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51.キラキラ、来訪
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51.キラキラ、来訪
次の日。
早速約束通りに王子様が家に来るらしい。
ツィリムは仕事だけど、カイル、エル、イフレートが居て万全の体制を感じる。
「えーっと、カイル? 王子様の名前、何だったっけ?」
カイルの膝の上に抱かれながら、そんな話をしてみる。
キラキラのイメージが強すぎて、名前を忘れてしまったよ。
「ラスキス・イラ・アセスリートだ」
「みんな名前長いけど、特に長いよね。アセスリートさん、アセスリートさん……」
繰り返し呟いて脳みそに刻み込んでいると、横からエルがひょこっと顔を出してくる。
「イズミルが頑張って覚える必要はありませんよ。相手は求婚者なのですから、覚えて貰えるように向こうが頑張ります」
「でも相手は王子様じゃない? しかも、一応初対面じゃないし自己紹介してもらったし。
それで名前間違えるのはさすがに失礼でしょ」
「イズミルは優しいですね。では、出迎えもしてあげますか?」
「してもいいならしようかな。カイルはどう思う?」
「王子を迎える立場としてはした方がいいだろうな。相手がどういうつもりかは知らんし、イズミルは気にしなくて大丈夫だが、王族相手だからな」
カイルもエルも賛成してくれてるみたいだから、下まで行こうか。
「そう言っているうちに来たようですよ。表が騒がしいです」
カイルに抱っこしてもらって下まで降りて、イフレートが開けた扉の向こうには予想以上の光景が広がっていた。
まず、真ん中にはこの前会った金髪女神王子様。その後ろにズラっと並んだ近衛騎士たちと、さらにその後ろにはローブの人やその他色々。キンキラの馬車まで居るからびっくりだよね。
映画のメインシーンですか、ってレベルの気合いの入りように私はただひたすら驚くしか出来なかった。
「イズミル、立って挨拶出来るか?」
カイルがそう訊くってことは、立った方がいいんだろう。
こくりと頷くと、ゆっくりと降ろしてくれた。
「救国の姫君さま、本日はお会い出来るお時間を作って頂き、誠に光栄で感謝申し上げます」
降ろしてくれるのを待っていたように、女神様が話し始める。
「今後とも末永く御付き合い頂きたく、どうぞよろしくお願いいたします」
よく通る声でそう言い切ると、ゆっくりと私の前に跪き、手の甲にキスを落とした。
「わたくしのこの想いを、受け取って頂けますでしょうか」
神々しいまでの金色の瞳がまっすぐに見上げてきて、どうしようかと思う前にカイルが助けてくれた。
「我らの妻はまだ決めかねている様子。しばし時間を重ね、互いを想う心を育てることもまた大切ではないでしょうか」
うんうん。
会って早々に求婚された上に即決を求められたら困っちゃうよ。
「もちろんそうでしょう。わたくしのことを、姫君により一層知って頂きたいですので、どうか心を通わせる時間を設けて貰えませんでしょうか」
カイルがやけに大袈裟な言葉で話すから、きっと大切なやりとりなんだろうと思って黙っていたけれど、私の反応待ちっぽかったので小さめにこくりと頷く。
「我らの妻も歓待しております。どうぞ中へ」
カイルが王子様を中へ通し、代わりにエルが抱っこしてくれる。
普段はあまり使うことの無い、ダイニングの向かいの応接室で話すみたい。
この部屋要る? ってずっと思ってたんだけど、こういう時のためにあるんだね。
「ていうか、人数多くない?」
抱っこしてくれているエルにそっとそう言う。
さっき見た全員ではないけど、10人くらいは一緒に入って来たから。バックダンサーかよ、って感じ。
「近衛は王族を守るのが仕事ですからね。ここは普通の街中の家に過ぎません。
王族を守るには難しいと思っているのでしょう」
「確かにそうかもね」
「実際には、ツィリムが全力で守護結界を作っていますから、下手をしたら王宮よりも安全かもしれませんが」
ふふふ、と綺麗に笑うエルがソファへ座らせてくれて、周りで沢山の人が見ている中で王子様とのおしゃべりが始まった。
「姫君様、まずはこうして屋敷へお招き頂き、お時間をとってくださいましたことを感謝申し上げます。
そして、ぜひわたくしのことを知って頂き、魅力的だと感じて貰えますように努力致します」
ただでさえ脳みそ止まりそうなうつくしすぎる笑顔で小難しいセリフを話されると、完全に脳を素通りしていまう。
「殿下、失礼ながら口を挟ませて頂けますでしょうか」
カイルが丁寧すぎるくらいの口調でそう言う。
バイトしかしたことない私では、この話し方をするのは難しそうだ。
「どうした?」
おおぅ。私には超丁寧なのにカイルに向かっては高圧的なのか。それはちょっとなぁ……。
「我が妻は、世界を渡ってこの国へ来られたばかりです。このような王宮での話し方は難しく、殿下の想いを受け取りづらいかと思われます」
「ふむ、それも道理よな。では姫君様、砕けた口調で話すことをお許し頂けますでしょうか」
「はい」
彼のセリフが私の脳内を素通りしていることに、カイルはちゃんと気づいてくれていたみたい。
ありがとう、の気持ちを込めてカイルを見ると、ふわりと笑ってくれた。
「じゃあそろそろ私も普通に喋っていいかな?」
カイルとエルを伺うと2人とも頷いてくれた。
「普通に話す、とはどういうことだ? 今までは普通では無かったと?」
王子様にそう言われて、彼から見たら私は結構普通に見えてたことが分かった。
「頑張って大人しくしてたんだよ? キンキラの馬車だし、いっぱい人を連れてるし。
今も人は多いけど、これはもう仕方ないんでしょ?」
「まあそうだな。気になるかもしれぬが、我慢して欲しい」
神妙な顔つきで頭を下げる様子は王子様とは思えないくらいに腰が低くてそこは好感度高めなんだけど、カイルに対する態度とのちぐはぐさは気になる。
沢山会って話して分かりあっていけたらいいな。
次の日。
早速約束通りに王子様が家に来るらしい。
ツィリムは仕事だけど、カイル、エル、イフレートが居て万全の体制を感じる。
「えーっと、カイル? 王子様の名前、何だったっけ?」
カイルの膝の上に抱かれながら、そんな話をしてみる。
キラキラのイメージが強すぎて、名前を忘れてしまったよ。
「ラスキス・イラ・アセスリートだ」
「みんな名前長いけど、特に長いよね。アセスリートさん、アセスリートさん……」
繰り返し呟いて脳みそに刻み込んでいると、横からエルがひょこっと顔を出してくる。
「イズミルが頑張って覚える必要はありませんよ。相手は求婚者なのですから、覚えて貰えるように向こうが頑張ります」
「でも相手は王子様じゃない? しかも、一応初対面じゃないし自己紹介してもらったし。
それで名前間違えるのはさすがに失礼でしょ」
「イズミルは優しいですね。では、出迎えもしてあげますか?」
「してもいいならしようかな。カイルはどう思う?」
「王子を迎える立場としてはした方がいいだろうな。相手がどういうつもりかは知らんし、イズミルは気にしなくて大丈夫だが、王族相手だからな」
カイルもエルも賛成してくれてるみたいだから、下まで行こうか。
「そう言っているうちに来たようですよ。表が騒がしいです」
カイルに抱っこしてもらって下まで降りて、イフレートが開けた扉の向こうには予想以上の光景が広がっていた。
まず、真ん中にはこの前会った金髪女神王子様。その後ろにズラっと並んだ近衛騎士たちと、さらにその後ろにはローブの人やその他色々。キンキラの馬車まで居るからびっくりだよね。
映画のメインシーンですか、ってレベルの気合いの入りように私はただひたすら驚くしか出来なかった。
「イズミル、立って挨拶出来るか?」
カイルがそう訊くってことは、立った方がいいんだろう。
こくりと頷くと、ゆっくりと降ろしてくれた。
「救国の姫君さま、本日はお会い出来るお時間を作って頂き、誠に光栄で感謝申し上げます」
降ろしてくれるのを待っていたように、女神様が話し始める。
「今後とも末永く御付き合い頂きたく、どうぞよろしくお願いいたします」
よく通る声でそう言い切ると、ゆっくりと私の前に跪き、手の甲にキスを落とした。
「わたくしのこの想いを、受け取って頂けますでしょうか」
神々しいまでの金色の瞳がまっすぐに見上げてきて、どうしようかと思う前にカイルが助けてくれた。
「我らの妻はまだ決めかねている様子。しばし時間を重ね、互いを想う心を育てることもまた大切ではないでしょうか」
うんうん。
会って早々に求婚された上に即決を求められたら困っちゃうよ。
「もちろんそうでしょう。わたくしのことを、姫君により一層知って頂きたいですので、どうか心を通わせる時間を設けて貰えませんでしょうか」
カイルがやけに大袈裟な言葉で話すから、きっと大切なやりとりなんだろうと思って黙っていたけれど、私の反応待ちっぽかったので小さめにこくりと頷く。
「我らの妻も歓待しております。どうぞ中へ」
カイルが王子様を中へ通し、代わりにエルが抱っこしてくれる。
普段はあまり使うことの無い、ダイニングの向かいの応接室で話すみたい。
この部屋要る? ってずっと思ってたんだけど、こういう時のためにあるんだね。
「ていうか、人数多くない?」
抱っこしてくれているエルにそっとそう言う。
さっき見た全員ではないけど、10人くらいは一緒に入って来たから。バックダンサーかよ、って感じ。
「近衛は王族を守るのが仕事ですからね。ここは普通の街中の家に過ぎません。
王族を守るには難しいと思っているのでしょう」
「確かにそうかもね」
「実際には、ツィリムが全力で守護結界を作っていますから、下手をしたら王宮よりも安全かもしれませんが」
ふふふ、と綺麗に笑うエルがソファへ座らせてくれて、周りで沢山の人が見ている中で王子様とのおしゃべりが始まった。
「姫君様、まずはこうして屋敷へお招き頂き、お時間をとってくださいましたことを感謝申し上げます。
そして、ぜひわたくしのことを知って頂き、魅力的だと感じて貰えますように努力致します」
ただでさえ脳みそ止まりそうなうつくしすぎる笑顔で小難しいセリフを話されると、完全に脳を素通りしていまう。
「殿下、失礼ながら口を挟ませて頂けますでしょうか」
カイルが丁寧すぎるくらいの口調でそう言う。
バイトしかしたことない私では、この話し方をするのは難しそうだ。
「どうした?」
おおぅ。私には超丁寧なのにカイルに向かっては高圧的なのか。それはちょっとなぁ……。
「我が妻は、世界を渡ってこの国へ来られたばかりです。このような王宮での話し方は難しく、殿下の想いを受け取りづらいかと思われます」
「ふむ、それも道理よな。では姫君様、砕けた口調で話すことをお許し頂けますでしょうか」
「はい」
彼のセリフが私の脳内を素通りしていることに、カイルはちゃんと気づいてくれていたみたい。
ありがとう、の気持ちを込めてカイルを見ると、ふわりと笑ってくれた。
「じゃあそろそろ私も普通に喋っていいかな?」
カイルとエルを伺うと2人とも頷いてくれた。
「普通に話す、とはどういうことだ? 今までは普通では無かったと?」
王子様にそう言われて、彼から見たら私は結構普通に見えてたことが分かった。
「頑張って大人しくしてたんだよ? キンキラの馬車だし、いっぱい人を連れてるし。
今も人は多いけど、これはもう仕方ないんでしょ?」
「まあそうだな。気になるかもしれぬが、我慢して欲しい」
神妙な顔つきで頭を下げる様子は王子様とは思えないくらいに腰が低くてそこは好感度高めなんだけど、カイルに対する態度とのちぐはぐさは気になる。
沢山会って話して分かりあっていけたらいいな。
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