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序章〜終わり、そして始まり〜

【第十一話】始まり

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  悲鳴が聞こえる、誰のかも分からない、ただそれがいいものでは無いのは分かる、その中にはジャックのもあった、お母さんのもあった、永遠に自分の周りを渦巻く、悲鳴はだんだんと自分を包み込み、やがて、自分が悲鳴も上げられないほど、押しつぶされた、その目の前で全ての悲鳴が消えた、そして目の前には奴がいた、不敵な笑みを浮かべながら僕に近づいてきた、もう出ない声を振り絞って叫んだ、その時
「ッ!!、、、、はぁ、、、、はぁ、、、、夢?」
  さっきの出来事が、夢だったことに安堵しつつ、ベッドから出る、少しの間放心状態のように惚けていた、



「お目覚めですか」
  そうして少したった頃に、例のメイド服に身を纏った赤い髪の女が出てくる、
「あぁ、おはよう、えっと」
「失礼、個体名称を名乗るのを忘れておりました、何分博士以外の人物と会話をするのは、初めてなもので、私個体名称【Risー0042】と申します」
「長くない?」
「博士からは【リィズ】と呼ばれております、以後お見知りおきを」
  そう言うとリィズはヒラヒラした服の裾をつまむ様に持ち少し上に上げながら軽く会釈をした、
「朝食の準備が出来ております」
「、、、、分かった、けどもうひとつ」
「?なんでしょう?」
「博士の名前は?」
「ルズリグル博士でございます、最初に説明したでしょう」
  僕は首を傾げながら、
「いつ?」
  といった、すると少し呆れた顔で
「ここはルズリグル博士の研究所と言ったでしょう」
「、、、、そんなこと言ってたっけ?」
「アンドロイドがミスをするとでも」
「するだろ」
「はぁ、、、、もういいです、早く来てください、朝食が冷めてしまいます」
  僕は納得のいかない顔で部屋から出た、 



  朝食を食べ終えた後に色んなことを考えた、
  (これで、良かったのか)
  そう考えた瞬間、また悲鳴が聞こえて来た、
「うっ、、、、また、、、、これ、、、、」
  思わずその場に倒れ込んだその時に、
「大丈夫ですか」
  咄嗟に僕を抱えたのはあのアンドロイドだった、
「あぁ、すまん少し目眩がして」
「ですが、ヘルク様の健康状態は安定しております、私は精神面の健康状態が悪影響を及ぼしているのではないのでしょうか」
「、、、、全部分かってるんだな」
  リィズは黙って頷いた、
「昨日は分からなかった、あそこから出れたってだけで、それだけで満足してた、、、、だけど違った、俺は恨んでた、昨日今日と悲鳴を聴き続けて分かった、俺はあいつを殺したがってる」
「でも今のままでは勝てません、そk」
「そんなの分かってる!!!」
  少し興奮気味で遮るように、そう叫んだ、
「、、、、ごめん、続けて」
「承知、そこで一つ提案がございます」
「提案?」
「はい、我々はあなた様のその類まれなる魔法の才能に大変興味深く思っております、そこでですが、ここは一つ手を組みませんか?」
「手を組む?」
  俺は再度聞き返した、
「今この世界は混沌の極みを迎えております、科学こそが、世界を作ると信じてやまない【科学連邦サイエンティスタ】、魔法こそが世界の頂点だと信じて戦い続ける【魔法連邦マジカリスタ】、今この世界はこの二つの軍に分断されているのです、この二つの軍が手を組むなど到底有り得ない事なのです」
「ふーん、それで?何が言いたい」
  その瞬間、リィズはまた呆れる様に溜め息をつきながら、
「はぁ、、、、理解力ないですね」
「うっせぇ、いいから教えろ」
「片や【魔法連邦マジカリスタ】でも珍しい複数の魔導が使える【多重魔道士オクタキャスター】、片や【科学連邦サイエンティスタ】でも5人しかいない【白銀プラチナ】の称号を持つ科学者、二人が手を組めば、あなたの敵など簡単に、果たせるのでは?」
「、、、、俺を利用しようってか」
「言い方を変えれば、そうなりますね」
「、、、、わかった」
「承諾を得られたと、そう解釈しても良いのですね」
「あぁ、その通りだ、俺は復讐さえ出来ればそれでいい」
「そうかそうか、引き受けてくれたか」
  後ろを振り向くと、ルズリグルと呼ばれる奴が出てきた、
「君のことだ、引き受けてくれると信じていた、ありがとう」
「別にいい、俺にとってメリットしかないからな、断る必要がない」
「そうか、ではこれを」
  そう言って取り出したのは、手の形をした鉄で出来たものだった
「これは、、、、手か?」
「その通り、義手と呼ばれる、まあ腕の代わりじゃ、これを取り付ければ、魔法の精度や威力が上昇、もちろん魔導にも適応されるし普通に腕としても使える、じゃが、、、、」
「なんだ、なんか問題でもあるのか」
「いや、感覚が通らないんじゃ、つまり触っても分からない」
「それのどこが問題だ、痛みも感じないんだろう、だったら好都合だ、痛みに怯える必要がない、むしろメリットだ」
  俺がそう言うと、ルズリグルが少しの間俯いた、そして少しすると、また顔を上げて
「そうか、わかった、最後に一つだけ質問させてくれ」
「まだあるのか」
「これで最後じゃ、こいつを付けたらもう戻れん、お前さんは孤独に人生を歩んで行くことになる、それでもいいか?」
「別にいい、俺が信じれたのは母さんとジャックだけだ」
「わかった、では今すぐに施術を始めよう」



  始まった、いや終わったのか?分からない、だがここから何かが始まった、そして何かが崩れ始めた、いや崩れ始めたのは何かは分かる、それは、

  俺という人間が音を立てて崩れ始めた。

   
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