中時計····横開閉式かな。
それをシル様に向けるけど、当人はこっちに注意を向けてるから気づいていない。

 ひょろ長さんがカチリとツマミを押して蓋を開けると内側に青い上質の魔石、時計の真ん中には色褪せた緑の····え、何でそこに精霊石?!

 懐中時計の精霊石が淡く光り始めたのを思わず僕は呆然と眺めてしまっていた。
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