上 下
16 / 20

16.結婚式の余興依頼

しおりを挟む
「もう、お兄様達ったら水臭いわよね。
ギルド経由で私に合同結婚式の余興を頼むだなんて」

 私はクロちゃんの背に乗って家族のいる辺境領に向かっているわ。

 今朝になっていきなり生家の合同結婚式で王女、あ、今はあの子、王妃だったわね。
あの子の結婚パレードで気紛れにクロちゃんとやったのと同じ余興の依頼をギルド経由でお願いされたわ。

 S級冒険者への依頼ってギルド本部が手数料でそこそこぼったくるんだから、とっても高いのよ?
もちろん純粋に私の手元に入る報酬も高いのだけれど。
結婚式の余興にいくらつぎ込むつもりなのかしら。

 少なくとも次兄が元死の森の領主になった事も、2人の兄達が結婚する事も知ってはいたのよ?

 でもS級冒険者になった時に戸籍を離脱したの。
だから誘われない限りお兄様達の結婚式には出席しないつもりだったのよ。

 ・・・・誘って欲しかったけれど・・・・くすん。

 あら?
でも逆にどうやって向こうから誘うのかしら?

 そういえばダーリン(仮)の一件以来、まともに1ヶ所に長く留まったのだってあの王妃様が王女様だった時のお城くらいよね。

 滞在期間は半年くらいかしら?

 あの時はたまたまお花ちゃんとクロちゃんのお散歩に、山登りがてら岩や崖をよじ登って頂上目指してたのよね。
可愛い竜達は先に飛んで頂上に登ってたけど、その日はロッククライミングの気分だったから1人で登っていたの。

 そしたらいきなり何かが崖下から跳んでくるじゃない?
ちょうど岩場の出っ張りを掴んで崖にへばりついてたから背後を取られた形ね。

 仕方なくケルベロスのベロちゃんが落っことしてった、大きなトゲトゲの付いた首輪を岩場に映った自分の影から取り出して、ブン、て振り返り様に鞭のように振り回したわ。
狙い通り鋭いトゲトゲで剣みたいに首をスパって切断できたのよ。

 クロちゃんが私の影を亜空間収納化してくれてて助かったわね。
さすが私のクロちゃんだわ。

 どうでもいいけど、ベロちゃんは元気にやっているかしら。
ベロちゃんてばきっとお久しぶりのお散歩で感極まったのね。
ダンジョンから外に出てすぐに涙を流しながら私の掴んでた首輪から頭を引っこ抜いて戻って行ったのよ。

 あの時あの子の落ちた涙から生えた花は黒紫色でウゴウゴ波打ってて珍しい品種だったわ。
きっとお礼のつもりで生やしてくれたんだと思うと嬉しくて、ニコニコしながら摘んで持ち帰ったのよ。

 だけど夜中に花がモゴモゴ話し始めたのが気に入らなかったのね。
お花ちゃんに燃やされちゃった。

 ふふふ、話が脱線しちゃった。

 話を戻すけど、そのまま分離した狒々の生首と胴体と一緒に落ちてったアイツ、なんと王女様を脇に抱えてたの!

 これには後で人知れず背筋が凍ったわ。
だって首じゃなくて胴をスパッとやってたら、間違いなくあの子も殺っちゃってたもの。

「きゃあああああ!!」

 それはそうと、舞台で見た悪役令嬢がヒロインを階段から突き落とすシーンよりも真に迫った叫び声を上げたのは、王女様よ。

 でも私だっていつかそんな悲鳴を可憐に上げてやろうと機会を窺っているんですからね。
悪役令嬢だろうと、悪女だろうと、魔女だろうと、いつかやってやるんだから!

 なんて闘志を燃やしつつ、もちろん空中で狒々の黒い胸毛引っ掴んで自分の体を寄せたら、王女様を抱えて魔法で風と重力操作をして華麗に着地したわ。
かなりの高さだったけど、これでもS級冒険者ですもの。

 だ・け・ど!
ここで予想外な事態が発生したの。

 狒々の胴体が私達とほぼ同時に落ちたわ。
これは、まあビシャッと膝から下あたりが血で汚れたけど仕方ないわね。

 次の2つが問題。

 そう、狒々の生首と大量の血。
それが上から降ってきちゃったのよ。
生首は殴り飛ばしたんだけど、そしたら余計に、ねえ。

 王女様と一緒に頭からもろかぶりして、あっという間にいつぞやの鮮血の魔女が2人して出来上がったわ。

 これには金髪碧眼の王女様共々、呆然としてしまったわよ。

 しかも狒々の血がいつぞやの古竜のお花ちゃんの時と同じで落ちない!
正直お花ちゃんの時よりしつこくて、完全に色が落ちるのに王女様に誘われるまま、しばらくお城で過ごしたわ。

 きっとお城で1人だけ真っ赤なのが恥ずかしかったのよ。

 やっと色が落ちたかと思ったら、今度は2人して人外、というか、この世の世界じゃない者、というか、幽霊みたいなの?が、見えるんだもの。
驚きよね。

 王女様はびびりまくって泣き出すし、父親の国王は魔女の呪いか、とかいちゃもんつけてくるし、本当にムカついたわ。

 思わず国王の胸ぐら掴んでお花ちゃんとクロちゃんを影から召還して脅してやったわよ。

 本当に王女様を呪うついでにお城を吹き飛ばされるか、王女様が私と深夜の探検をして目を慣らすか選びなさい!てね。

 後でお城の王族しか閲覧できない禁書コーナーで見つけた古書に、狒々の血には染色やこの世に在らぬ者を見る効果があるって書かれていたの。
なるほどって納得したわ。
国王にも自慢気に見せたら禁書コーナーに立ち入った事で叱られちゃったから、今度はクロちゃんだけ呼んで脅しておいたわ。

 まあそんな感じで滞在してたら王女様と仲良くなって、結婚式のパレードで聖竜であるクロちゃんと一緒に光の魔法を使って祝福してあげたの。

 きっとお兄様達はそれを噂で聞いたのね。
まあ私に直接連絡しなかった事については不問にしてあげましょう。

 ギルドと違って私との直通の連絡手段が無かったのだもの。
すっかり忘れていたわね。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?

すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。 翔馬「俺、チャーハン。」 宏斗「俺もー。」 航平「俺、から揚げつけてー。」 優弥「俺はスープ付き。」 みんなガタイがよく、男前。 ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」 慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。 終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。 ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」 保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。 私は子供と一緒に・・・暮らしてる。 ーーーーーーーーーーーーーーーー 翔馬「おいおい嘘だろ?」 宏斗「子供・・・いたんだ・・。」 航平「いくつん時の子だよ・・・・。」 優弥「マジか・・・。」 消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。 太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。 「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」 「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」 ※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。 ※感想やコメントは受け付けることができません。 メンタルが薄氷なもので・・・すみません。 言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。 楽しんでいただけたら嬉しく思います。

(完結)嫌われ妻は前世を思い出す(全5話)

青空一夏
恋愛
私は、愛馬から落馬して、前世を思いだしてしまう。前世の私は、日本という国で高校生になったばかりだった。そして、ここは、明らかに日本ではない。目覚めた部屋は豪華すぎて、西洋の中世の時代の侍女の服装の女性が入って来て私を「王女様」と呼んだ。 さらに、綺麗な男性は、私の夫だという。しかも、私とその夫とは、どうやら嫌いあっていたようだ。 些細な誤解がきっかけで、素直になれない夫婦が仲良しになっていくだけのお話。 嫌われ妻が、前世の記憶を取り戻して、冷え切った夫婦仲が改善していく様子を描くよくある設定の物語です。※ざまぁ、残酷シーンはありません。ほのぼの系。 ※フリー画像を使用しています。

王太子の子を孕まされてました

杏仁豆腐
恋愛
遊び人の王太子に無理やり犯され『私の子を孕んでくれ』と言われ……。しかし王太子には既に婚約者が……侍女だった私がその後執拗な虐めを受けるので、仕返しをしたいと思っています。 ※不定期更新予定です。一話完結型です。苛め、暴力表現、性描写の表現がありますのでR指定しました。宜しくお願い致します。ノリノリの場合は大量更新したいなと思っております。

逆行転生した侯爵令嬢は、自分を裏切る予定の弱々婚約者を思う存分イジメます

黄札
恋愛
侯爵令嬢のルーチャが目覚めると、死ぬひと月前に戻っていた。 ひと月前、婚約者に近づこうとするぶりっ子を撃退するも……中傷だ!と断罪され、婚約破棄されてしまう。婚約者の公爵令息をぶりっ子に奪われてしまうのだ。くわえて、不貞疑惑まででっち上げられ、暗殺される運命。 目覚めたルーチャは暗殺を回避しようと自分から婚約を解消しようとする。弱々婚約者に無理難題を押しつけるのだが…… つよつよ令嬢ルーチャが冷静沈着、鋼の精神を持つ侍女マルタと運命を変えるために頑張ります。よわよわ婚約者も成長するかも? 短いお話を三話に分割してお届けします。 この小説は「小説家になろう」でも掲載しています。

断る――――前にもそう言ったはずだ

鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」  結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。  周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。  けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。  他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。 (わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)  そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。  ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。  そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

鈍感令嬢は分からない

yukiya
恋愛
 彼が好きな人と結婚したいようだから、私から別れを切り出したのに…どうしてこうなったんだっけ?

処理中です...