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90.お茶会の前に
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「アリアチェリーナ、参りましょう」
「はい、従姉様もよろしくお願い致します」
「····はい」
僕達女性陣はおめかしをして侯爵家の馬車に乗り込んだ。
もちろんお茶会の為だよ。
「随分と乗り心地が違うのね。
中も随分と広いし、揺れも少ないわ」
しばらく走ると僕に人前での従姉様呼びをお願いした伯母様が感心したように馬車の中を見回しながら呟く。
やっぱり微妙な体裁はあるんだろうね。
「ありがとうございます。
中の空間が広いのはレイヤードお兄様の収納用魔具を応用したものですが、揺れが少なく中が快適なのはうちの馬番と庭師の努力の賜物ですわ。
特に足回りとこのシートに特殊加工した素材を使う事で車軸の振動が直接響かないようにしておりますの。
グレインビル領の技術力を伯母様にも知っていただければ幸いですわ」
にこにこと微笑んでプレゼンだ。
口調はもちろんお茶会仕様に変えておりましてよ。
おほほほほほ。
····疲れたからもう帰りたいな。
「そう。
あなたは自領の商品開発について詳しいのね」
「知っていれば役に立つ事もその機会もございましょう?
それに領民が1番大変な実働を担ってくれているのなら、領主とその家族は宣伝くらいしておかなくては彼らのより良い働きを引き出せませんもの。
周りに認められるような何かを作る事ができれば、彼らの労働意識も作業効率も変わりますわ」
「····」
馬車に乗ってから公爵令嬢は一言も喋らない。
伯母様の隣でただ俯いて唇を噛んでいる。
「ありきたりな上の下程度でも外見しか取り柄がないのですから、唇を噛んで価値を減らすのはおやめなさい」
うっわ、辛辣。
目線を向ける事もなく冷たく言い放つ言葉が刺だらけだね。
確かに外見はそこそこには良いんだけど、すこぶる綺麗とかではないから的は得てるんだけど····馬車の中の温度が冷えてくのは····ねえ。
「泣くと化粧が取れますよ。
上の下程度でも外見しか取り柄がないのですから、泣いて価値を減らすのはおやめなさい」
····容赦ないなあ、伯母様
上の下何回使うの。
きっとこの日の為に仕立てただろう年齢の割りに大人びた赤色が基調のドレスの膝の辺りをギュッと握って涙を堪えている。
あ、その角度は義母様だ。
でもそのお顔で涙は見たくないなぁ。
青紫から裾にいくにつれて赤紫へと変わるグラデーションカラーのドレスに作ったポケットから白いハンカチを取り出してそっと差し出す。
ふっふっふ、ケーキをたくさん食べてお腹がぽっこりしても大丈夫なようにベースはゆったりのAラインドレスだけど、上から子供らしいフリル付きのふわっとした巻きスカートを幅が大きめのリボンで腰に止める形だから、ベースに大きめのポケットついてても隠れて目立たないんだよ。
ずれないように腰側を縫いつけてるからどういう動きしてもスリットからちゃんとポケットに手を入れられる。
ハンカチには精油に使う花の残滓で染色して仕上げに香りをつけた糸で刺繍してあるから、ほんのりアロマの香りがするんだ。
拒絶されるかなって思ったんだけど、溜まった涙が流れ落ちる直前だったからか、伯母様の手前だったからか、受け取ってそっと目元を押さえる。
「洗ってお返ししますわ」
そう言って鼻のあたりも押さえると、驚いたみたい。
「これ、良い香りですわね。
香水とは違う、自然の花の香り····」
「グレインビル領で精油にも使う花で染色しておりますの。
花の香りには心を落ち着かせる効果があるとされておりますし、今日は他にも予備を数枚持っておりますから、拙い刺繍でお恥ずかしいけれど、貰っていただけると嬉しいですわ」
「拙いなんて····ありがとう」
公爵令嬢は多分褒めてくれたのかな。
ばつが悪そうではあるけどお礼言われたのが意外。
もしかしてアロマ効果?
「素敵なデザインね。
自分で刺繍したの?」
伯母様は薄桃色のアリリアと月をロゴ風にした刺繍を見て褒めてくれる。
「お恥ずかしながら、さようでございますわ」
「まだ予備があるなら、私にもくださらない?」
「同じデザインでよろしければ、喜んで」
更にポケットから取り出して渡す。
伯母様もそっと鼻に近づける。
「本当に良い香りね。
それにドレスにそういった細工をしてあるのも良いわね。
あなたの発案かしら?」
「発案、というほどではございませんが、お願いしたデザイナーと話しているうちに」
「そう。
そのドレスも素敵だし、今度そのデザイナーを紹介してくださらない?」
····食い意地の為に考案されたドレスでしてよ、伯母様。
「無名のデザイナーで平気で雲隠れする気まぐれ者ですから、気長にお待ち下さいませ」
「そうなの。
残念だけど、気長に待つわ」
すました顔しつつ、内心焦る。
え、紹介?!
デザイナー····僕なんだけど。
お針子はできる侍女ニーア、そして素敵執事セバスチャン。
素敵執事は義父様の刺繍の師匠でもあるんだ。
ドーン!!
ドーン!!
不意に大砲を撃ったような音が山の方から聞こえた。
「始まったようですわね」
「そのようですね」
ふふふ、義父様と義兄様はどんな魔獣を仕留めるんだろ。
お茶会よりそっちに行きたかったなあ。
さっきの音は狩猟の開始の合図だよ。
今はお昼前だけど、男性陣は朝には出発したんだ。
バルトス義兄様はお城の方に滞在したはずだから、もし会えたとしても王宮魔術師団副団長として働く凛々しい義兄様なんだろうな。
義兄様に頭をなでられる夢を見たから会いたくなっちゃった。
そういえば早朝に使用人部屋に続く通路が凍結して通れないって伯父様と従兄様がバタバタしてたみたいなんだけど、こっちも春とはいえまだまだ冷え込むんだね。
昨日公爵令嬢は使用人部屋の方に泊まったみたいだけど大丈夫だったのかな。
「はい、従姉様もよろしくお願い致します」
「····はい」
僕達女性陣はおめかしをして侯爵家の馬車に乗り込んだ。
もちろんお茶会の為だよ。
「随分と乗り心地が違うのね。
中も随分と広いし、揺れも少ないわ」
しばらく走ると僕に人前での従姉様呼びをお願いした伯母様が感心したように馬車の中を見回しながら呟く。
やっぱり微妙な体裁はあるんだろうね。
「ありがとうございます。
中の空間が広いのはレイヤードお兄様の収納用魔具を応用したものですが、揺れが少なく中が快適なのはうちの馬番と庭師の努力の賜物ですわ。
特に足回りとこのシートに特殊加工した素材を使う事で車軸の振動が直接響かないようにしておりますの。
グレインビル領の技術力を伯母様にも知っていただければ幸いですわ」
にこにこと微笑んでプレゼンだ。
口調はもちろんお茶会仕様に変えておりましてよ。
おほほほほほ。
····疲れたからもう帰りたいな。
「そう。
あなたは自領の商品開発について詳しいのね」
「知っていれば役に立つ事もその機会もございましょう?
それに領民が1番大変な実働を担ってくれているのなら、領主とその家族は宣伝くらいしておかなくては彼らのより良い働きを引き出せませんもの。
周りに認められるような何かを作る事ができれば、彼らの労働意識も作業効率も変わりますわ」
「····」
馬車に乗ってから公爵令嬢は一言も喋らない。
伯母様の隣でただ俯いて唇を噛んでいる。
「ありきたりな上の下程度でも外見しか取り柄がないのですから、唇を噛んで価値を減らすのはおやめなさい」
うっわ、辛辣。
目線を向ける事もなく冷たく言い放つ言葉が刺だらけだね。
確かに外見はそこそこには良いんだけど、すこぶる綺麗とかではないから的は得てるんだけど····馬車の中の温度が冷えてくのは····ねえ。
「泣くと化粧が取れますよ。
上の下程度でも外見しか取り柄がないのですから、泣いて価値を減らすのはおやめなさい」
····容赦ないなあ、伯母様
上の下何回使うの。
きっとこの日の為に仕立てただろう年齢の割りに大人びた赤色が基調のドレスの膝の辺りをギュッと握って涙を堪えている。
あ、その角度は義母様だ。
でもそのお顔で涙は見たくないなぁ。
青紫から裾にいくにつれて赤紫へと変わるグラデーションカラーのドレスに作ったポケットから白いハンカチを取り出してそっと差し出す。
ふっふっふ、ケーキをたくさん食べてお腹がぽっこりしても大丈夫なようにベースはゆったりのAラインドレスだけど、上から子供らしいフリル付きのふわっとした巻きスカートを幅が大きめのリボンで腰に止める形だから、ベースに大きめのポケットついてても隠れて目立たないんだよ。
ずれないように腰側を縫いつけてるからどういう動きしてもスリットからちゃんとポケットに手を入れられる。
ハンカチには精油に使う花の残滓で染色して仕上げに香りをつけた糸で刺繍してあるから、ほんのりアロマの香りがするんだ。
拒絶されるかなって思ったんだけど、溜まった涙が流れ落ちる直前だったからか、伯母様の手前だったからか、受け取ってそっと目元を押さえる。
「洗ってお返ししますわ」
そう言って鼻のあたりも押さえると、驚いたみたい。
「これ、良い香りですわね。
香水とは違う、自然の花の香り····」
「グレインビル領で精油にも使う花で染色しておりますの。
花の香りには心を落ち着かせる効果があるとされておりますし、今日は他にも予備を数枚持っておりますから、拙い刺繍でお恥ずかしいけれど、貰っていただけると嬉しいですわ」
「拙いなんて····ありがとう」
公爵令嬢は多分褒めてくれたのかな。
ばつが悪そうではあるけどお礼言われたのが意外。
もしかしてアロマ効果?
「素敵なデザインね。
自分で刺繍したの?」
伯母様は薄桃色のアリリアと月をロゴ風にした刺繍を見て褒めてくれる。
「お恥ずかしながら、さようでございますわ」
「まだ予備があるなら、私にもくださらない?」
「同じデザインでよろしければ、喜んで」
更にポケットから取り出して渡す。
伯母様もそっと鼻に近づける。
「本当に良い香りね。
それにドレスにそういった細工をしてあるのも良いわね。
あなたの発案かしら?」
「発案、というほどではございませんが、お願いしたデザイナーと話しているうちに」
「そう。
そのドレスも素敵だし、今度そのデザイナーを紹介してくださらない?」
····食い意地の為に考案されたドレスでしてよ、伯母様。
「無名のデザイナーで平気で雲隠れする気まぐれ者ですから、気長にお待ち下さいませ」
「そうなの。
残念だけど、気長に待つわ」
すました顔しつつ、内心焦る。
え、紹介?!
デザイナー····僕なんだけど。
お針子はできる侍女ニーア、そして素敵執事セバスチャン。
素敵執事は義父様の刺繍の師匠でもあるんだ。
ドーン!!
ドーン!!
不意に大砲を撃ったような音が山の方から聞こえた。
「始まったようですわね」
「そのようですね」
ふふふ、義父様と義兄様はどんな魔獣を仕留めるんだろ。
お茶会よりそっちに行きたかったなあ。
さっきの音は狩猟の開始の合図だよ。
今はお昼前だけど、男性陣は朝には出発したんだ。
バルトス義兄様はお城の方に滞在したはずだから、もし会えたとしても王宮魔術師団副団長として働く凛々しい義兄様なんだろうな。
義兄様に頭をなでられる夢を見たから会いたくなっちゃった。
そういえば早朝に使用人部屋に続く通路が凍結して通れないって伯父様と従兄様がバタバタしてたみたいなんだけど、こっちも春とはいえまだまだ冷え込むんだね。
昨日公爵令嬢は使用人部屋の方に泊まったみたいだけど大丈夫だったのかな。
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