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37.本題
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「綺麗ですね」
離宮の庭園はモラというあちらの世界の金木犀に似た花と、マラという茉莉花に似た花が咲いていて甘い匂いが香る。
確かにルドルフ王子のお茶会で見た薔薇の庭園とは趣が違うけど、僕はこっちが好きかな。
「薔薇の庭園と違ってこちらは素朴な様相で、私としてはこの庭園の方が気に入っているんだ」
「そうですね。
私もこちらの方が好きです。
ザルハードの王宮の庭園はどのような様相なのですか?」
「向こうの庭園は今の時期はスリミリアが咲きほこっている。
わが国の国花なのだが、知っているだろうか?」
「殿下のお召し物に刺繍されているお花ですね。
白い大ぶりのお花で、とても香りが良いのですよね?」
「見たことが?」
「実物はザルハードの国花なだけに管理されていてありませんが、絵画と市場で出ているスリミリアの香水で想像していますの」
「ふふ、なるほど」
まぁ、あと前世と300年前に普通にお祝い用に贈られてたの見たしね。
ところで僕達はエスコートされているのもあって、横並びで散策している。
なるべく目をのぞきこまれないよう警戒中だ。
アン様と青銀の護衛さんは庭園に入ってから聞こえないよう距離を取っている。
でも獣人さんだから本当に聞こえてないのか怪しいよね?
アン様のお耳が時々ピクピクしてて可愛いけどさ。
庭園の中ほどで、ちょうど僕達が木の陰になる場所で不意に止まる。
「その、どうしても聞きたい事があるんだが····」
「どうされましたか?」
横目で見ると随分思いつめた顔をしている。
「大会の時、君は私の近くに何か見なかっただろうか」
「何か、とは?」
「それはっ、その····」
なるほど、精霊さんのことは秘密にしたいんだね。
ザワザワと風が周りの木々や花を大きく揺らしていく。
まるで僕の苛立ちを現したかのようだ。
「殿下が何か思い悩まれているのは今のご様子で察することはできますが、殿下ご自身が何かを隠してお話になるのならば私が話す言葉はごく限られたものとなるでしょう。
お気づきかと思いますが、私も家族も自国だろうと他国だろうと王族とむやみに関わりたくないのが本音なのです。
特に殿下は立場も忘れ意図することもなく不用意な発言をされ、私の身を危険に晒しております。
私の義兄と親交があったギディアス王太子殿下の直接のお取り計らいがなければ、私は今日この場には来ておりません」
「いや、わかっている。
私が悪いのだ。
未だに利己的な理由で動く己を自覚している」
木々がざわつく中、彼はゆっくりと深呼吸してから静かに口を開く。
「私は君が私の精霊殿を見たと思っている。
私だけではもうどうして良いのかわからない。
彼を失うわけにはいかない。
どうか、彼が助かる方法を共に探して欲しい。
何か少しでも手がかりが欲しいんだ」
私の、ねぇ。
最初から保身に走ってた事も含めて気にいらないけど、及第点かな。
失うわけにはいかない理由を聞きたいところだけど、僕の土俵は用意してあげるね。
「仮に私が見えたとして、助けられる方法などないかもしれませんよ。
それでも私とそのことで話したいのなら、私は王子に求める物がありますが、場合によっては殿下の命にも関わるかもしれません。
それでも叶えてくれますか?」
「それが何か教えてくれ」
「教えません。
叶えてくれるかをお聞きしているだけです」
「····私の命に関わることだけか?
それだけでも教えてはくれないか。
私は王子という立場を忘れるわけにはいかない。
頼む、それだけでかまわない」
立場忘れてやらかしといて、切実な顔で訴えてくるね。
意地悪しちゃいたくなる気持ちが疼くなぁ。
「殿下に関わることだけです。
ですが殿下がこの件で私のことを誰かに話しているのなら、状況は変わるかもしれません」
「護衛は元々精霊が見える上、私と行動している為、今回の事や君の事を私と同じだけ知っている。
それ以外の者には伝えていないし、知りようもないはずだ。
精霊殿の事は私との制約により他言できないようにしている。
私1人の命で良いならば叶える」
まぁ結局意地悪しないんだけど、僕って将来有望な悪女な気がする。
そういえば昔僕の幼馴染みがハマってたラノベに悪役令嬢が登場してたんだよね。
うん、その気になったら悪役令嬢を極めてみよう。
にしても不満をもらすことなく、言いきっちゃったか。
チラッと護衛さんを盗み見る。
護衛さんについては···心配はいらないか。
小さな精霊さんが彼の周りをふよふよ飛んでいるもの。
「ふふ、場所を移しましょう」
土俵には、上がってきたね。
離宮の庭園はモラというあちらの世界の金木犀に似た花と、マラという茉莉花に似た花が咲いていて甘い匂いが香る。
確かにルドルフ王子のお茶会で見た薔薇の庭園とは趣が違うけど、僕はこっちが好きかな。
「薔薇の庭園と違ってこちらは素朴な様相で、私としてはこの庭園の方が気に入っているんだ」
「そうですね。
私もこちらの方が好きです。
ザルハードの王宮の庭園はどのような様相なのですか?」
「向こうの庭園は今の時期はスリミリアが咲きほこっている。
わが国の国花なのだが、知っているだろうか?」
「殿下のお召し物に刺繍されているお花ですね。
白い大ぶりのお花で、とても香りが良いのですよね?」
「見たことが?」
「実物はザルハードの国花なだけに管理されていてありませんが、絵画と市場で出ているスリミリアの香水で想像していますの」
「ふふ、なるほど」
まぁ、あと前世と300年前に普通にお祝い用に贈られてたの見たしね。
ところで僕達はエスコートされているのもあって、横並びで散策している。
なるべく目をのぞきこまれないよう警戒中だ。
アン様と青銀の護衛さんは庭園に入ってから聞こえないよう距離を取っている。
でも獣人さんだから本当に聞こえてないのか怪しいよね?
アン様のお耳が時々ピクピクしてて可愛いけどさ。
庭園の中ほどで、ちょうど僕達が木の陰になる場所で不意に止まる。
「その、どうしても聞きたい事があるんだが····」
「どうされましたか?」
横目で見ると随分思いつめた顔をしている。
「大会の時、君は私の近くに何か見なかっただろうか」
「何か、とは?」
「それはっ、その····」
なるほど、精霊さんのことは秘密にしたいんだね。
ザワザワと風が周りの木々や花を大きく揺らしていく。
まるで僕の苛立ちを現したかのようだ。
「殿下が何か思い悩まれているのは今のご様子で察することはできますが、殿下ご自身が何かを隠してお話になるのならば私が話す言葉はごく限られたものとなるでしょう。
お気づきかと思いますが、私も家族も自国だろうと他国だろうと王族とむやみに関わりたくないのが本音なのです。
特に殿下は立場も忘れ意図することもなく不用意な発言をされ、私の身を危険に晒しております。
私の義兄と親交があったギディアス王太子殿下の直接のお取り計らいがなければ、私は今日この場には来ておりません」
「いや、わかっている。
私が悪いのだ。
未だに利己的な理由で動く己を自覚している」
木々がざわつく中、彼はゆっくりと深呼吸してから静かに口を開く。
「私は君が私の精霊殿を見たと思っている。
私だけではもうどうして良いのかわからない。
彼を失うわけにはいかない。
どうか、彼が助かる方法を共に探して欲しい。
何か少しでも手がかりが欲しいんだ」
私の、ねぇ。
最初から保身に走ってた事も含めて気にいらないけど、及第点かな。
失うわけにはいかない理由を聞きたいところだけど、僕の土俵は用意してあげるね。
「仮に私が見えたとして、助けられる方法などないかもしれませんよ。
それでも私とそのことで話したいのなら、私は王子に求める物がありますが、場合によっては殿下の命にも関わるかもしれません。
それでも叶えてくれますか?」
「それが何か教えてくれ」
「教えません。
叶えてくれるかをお聞きしているだけです」
「····私の命に関わることだけか?
それだけでも教えてはくれないか。
私は王子という立場を忘れるわけにはいかない。
頼む、それだけでかまわない」
立場忘れてやらかしといて、切実な顔で訴えてくるね。
意地悪しちゃいたくなる気持ちが疼くなぁ。
「殿下に関わることだけです。
ですが殿下がこの件で私のことを誰かに話しているのなら、状況は変わるかもしれません」
「護衛は元々精霊が見える上、私と行動している為、今回の事や君の事を私と同じだけ知っている。
それ以外の者には伝えていないし、知りようもないはずだ。
精霊殿の事は私との制約により他言できないようにしている。
私1人の命で良いならば叶える」
まぁ結局意地悪しないんだけど、僕って将来有望な悪女な気がする。
そういえば昔僕の幼馴染みがハマってたラノベに悪役令嬢が登場してたんだよね。
うん、その気になったら悪役令嬢を極めてみよう。
にしても不満をもらすことなく、言いきっちゃったか。
チラッと護衛さんを盗み見る。
護衛さんについては···心配はいらないか。
小さな精霊さんが彼の周りをふよふよ飛んでいるもの。
「ふふ、場所を移しましょう」
土俵には、上がってきたね。
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