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50.お外でお昼ご飯
しおりを挟むとても短い挨拶で切り上げたけれど、アンジェは疲れ切っていた。
知らない人と話すというのはそれだけ彼女の神経をすり減らすのだろう。
そうなることを見越して、イリーナが庭へ出てすぐの所へ椅子を置いていてくれた。
一旦座らせてマフィンを食べているうちに、少しずつ笑顔が戻ってきた。
「少しましになったか?」
「……ん、ごめん、なさい。ちょっと、つかれちゃって……」
「そうなるのは当然だよ。気を使って知らない人と話すって、慣れてる俺ですら疲れることだからな」
「でも、たいへんなことは、もう、おわり!
あとは、セトスさまと、あそぶの!」
「そうだな。ここは、イリーナが出してくれた椅子なんだけど、少し向こうに東屋があるんだ」
「あずまや?」
「庭にあるちょっと屋根のある所で、椅子と机が置いてあるんだ」
「へぇ、そんなの、あるんだ」
「ちょっとだけ歩ける?」
「……ん、がんばる」
あっ、これは無理してるな。
そう気づいたから。
「触るぞ」
それだけ言って抱き上げた。
「わわっ」
少し驚いた様子だったけれど、いつものように俺の首に手を回す。
「セトスさま、ごほうび?わたし、がんばったから?」
「そうだな、今日の挨拶、アンジェは本当によく頑張ったよ。ご褒美が抱っこだけじゃ足りないな」
「そんなこと、ないよ?」
「アンジェは、何か欲しいものある?」
「ほしいもの……?」
唇を少し尖らせながら悩んでいるのがめちゃくちゃ可愛いな。
「ない、と、おもう。だって、わたし、いま、すごく楽しいもん!」
「そうか。アンジェが欲しいものができたらまた言ってね。俺はアンジェに何でもしてあげたいんだから」
「えへへ、ありがと」
俺の腕の中でふんわりと微笑むアンジェが可愛くて仕方がない。
本当に何でもしてあげたくなるんだよな。
愛しい温もりを抱えたまま東屋へと歩く。
少し寒めだけど天気は良くて、のんびりとピクニックするのに良い日和だと思う。
東屋の椅子にアンジェを下ろすと、物珍しそうに椅子や机を触っている。
剥き出しの木の感触が珍しいんだろう。
そうしているうちに、イリーナがランチの準備をする。
ランチといってもアンジェの好きなものなので、白パンとあんずのジャムがメインだ。
それにクッキーやスコーンが付いている、アフタヌーンティーのようなメニュー。
「ご準備できました」
イリーナがそう言うと、途端にアンジェが輝くような笑顔になった。
「おそとで~おひるごはん~♪」
歌うように抑揚をつけているあたり、テンションがとても上がってるな。
「楽しそうでよかった」
「たのしいよ!おそとで、セトスさまと、おひる!」
イリーナが、うしろから配置について説明をしている間もワクワクしてるみたいだった。
それでも母とマナーの練習をしている通り、優雅な手つきだ。
机の高さも普段と違うのに、ほとんど迷うことなく、食事できてるしアンジェの成長は目を見張るものがある。
「うふふ、おいしい」
両手でクッキーを持ってもぐもぐしている姿はリスみたいで可愛い。
「アンジェはいつも可愛いな」
ボソリとそう言うと、アンジェの顔がみるみる赤くなった。
「……わたし、かわいい?」
「アンジェはいつだって可愛いよ?」
「……ありがと」
耳どころか首まで真っ赤になる。
「可愛いアンジェが大好きだよ」
照れるアンジェが可愛いすぎて、重ねてそう言うと。
ことん
アンジェの食べていたクッキーが手から落ちた。
それにも気づいていないように手で耳を塞ぐ。
「あれ、可愛いって言われるの嫌だった?」
「……いやじゃ、ない。うれしい。でも、くるしいの」
「苦しい?」
「あのね、ねつが出てる、みたいなの。
しんぞうが、こわれちゃう」
やばい、かわいい。
かわいいしか言えない。
「……ふぅ」
少し息を吐いてから、手のひらでゴシゴシ顔を擦るアンジェ。
「とっても、とっても、嬉しかったの。セトスさま、ありがと」
まだまだ真っ赤な顔で、まっすぐ俺の方を向いてそう言ってくれる。
「わたしも、かっこいいセトスさまのこと、大好きだよ?」
……
「……ありがとう」
そう絞り出すように言うのが精一杯だった。
顔が赤くなってもアンジェには分からないし、大丈夫。
俺がこんなに動揺しているのは気づいてない。
多分、大丈夫。
「えへへ、セトスさまも、うれしい?」
「嬉しいよ、ありがとう」
アンジェが手を伸ばしてくるから何をしようとしてるのかと思って放っていると、顔をペタペタ触ってくる。
「セトスさまも、お顔あついね。おそろいだね!」
あれ、俺さっき顔赤いのはバレないとか思ってなかったっけ?
普通にバレてるんだけど……
めちゃくちゃ恥ずかしいな、これ。
「うん、おそろいだね」
「しんぞう、バクバクして、顔があつくなるの!セトスさまも、いっしょ!」
アンジェはやたらと嬉しそうだけど、俺はちょっと……
恥ずかしいのが先かもしれない。
「……ん?心臓、バクバクしてるのかい?」
「してるよ?音が、はっきりきこえてるもん」
「それも聞こえてるのか。アンジェは本当にすごいな」
俺と同じだという、たったそれだけのことをこんなにも喜んでくれる彼女がたまらなく愛しく思えて、思わず抱きしめた。
「やったー、セトスさまの、においと音だ」
ただ抱き寄せるだけでこんなにも喜ぶ彼女がただただ可愛くて愛おしくて。
大切にしていきたいと思えるんだ。
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