上 下
44 / 210

44.ろくでもない事~ベルグルside

しおりを挟む
「団長、第5騎士隊隊長より至急お届けするよう仰せつかりました。
報告書は中に入れたとの事です。
第5騎士隊隊長は第4騎士隊隊長にこれを預けるとすぐにいずこかへ発たれました。
行き先は教えていただいておりません」
「····わかった、下がれ」

 グランに贈った収納鞄であるのを確認し、彼が休暇を終えてもまだこちらに戻らない事から魔の森のあの愛くるしい黒の番に何事かが起きたと悟る。
自然と深く、長いため息をつく。

「絶対ろくでもない事だろ」

 思ってた言葉がついつい口をつくが、誰にも咎められはしない。
あの小さく可愛らしい番が絡んだのなら、全く可愛らしくない事態が起こったに違いない。

 あー、1人でこの鞄開ける勇気が湧かんな····。

「レイブ、すぐ執務室に」

 この嫌な予感を分かち合える唯一にして無二の直属の部下であり、右腕であり、親友でもある男を風を使って呼びつける。

 彼はいつも通りすぐに訪れた。
が、ドアを開けて目の前の来客用のテーブルに置いた鞄を見た途端、いつもは冷静沈着で優雅な動作を自然に行う黒兎は勢い良くドアを閉めた。

 ヤバイ!
兎の危機管理能力は高かった!

 俺は一瞬の判断の元に目前のテーブルを飛び越え、部屋のドアノブに手を掛けた。

 チッ!
向こうもドアノブに手を掛けて阻んでやがる!

「待て待て待て!
入って来い!」
「嫌ですよ!
絶対ろくでもない事でしょう!」
「頼む!
俺だけに押し付けてくれるな!」
「巻き込み事故は御免です!」

 そんな押し問答をドアの内と外で5年ぶりくらいにした後、レイブがドアノブが軋み始めたのに怯んだ瞬間何とかドアを開けて引きずり込んだ。
純粋な力比べならば俺が上だ。

 なおも悪あがきをするレイブを執務机の前にある来客用ソファに座らせる。
俺は以前グランが座った向かい側だ。

 暫しの沈黙の後、レイブが動く。

「····開けますよ」
「····ああ」

 鞄には個別識別の魔法が施されており、俺達とレン、グランだけが開けられるよう設定されている。
俺が逃がす気が無い事を悟ったレイブが観念して鞄を開ける。

 中からはまずは弁当の包み。
こないだの3倍ほど入っている。
多分俺達3人分だろう。
その気遣いにほっこりさせられる。

「良い匂いですね。
カラアゲもありますね」

 微笑んだレイブが匂いを嗅いでごくりと喉を鳴らした。
俺も口の中に湧き出た唾液を飲み込む。
他に花茶が入った包み、グランの私物が出てきた。
····ちょっと待て。
レンが森で髪を結んでいた紐も出てきたが、断りは入れたよな?
いくら番の物でも無断はダメだ。
グラン、お前一応騎士だからな。
そして最後に四つ折りにした紙が出てきた。

「ベルグル、この雑に折った紙が嫌な予感を掻き立てるんですが····」
「奇遇だな。
俺もそうだが、やっぱり先に俺が読むべきなのか?
俺じゃなくてもいいんじゃないのか?」

 何言ってる、当然だろうと目で物を言いながら神妙な顔で頷いて渡された。

 雑な折り方で予想していたが、やはり急いでいたようで走り書きのように書きなぐられていた。

「····読んで見ろ」

 内容を確認して、再びため息がこぼれる。
その後のレイブも同じだった。

「「やっぱりろくでもない」」

 2人してソファに深くもたれた。

「レン····ちっこいくせに、何でっかい事してるんだ」
「大叔父はどうやってレンみたいな子に育てたのか1から聞かせて欲しいものです」

 しばらく無言で過ごす。
むしろ何から手をつけるべきか。

「団長、今時間はあるか」

 不意に風が声を届ける。
王太子殿下の声だ。

 すぐに応じ、レイブは窓を開けて風を使って換気し、俺は弁当を再び戻して鞄を隠してから共に腰かけて来客を待つ。

 やがてドアがノックされた。

「ビビット商会の副会長殿がいらっしゃいました」
「話は聞いている。
通せ。」

 レイブが入ってきた焦茶短髪に青灰細目で細身の虎属の男に対面のソファをすすめた。

「いやぁ、急にすんません。
国王陛下と王太子殿下より、お2人にもすぐにお伺いするようご指示がございまして。
ビビット商会副会長のトビドニア=エトランと申します。
トビとお呼び下さい」
「騎士団団長のベルグル=ドランクだ」
「騎士団副団長のレイブ=ワグナロスです」

 自己紹介が終わる頃を見計らい、応対係がお茶を置いて退出した。
商会の副会長が一体何の用があるのか。
レンの事もあるし、タイミング的にも嫌な予感がして仕方ない。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

猫に転生したらご主人様に溺愛されるようになりました

あべ鈴峰
恋愛
気がつけば 異世界転生。 どんな風に生まれ変わったのかと期待したのに なぜか猫に転生。 人間でなかったのは残念だが、それでも構わないと気持ちを切り替えて猫ライフを満喫しようとした。しかし、転生先は森の中、食べ物も満足に食べてず、寂しさと飢えでなげやりに なって居るところに 物音が。

婚約破棄された検品令嬢ですが、冷酷辺境伯の子を身籠りました。 でも本当はお優しい方で毎日幸せです

青空あかな
恋愛
旧題:「荷物検査など誰でもできる」と婚約破棄された検品令嬢ですが、極悪非道な辺境伯の子を身籠りました。でも本当はお優しい方で毎日心が癒されています チェック男爵家長女のキュリティは、貴重な闇魔法の解呪師として王宮で荷物検査の仕事をしていた。 しかし、ある日突然婚約破棄されてしまう。 婚約者である伯爵家嫡男から、キュリティの義妹が好きになったと言われたのだ。 さらには、婚約者の権力によって検査係の仕事まで義妹に奪われる。 失意の中、キュリティは辺境へ向かうと、極悪非道と噂される辺境伯が魔法実験を行っていた。 目立たず通り過ぎようとしたが、魔法事故が起きて辺境伯の子を身ごもってしまう。 二人は形式上の夫婦となるが、辺境伯は存外優しい人でキュリティは温かい日々に心を癒されていく。 一方、義妹は仕事でミスばかり。 闇魔法を解呪することはおろか見破ることさえできない。 挙句の果てには、闇魔法に呪われた荷物を王宮内に入れてしまう――。 ※おかげさまでHOTランキング1位になりました! ありがとうございます! ※ノベマ!様で短編版を掲載中でございます。

「お前を愛するつもりはない」な仮面の騎士様と結婚しました~でも白い結婚のはずなのに溺愛してきます!~

卯月ミント
恋愛
「お前を愛するつもりはない」 絵を描くのが趣味の侯爵令嬢ソールーナは、仮面の英雄騎士リュクレスと結婚した。 だが初夜で「お前を愛するつもりはない」なんて言われてしまい……。 ソールーナだって好きでもないのにした結婚である。二人はお互いカタチだけの夫婦となろう、とその夜は取り決めたのだが。 なのに「キスしないと出られない部屋」に閉じ込められて!? 「目を閉じてくれるか?」「えっ?」「仮面とるから……」 書き溜めがある内は、1日1~話更新します それ以降の更新は、ある程度書き溜めてからの投稿となります *仮面の俺様ナルシスト騎士×絵描き熱中令嬢の溺愛ラブコメです。 *ゆるふわ異世界ファンタジー設定です。 *コメディ強めです。 *hotランキング14位行きました!お読みいただき&お気に入り登録していただきまして、本当にありがとうございます!

ぽっちゃり女子の異世界人生

猫目 しの
ファンタジー
大抵のトリップ&転生小説は……。 最強主人公はイケメンでハーレム。 脇役&巻き込まれ主人公はフツメンフツメン言いながらも実はイケメンでモテる。 落ちこぼれ主人公は可愛い系が多い。 =主人公は男でも女でも顔が良い。 そして、ハンパなく強い。 そんな常識いりませんっ。 私はぽっちゃりだけど普通に生きていたい。   【エブリスタや小説家になろうにも掲載してます】

異世界で王城生活~陛下の隣で~

恋愛
女子大生の友梨香はキャンピングカーで一人旅の途中にトラックと衝突して、谷底へ転落し死亡した。けれど、気が付けば異世界に車ごと飛ばされ王城に落ちていた。神様の計らいでキャンピングカーの内部は電気も食料も永久に賄えるられる事になった。  グランティア王国の人達は異世界人の友梨香を客人として迎え入れてくれて。なぜか保護者となった国陛下シリウスはやたらと構ってくる。一度死んだ命だもん、これからは楽しく生きさせて頂きます! ※キャンピングカー、魔石効果などなどご都合主義です。 ※のんびり更新。他サイトにも投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

処理中です...