47 / 47
47.事情説明
しおりを挟む「面倒くさくて分かりにくいと思うけど、聞いておいて欲しい話があるんだ」
「何?」
カイルがやけに神妙な顔つきでそう言うから、こちらも気持ちが改まる。
「まず、我が国アレタード王国の周りには、三つの国がある。
東のカヤッタエラは砂漠の国で、ツィリムの出身地だ。雨を求めてこちらへ来た住民と多少小競り合いになる程度で、大したことはない。国力もあまりないしな。
次に西のシャーラセルラ神国。セラルシオの出身地で、エルフの国だ。世界樹とかいう木を信仰しているらしくて、良くも悪くも内向的だからほぼ関わりがない。
問題は、北と南だ」
とりあえず、私と仲の良い人たちの国とは悪くない関係のようで安心するけれど……。
多少の小競り合いがあるのに、『悪くない』と言えるって、他とはどれだけ仲悪いんだろう。
「北には、魔境がある。その名の通り、魔物が棲む土地で、正直良く分からない。
魔物自体、生態が分かっていないし、奴らがどんな群れを作っているか、など更々不明だ。
唯一分かっていることは、見つけた人間を無差別に襲う、ということだ」
「そんな生き物がいるの!?」
初耳だった。
魔法があって割とファンタジーだとは思っていたけど、人類の敵が居るほどだとは……。
「今までの攻撃は散発的だったから何とか国境線を維持できていたが、最近難しくなっているらしい」
「魔物については、僕から話してもいいですか?」
それまで黙って聞いていたエルが口を開く。
「以前、月儀式というものがあると言いましたよね? 三日三晩かけてマナを還元するのですが、それを行うことで魔物を減らせるというものです。
しかし、最近では儀式の内容は変わっていないのに、魔物の様子が変わってきています」
「ちゃんとやってても、魔物が増えてるの?」
「そうなのです。なので、王国としても神殿としても非常に困っています」
本当に困っているんだな、と分かるくらいに灰色の眉をぎゅーっと寄せるエルに続いて、カイルが説明をしてくれる。
「最後は、南のタタルタンテ帝国だ。
最近勢力圏を広げることに躍起になっていて、周辺国に戦争を仕掛けているんだ。
以前は国境を接していなかったんだが、数年前にサラルアテニー王国が滅ぼされて、次はこの国が狙われてる、ってことだな」
「戦争に積極的な国のことって、私にはあんまりよく分からないんだけど……。
北と南に敵が居るって、挟まれてるってことじゃない? 大変だよね?」
「まあそうなんだが、魔物相手では手の組みようがないからな。挟み撃ちにされるという最悪のシチュエーションは起こりにくい。
魔物の動きを利用されると大変だろうとは思うが」
「戦いがそんなに身近にあるなんて知らなかったよ。それなら、私の魔力が欲しいって言うのも納得だし」
「そんな状況だから、国としては強い魔力が欲しいんだ」
強い口調でカイルが言い切り、エルもそれに同意するように深く頷く。
「神殿側も、恐らく動き出すでしょうね。
神託の数はそれなりに多いので、イズミルは今まであまり注目されてはいませんでした。
しかし、魔術師団内であれだけの騒ぎを起こせば調査するでしょうし、神託の乙女だと言うことはすぐに分かります。
神殿は魔力を使えないので今すぐ利用されることはないでしょうが、確保しようとしてくるかもしれません」
「これは俺の感覚でしかないんたが、神殿は王宮よりもさらに閉鎖的だ。最悪の場合、結婚すらさせずに幽閉する可能性がある」
「神殿に居る僕から見ても、有り得る事だと思います」
カイルとエルが真剣な目で私を見つめてくれるから、私に出来ることを精一杯したいと思う。
「そこで提案なんだが、せめて王子を一人、夫にすることは許せないか?」
……精一杯したいとは思うけど、やっぱり文化の違いって難しいよね、って思う。
譲歩するとこが結婚なんだもん。
「どんな人かによる、かなぁ……」
「それはそうですよね。
僕もそう思いますし、女性の気に入った人しか夫にしない、ということは受け入れられることですから、安心してくださいね」
「本当に申し訳ないんだが、『王家のうち誰か一人を夫にする』ということは、たぶん避けようがない。
その中でも、出来れば王子の方が、今後の発言力としても良いとは思う」
まあ、そうだよね。
政略結婚なら、権力が高い人の方が良いに決まってる。
「じゃあ、最初は権力的にもオススメな人を紹介して貰えるかな?
その人がどうしても嫌だ、ってなったら他の人にチェンジで」
「よし、分かった。王に対してでも、それくらいのことは呑ませられると思う。
急ぎで悪いんだが、納得出来たなら一緒に王宮へ行ってくれるか?
ツィリムが居てくれてはいるが、そう待たせられる相手でもないから」
「ん? 誰か待たせてるの?」
「ああ、王から会いに来いと」
当たり前のようにカイルがそう言うからびっくりしちゃった。
「王さまから呼ばれてるの!?
早く行かなきゃじゃない!」
「いいんですよ、イズミルは女の子なんですから、いくらでも待たせてれば」
そう言って頭を撫でてくれるエルの手はとっても優しいけど、私の精神はちっとも休まらない。
「とはいえ行かないと話は進まない。エル、イズミルの準備を任せていいか?
俺はツィリムに連絡入れてくる」
「ええ。イズミルは素敵なドレスに着替えましょうね」
すい、と危なげない動きで私を抱き上げるエルは心無しか嬉しそうで、行先には不安しかないけれど、お出かけをエルが楽しめるなら悪くはないかな、と思えた。
31
お気に入りに追加
1,084
この作品の感想を投稿する
みんなの感想(8件)
あなたにおすすめの小説
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話
やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。
順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。
※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
【※R-18】私のイケメン夫たちが、毎晩寝かせてくれません。
aika
恋愛
人類のほとんどが死滅し、女が数人しか生き残っていない世界。
生き残った繭(まゆ)は政府が運営する特別施設に迎えられ、たくさんの男性たちとひとつ屋根の下で暮らすことになる。
優秀な男性たちを集めて集団生活をさせているその施設では、一妻多夫制が取られ子孫を残すための営みが日々繰り広げられていた。
男性と比較して女性の数が圧倒的に少ないこの世界では、男性が妊娠できるように特殊な研究がなされ、彼らとの交わりで繭は多くの子を成すことになるらしい。
自分が担当する屋敷に案内された繭は、遺伝子的に優秀だと選ばれたイケメンたち数十人と共同生活を送ることになる。
【閲覧注意】※男性妊娠、悪阻などによる体調不良、治療シーン、出産シーン、複数プレイ、などマニアックな(あまりグロくはないと思いますが)描写が出てくる可能性があります。
たくさんのイケメン夫に囲まれて、逆ハーレムな生活を送りたいという女性の願望を描いています。
男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました
かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。
「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね?
周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。
※この作品の人物および設定は完全フィクションです
※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。
※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。)
※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。
※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!
当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。
しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。
彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。
このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。
しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。
好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。
※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*)
※他のサイトにも重複投稿しています。
目が覚めたら男女比がおかしくなっていた
いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。
一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!?
「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」
#####
r15は保険です
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。
初めまして。とても楽しく読ませていただいてます。イケメンがたくさん出て愛される良いですね!
これからも頑張って下さい。
あと、ひとつ思ったのですが9話の結婚式で教卓と出てたのですが、祭壇と書いた方がいいのではと思いました。まじで教卓思い浮かべてしまいました笑
お読みいただきありがとうございます!
教卓の件、ご指摘ありがとうございました。
分かりやすい方が良いかと思っての表現でしたが雰囲気を崩すとのご意見に納得致しましたので修正致しました。
これからもスローペースながら頑張っていきますので何卒よろしくお願いいたします。
やったー!更新ありがとうございます!(о´∀`о)
感想ありがとうございます!
のんびりですが頑張って更新致しますので今後ともよろしくお願いします✨
こちらの更新は今後ないのでしょうか?
お話楽しく読んでいたのですが続きが待ち遠しいです。