上 下
36 / 62

36.期待と努力

しおりを挟む


「いつ結婚式にする?」

「うーん……結婚式って何するの?」

 そこからか。
 まあそうだよな、知らないもんな。

「神様に、この2人が結婚しましたよっていう儀式なんだ。俺やアンジェの仲いい人に来てもらって、アンジェは綺麗なドレスを着て、みんなにお祝いしてもらうんだ」

「きれいな、ドレス……いいなぁ」

「いいなーって言ってるけど、アンジェが着るんだぞ?」

「でも、わたし、きれいかどうかは、分からない」

「でも触ってみてわかることもいっぱいあるし、想像して分かることもあるし」

「うーん、想像……」

「それに、選ぶのはドレスだけじゃないよ?
 花も料理も音楽も、2人で好きなものを選ぶんだ」

「2人で、選ぶ……たのしそう!」

 さっきまでの名残で少し目元が赤いけれど、とっても可愛い笑顔でそう言ってくれる。


「でも、色々選びに行くのも本番の結婚式をするのもアンジェが車椅子だと不便すぎるだろう?
 だから、式はアンジェが歩けるようになってからにしようかと思ってる」

「歩けたら、結婚式できる!?」

 興奮しているアンジェは可愛いんだけど……近い、近い。

「そうだけど、ちょっと落ち着いて」

「だって、わたし、セトスさまと、結婚したい!」

「そうだな。俺だってアンジェと結婚したい」

「どうしたら、歩ける?」

 よかった、どうしたら良いのかを考えるくらいまで落ち着いてきた。

「そりゃ毎日コツコツ練習するしかないだろう。
 そうやって、アンジェはここまで動けるようになったんだし。前は椅子から動くこともできなかったのに今では立って足を動かすことだってできるようになってる。
 これは毎日アンジェが努力した結果だろう?」

「うん」

「だから、これからもコツコツ真面目に練習していけばいいと思う」

「うん、わかった。わかったよ。
 それなら私でもできるもん。毎日やるのは大丈夫。
 しんどいことはできないかもしれないけど、できることはちゃんとやるから」

「アンジェはそういうところが一番いいところだよ。
 毎日コツコツできることと、できないことを『もう一回』って出来るところ。
 そういうところが俺が一番好きなところ」

「すき? セトスさま、わたしのこと好き?」

「もちろん。好きじゃなかったらこんなに一緒にいないし、こんなにアンジェのことで努力はしないだろう?」

「そうだね。ごめんなさい。
 でも、わたしは、セトスさまが好きだよって、可愛いよって、言ってくれるの、好きだから」

 ああ、なんて可愛いんだこの生き物は。
 素直で、一途で、真面目で、一生懸命。
 こんなに可愛い女の子は、俺がいいって言ってくれてる。

「アンジェのこれからの目標は、車椅子に頼らなくても1人で生きていけるようになること。
 車椅子がダメなんじゃない。あの時アンジェが向こうの家から出るためには車椅子が必要だっただろう?
 それに、今も車椅子がないと生活はできない。だから必要なんだけど、頼ってばかりじゃダメだ、アンジェは自分でできるようになってほしい」

「車椅子なしで、ひとりで?」

「そう。1人で立てるようになっただろう?」

「うん、なった」

「前は、1人で立てると思ってた?」

「ぜんぜん、思ってなかった。
 わたし、なんにもできないから」

「でも本当はそうじゃなかっただろう?だからアンジェは頑張ったらできるんだ」

「わかった! がんばって、車椅子がいらないっていえるようになる!
 あのね、わたしが、もしひとりで歩けたら、結婚してくれるだけじゃなくて、ほかのところへも、連れて行ってくれる?」

「もちろんだよ」

「ほかのところって、どんなステキなところがあるのかなぁ……?」

 うっとりと微笑むアンジェが可愛すぎる。
 こんな風に言われたら、どんなところへだって連れて行ってあげたくなるな。

「王都の中にも、公園とかカフェとか女の子が好きそうなところもあるし、アンジェが好きなピアノをプロの人が弾いてる、音楽会へも連れて行ってあげれる。
 俺の領地は少し遠いけど、海があって山があって川も流れてて、アンジェの知らないものとかいっぱいあると思う。
 海はあるところが少ないから、この国の中でも知らない人はいっぱいいると思うけど、いつかアンジェと一緒に行きたい」

「うみかぁ……どんなものなんだろ?」

「それは行ってからのお楽しみだな」

「セトスさまの、いじわる」

「アハハ、意地悪じゃないよ。知らない方がどんなものだろうって考える分、楽しいだろう?」

「うん、そうかも。車椅子が、いらないっていえるようになって、セトスさまと結婚して、いろんなところへ、連れて行ってもらうんだ!
 ふふふ、すっごく、楽しみ!」

 そうやって、期待に胸を膨らませて笑う彼女はとても可愛かった。
 彼女が期待しているものは、いつか訪れる未来じゃなくて、地道な努力の末に手に入れるものだと思う。
 それを成し遂げるために俺ができることは何でもしてあげたいと思った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

五歳の時から、側にいた

田尾風香
恋愛
五歳。グレースは初めて国王の長男のグリフィンと出会った。 それからというもの、お互いにいがみ合いながらもグレースはグリフィンの側にいた。十六歳に婚約し、十九歳で結婚した。 グリフィンは、初めてグレースと会ってからずっとその姿を追い続けた。十九歳で結婚し、三十二歳で亡くして初めて、グリフィンはグレースへの想いに気付く。 前編グレース視点、後編グリフィン視点です。全二話。後編は来週木曜31日に投稿します。

友情結婚してみたら溺愛されてる件

鳴宮鶉子
恋愛
幼馴染で元カレの彼と友情結婚したら、溺愛されてる?

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

【完結】誰にも相手にされない壁の華、イケメン騎士にお持ち帰りされる。

三園 七詩
恋愛
独身の貴族が集められる、今で言う婚活パーティーそこに地味で地位も下のソフィアも参加することに…しかし誰にも話しかけらない壁の華とかしたソフィア。 それなのに気がつけば裸でベッドに寝ていた…隣にはイケメン騎士でパーティーの花形の男性が隣にいる。 頭を抱えるソフィアはその前の出来事を思い出した。 短編恋愛になってます。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】優しくて大好きな夫が私に隠していたこと

恋愛
陽も沈み始めた森の中。 獲物を追っていた寡黙な猟師ローランドは、奥地で偶然見つけた泉で“とんでもない者”と遭遇してしまう。 それは、裸で水浴びをする綺麗な女性だった。 何とかしてその女性を“お嫁さんにしたい”と思い立った彼は、ある行動に出るのだが――。 ※ ・当方気を付けておりますが、誤字脱字を発見されましたらご遠慮なくご指摘願います。 ・★が付く話には性的表現がございます。ご了承下さい。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

処理中です...