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44.居てくれるだけで
しおりを挟むとりあえず、私にできることは何もないかなー、と思うから、いつも通りに刺繍をしたり、本を読んだりして過ごしていた。
出来ることがないのが辛いし、心配なんだけれど……。私が一人で不安になってても仕方ないからね。
そうして日が暮れてきて、イフレートが帰る時間になってしまった。
それなのに、ふとキッチンを覗くとまだいてくれている。
「イフレート、時間大丈夫?」
話しながらダイニングテーブルの端の椅子に腰掛けるとイフレートも向かいに座ってくれた。
「今日はこちらにいようと思うのですが、よろしいでしょうか?」
「えっ、帰らなくていいの?」
「少なくとも、誰かが帰って来るまではいようかと」
笑って、何でもないことのように言ってくれるけど、正直めちゃくちゃありがたい。
「本当にいいの? 無理してない?」
「全く無理はしていません。家への連絡はもうしてありますし、そちらは他の人が代わりにしてくれますから」
「迷惑かけてごめんね。ありがとう」
「迷惑などではありませんよ。特にイズミさまはまだ夫の人数が少ないですから」
なるほど。そういや6人から7人って言ってたな。
「夫が多かったら、こういう時でも1人きりにならないってことねぇ……」
いつも夫を増やす話をされたら条件反射のように嫌だって言ってるけど、みんながオススメしてくるのにはそれなりの理由があるんだよね。
「ですが、イズミさまはまだこの国へ来てからの日も浅いですし、慣れてきて夫が増えるまでは、こうして他の人の手を借りていたらいいと思いますよ」
「本当にありがとう。申し訳ないけど、頼らせてもらえる?」
「もちろんです」
今日は色々なことがあって疲れているのに、その上これからイフレートが帰って1人になってしまうと思っていたから、無意識にとっても緊張していたみたい。
昼間みたいなことが、また起こったらどうしようって。
だけど、イフレートが出てくれるって分かったら、途端に気が抜けて、体の力が抜けるのと一緒にため息をついた。
「ふぅ。イフレート、ありがとう。私ひとりじゃ本当に何もできないなぁ、ごめんね」
ひとりで留守番すらできないなんて、子供みたいと落ち込んでしまう。
「イズミさま、人間はみんな、一人では生きていけませんよ」
優しいアメシストの瞳が、私の心を慰めてくれるよう。
「一人で生きていると言う人は、周りにいる人を見ていないだけです。
カイルセルさま、ツィリムさま、エルドルトさまが頑張れるのも、守るべき人がいるからです。違いますか?」
ふるふると首を横に振る。
「イフレート、本当にありがとう」
「いえいえ。お役に立てて何よりです」
何事もないように柔らかく笑っているイフレートと一緒にいると、少しずつ元気が湧いてきた。
「多分、明日も色々あると思うけど、よろしくお願いします」
「もちろんです。一緒に、頑張りましょうね」
よし、明日も頑張ろうっと。
イフレートのおかげで、そう思うことができるようになった。
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