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11.天使の慟哭~ヘルトside4
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アリーを養女にしてから4年がたった頃、行動に変化が出始めた。
それまでは赤子の頃の栄養不足が影響してか少食、虚弱体質で体の成長が遅く、すぐに高熱を出していた。
それが小柄ながらもよく動き、甘味は別腹となり、定期的に上級回復魔法はかけるようにしていたが熱も数ヶ月に1度程度に落ち着いたのだ。
今は亡きミレーネもこの頃にはほっと胸を撫で下ろしていた。
が、これまでが嘘のようなお転婆天使へと変貌を遂げた。
家族や使用人の目を盗んでは領地の手つかずの山に入り込み、木の樹脂を採取したり、茸や野草を片っ端からむしり採って図鑑を片手に何事かを調べ、翌年には夜中に屋敷を脱走して山で野宿をしていた。
小さな怪我や微熱ですらも治癒や回復魔法は上級のものでなければ効かない体質なので脱走癖には肝を冷やした。
ちなみに上級魔法は四肢の欠損を癒し、上級回復魔法は虫の息になった者の体力を動ける状態にまで回復させる魔法だ。
もちろん連発するとむしろ本人の治癒力や回復力を阻害するので見極めは大事だが。
私達が出会った日を誕生日にしていたが、4才の誕生日に馬を贈ったのがいけなかったかもしれない。
例の霧の遺跡から国の最終調査団が引き上げる為に責任者として数人の魔術師と最終確認をした帰りの深夜、焚き火をしながら愛馬のポニーちゃんと地面に寝転がって眠る天使を発見した時には膝から崩れるくらいには脱力した。
うちの子何してるんだ。
部下達の視線が痛かった。
ちなみにポニーちゃんと命名したのはアリーだったが、由来は教えてくれていない。
そんな年の瀬に、妻のミレーネが突然心臓を押さえて倒れた。
原因は先天性の心臓の病と言われ、この手の病気は治癒魔法でも回復魔法でも治らない。
産まれてすぐに天国へ旅立ったあの子も同じ病だったのではないかと考えている。
この頃から時々アリーはミレーネと聞いたことがないおまじないを口ずさむようになったり、屋敷の料理長と山で採ってきた山菜などで新作料理やお菓子を考案しては家族にふるまった。
他にも突然蜂を集めて養蜂を始めたり、香りの良い植物を集めてバルトスやレイヤードの魔法に注文して繊細な魔力コントロールを身につけさせ、見たことのない器具を自作して質の良い香油や化粧品などを作ってはミレーネにプレゼントして喜ばせた。
屋敷の料理人やミレーネから一部の使用人仲間や貴族婦人達に噂が広まり、蜂蜜や精油、化粧品が今では領地の特産品となった。
製法や技術に関してはアリー発信でロイヤリティ収益や特別専有技術許可という制度を領内で取り入れて他領と契約書でもって管理していたが、目をつけた腹黒宰相が去年から国の制度とした。
その制度の顧問料も取ったのでうちの領地はかなり潤っている。
アリーの活躍は秘匿扱いで箝口令を敷いているが、陛下や宰相が気づいているようだ。
色々な意味でこの子の将来が末恐ろしく心配だ。
アリーが7才になった頃、ミレーネはほぼ寝たきりになっていた。
極秘で王宮から派遣された医師からは前例にない程に遅い進行だが、そろそろ覚悟するよう宣告を受ける。
普段の母娘の様子を見た医者はその進行具合にアリーが関わっていると思ったらしく、目を離すとアリーを質問攻めにしていると息子や使用人達から報告を受けた。
陛下と医者には軽い注意を促した。
怯えた視線は気のせいだったと思っている。
私は昨年からレイヤードも学園の寮に住むにあたりミレーネとアリーだけの夜が多い屋敷に不安を覚え、領地の経営に専念するとの名目で魔術師団団長の職を辞した。
ブルグル公爵が一部の貴族達と影で妻子に骨抜きになって情けないだのと吹聴していたが、家族が第一だ。
この頃は特にアリーはポニーちゃんとよく霧の遺跡に出かけていたが、領主権限で遺跡を関係者以外立入禁止にしているので誰の干渉も受けずに探索していた。
立入禁止は結界が解けて実質的に領地が広がってしまった為の管理上の措置でもあった。
アリーは私が屋敷にいない時の日中はミレーネと過ごし、夜に屋敷を抜け出していたが何か意味があるように思え、心配しつつもレイヤードが渡した護身用魔具を必ず身につけておくこと、義兄達がいる時は必ず一緒に行く事を条件に黙認した。
息子達はミレーネの事はもちろん、アリーが何かしら思い詰めているからと転移魔法を習得してよく屋敷に帰宅していた。
魔力の底上げや魔具作りがアリーとの何年かで強制的に得意となった2人の息子達から、アリーが透過や時間に干渉できる魔具や魔石を何年も前から欲しがっていると聞いたのもこの頃だ。
もしかしてアリーはずっと何かを探しているのか?
そして決定的な日がきた。
ミレーネが目を覚まさなくなったのだ。
そしてアリーが目を離したその日の夕方からいなくなった。
(ミレーネがこんな時に何をしているんだ!)
後にも先にもアリーに怒りを覚えたのはこの時だけだ。
アリーを引き取ってからこれまでミレーネは本当の母親として愛してきた。
最期の時を何故側で過ごせない!
「父上、アリーを霧の遺跡に迎えに行ってあげて。
アリーの探し物はきっと見つからない。
家族で見送ろうって、父上からちゃんと言ってあげて」
「父上達が戻ってくるまでもしもの時は俺とレイヤードで母上の時間を止める。
アリーが時間を干渉できる魔具の話をした時に、仮死の魔方陣と発動方法について教えてくれた。
俺とレイヤードの2人でなら1日だけその術で母上の時間を稼げる」
息子達の言葉に驚く。
2人はアリーが何を探していたか知っているのか?
仮死の魔方陣て何だ?!
「何故アリーがそんなものを知っている?!」
「何故なのか僕達も知らない。
でも自分には魔力がないから、兄様達が発動させられるように訓練してって。
そうしたらもしもの時に父上が母上の最期に間に合うからって」
「あの時はまだ父上が王都で働いてたから、父上の為に俺達に教えてくれたんだ。
アリーはもう何年も自分以外の家族の事を考えてしか動いてないんだ。
だから今も絶対にアリーは自分の為には動いてない」
私のアリーへの怒りを感じ取ったのだろう。
何故アリーが霧の遺跡にいると思ったのかこの時の私にはわからなかったが、息子達に従ってすぐに転移する。
そして赤子のアリーを初めて見つけた神殿の最奥で、へたりこんで血まみれの手で地面を殴りながらあの慟哭を吐くアリーを見つけた。
それまでは赤子の頃の栄養不足が影響してか少食、虚弱体質で体の成長が遅く、すぐに高熱を出していた。
それが小柄ながらもよく動き、甘味は別腹となり、定期的に上級回復魔法はかけるようにしていたが熱も数ヶ月に1度程度に落ち着いたのだ。
今は亡きミレーネもこの頃にはほっと胸を撫で下ろしていた。
が、これまでが嘘のようなお転婆天使へと変貌を遂げた。
家族や使用人の目を盗んでは領地の手つかずの山に入り込み、木の樹脂を採取したり、茸や野草を片っ端からむしり採って図鑑を片手に何事かを調べ、翌年には夜中に屋敷を脱走して山で野宿をしていた。
小さな怪我や微熱ですらも治癒や回復魔法は上級のものでなければ効かない体質なので脱走癖には肝を冷やした。
ちなみに上級魔法は四肢の欠損を癒し、上級回復魔法は虫の息になった者の体力を動ける状態にまで回復させる魔法だ。
もちろん連発するとむしろ本人の治癒力や回復力を阻害するので見極めは大事だが。
私達が出会った日を誕生日にしていたが、4才の誕生日に馬を贈ったのがいけなかったかもしれない。
例の霧の遺跡から国の最終調査団が引き上げる為に責任者として数人の魔術師と最終確認をした帰りの深夜、焚き火をしながら愛馬のポニーちゃんと地面に寝転がって眠る天使を発見した時には膝から崩れるくらいには脱力した。
うちの子何してるんだ。
部下達の視線が痛かった。
ちなみにポニーちゃんと命名したのはアリーだったが、由来は教えてくれていない。
そんな年の瀬に、妻のミレーネが突然心臓を押さえて倒れた。
原因は先天性の心臓の病と言われ、この手の病気は治癒魔法でも回復魔法でも治らない。
産まれてすぐに天国へ旅立ったあの子も同じ病だったのではないかと考えている。
この頃から時々アリーはミレーネと聞いたことがないおまじないを口ずさむようになったり、屋敷の料理長と山で採ってきた山菜などで新作料理やお菓子を考案しては家族にふるまった。
他にも突然蜂を集めて養蜂を始めたり、香りの良い植物を集めてバルトスやレイヤードの魔法に注文して繊細な魔力コントロールを身につけさせ、見たことのない器具を自作して質の良い香油や化粧品などを作ってはミレーネにプレゼントして喜ばせた。
屋敷の料理人やミレーネから一部の使用人仲間や貴族婦人達に噂が広まり、蜂蜜や精油、化粧品が今では領地の特産品となった。
製法や技術に関してはアリー発信でロイヤリティ収益や特別専有技術許可という制度を領内で取り入れて他領と契約書でもって管理していたが、目をつけた腹黒宰相が去年から国の制度とした。
その制度の顧問料も取ったのでうちの領地はかなり潤っている。
アリーの活躍は秘匿扱いで箝口令を敷いているが、陛下や宰相が気づいているようだ。
色々な意味でこの子の将来が末恐ろしく心配だ。
アリーが7才になった頃、ミレーネはほぼ寝たきりになっていた。
極秘で王宮から派遣された医師からは前例にない程に遅い進行だが、そろそろ覚悟するよう宣告を受ける。
普段の母娘の様子を見た医者はその進行具合にアリーが関わっていると思ったらしく、目を離すとアリーを質問攻めにしていると息子や使用人達から報告を受けた。
陛下と医者には軽い注意を促した。
怯えた視線は気のせいだったと思っている。
私は昨年からレイヤードも学園の寮に住むにあたりミレーネとアリーだけの夜が多い屋敷に不安を覚え、領地の経営に専念するとの名目で魔術師団団長の職を辞した。
ブルグル公爵が一部の貴族達と影で妻子に骨抜きになって情けないだのと吹聴していたが、家族が第一だ。
この頃は特にアリーはポニーちゃんとよく霧の遺跡に出かけていたが、領主権限で遺跡を関係者以外立入禁止にしているので誰の干渉も受けずに探索していた。
立入禁止は結界が解けて実質的に領地が広がってしまった為の管理上の措置でもあった。
アリーは私が屋敷にいない時の日中はミレーネと過ごし、夜に屋敷を抜け出していたが何か意味があるように思え、心配しつつもレイヤードが渡した護身用魔具を必ず身につけておくこと、義兄達がいる時は必ず一緒に行く事を条件に黙認した。
息子達はミレーネの事はもちろん、アリーが何かしら思い詰めているからと転移魔法を習得してよく屋敷に帰宅していた。
魔力の底上げや魔具作りがアリーとの何年かで強制的に得意となった2人の息子達から、アリーが透過や時間に干渉できる魔具や魔石を何年も前から欲しがっていると聞いたのもこの頃だ。
もしかしてアリーはずっと何かを探しているのか?
そして決定的な日がきた。
ミレーネが目を覚まさなくなったのだ。
そしてアリーが目を離したその日の夕方からいなくなった。
(ミレーネがこんな時に何をしているんだ!)
後にも先にもアリーに怒りを覚えたのはこの時だけだ。
アリーを引き取ってからこれまでミレーネは本当の母親として愛してきた。
最期の時を何故側で過ごせない!
「父上、アリーを霧の遺跡に迎えに行ってあげて。
アリーの探し物はきっと見つからない。
家族で見送ろうって、父上からちゃんと言ってあげて」
「父上達が戻ってくるまでもしもの時は俺とレイヤードで母上の時間を止める。
アリーが時間を干渉できる魔具の話をした時に、仮死の魔方陣と発動方法について教えてくれた。
俺とレイヤードの2人でなら1日だけその術で母上の時間を稼げる」
息子達の言葉に驚く。
2人はアリーが何を探していたか知っているのか?
仮死の魔方陣て何だ?!
「何故アリーがそんなものを知っている?!」
「何故なのか僕達も知らない。
でも自分には魔力がないから、兄様達が発動させられるように訓練してって。
そうしたらもしもの時に父上が母上の最期に間に合うからって」
「あの時はまだ父上が王都で働いてたから、父上の為に俺達に教えてくれたんだ。
アリーはもう何年も自分以外の家族の事を考えてしか動いてないんだ。
だから今も絶対にアリーは自分の為には動いてない」
私のアリーへの怒りを感じ取ったのだろう。
何故アリーが霧の遺跡にいると思ったのかこの時の私にはわからなかったが、息子達に従ってすぐに転移する。
そして赤子のアリーを初めて見つけた神殿の最奥で、へたりこんで血まみれの手で地面を殴りながらあの慟哭を吐くアリーを見つけた。
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