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28.家事をしよう!
しおりを挟むうーん、暇だ!!
結構前から毎日の暇つぶしには刺繍をしていて、旦那さん3人分の持ち物にはだいたいやり終わった。
正直、しばらくは針も見たくないレベルでずっと刺繍ばっかりしていたし。
他にやることもないから魔術の本を読んだりもしてたけど、この世界では本は高級品らしいことを知ってからはあんまり頻繁に買うのも申し訳ないから控えている。
すると、もう何もすることがない!
大学に通ってたころは、バイトにも大学にも行かずにグダグダ寝て過ごしたいって思ってたけど、実際そういう状況になってしまうとあんまり快適ではない事が分かった。
稼ぎがないから好きな物買えないし、外に一人で出ることすら出来ないのは、結構しんどいんだよ……
「カイル~!」
そうやって暇を持て余した結果、忙しい旦那さんの邪魔をするウザい女になってる。
「ん?イズミル、どうした?」
「いや、別にどうしたってわけじゃないんだけどね。暇でさぁ。」
「もしかして、外に出たいのか?」
すごーく意外そうな顔でそう言われて、むしろ私がびっくりした。
「出れるなら出たいよ?」
「そうなのか……てっきり、たまにちょっと出る程度かと思ってたんだが」
「できるなら毎日でも出かけたいよ! というか、そろそろ何か仕事が欲しいくらいだし」
「仕事?」
「だって、私は今の所お荷物でしかないじゃない? カイルもエルもツィリムもとってもよくしてくれるのに、私はなんにも出来てない」
私にしたら、イフレートは毎日来てくれなくてもいいのにって思う。
現状、子供のいない専業主婦な私は、家事くらいやりたいのにそれすらもさせてもらえないから。
「前にも言ったと思うが、俺たちはイズミルに働いて欲しいとは思っていない。
イズミルは役に立てていないと言うが、毎日いつ帰って来ても笑顔で出迎えてくれて、愚痴でも自慢でも笑顔で聞いてくれる。
それだけで、どれだけ嬉しいか分かるか?」
……それは、分かってる。
前に私が同じことを言った時に教えてもらったから。
この世界にひとりぼっちで、途方に暮れていた私に衣食住を提供してくれて、家族になってくれて。
一番大変な時に私を助けてくれた人たちだから、できるだけ希望に添いたいと思っているんだけど……
私がどう言えばいいか悩んでいると、膝の上に乗せてくれて、抱きしめて髪を撫でてくれる。
「俺たちの所へ来てくれてありがとう。イズミルは笑っていてくれてるだけでいいんだよ」
体温が優しく伝わってきて、それがそのままカイルの優しさみたい。
「でも、俺らにそう言われるだけじゃイヤなんだよな……俺は、イズミルの『普通じゃない』所が好きだから、何か出来ることがないか、考えておくよ」
「ありがとう! やっぱり私は普通じゃないんだね……でも、カイルに『好き』って言って貰えるのはとっても嬉しい!」
私がそう言うと、カイルは優しく微笑んでキスしてくれた。
優しくて、優しすぎて私はその優しさに甘えてしまう。
現状をどうにかしようと思ってたのに、カイルは真綿でくるむように私を優しく抱きしめてくれる。
それに甘えてしまって、何にもしようとしない私は良くないと思うんだけど……
たぶん、カイルはこうやって何もしないのが普通だと思ってて、私との感覚の差は大きい。
一緒に暮らし初めてから何度もこういう話をしてるけど、毎回、私が現状に妥協してしまう。
でも、カイルは私が好きなように変えることをあんまり嫌がってないみたいだから、出来る所から少しずつ、私の好きなようにしてみようと思う。
*****
翌朝。
とりあえず、私に出来ることを考える。
イフレートが来なくていいのにって言ってるだけだと私の思うようには多分ならない。
皆は基本的には私のことを考えてくれているんだけど、感覚の違いが大きすぎるから。
だから、先に自分でやってしまって、私は自分で色んなことができるんだってことを分かって貰おう。
口で説明するより分かりやすいと思うしね。
と、いうことで!
今日はカイルとエルを朝に送り出し、昼前にツィリムが帰ってくるまで一人だから、その間に出来ることをやってしまおう!
洗濯物の取り込んでから、ちょっと気になってた階段の手すりを拭き掃除する。
他にも少し拭き掃除していると、そろそろツィリムが帰ってくる時間。
玄関周りにいたら、すぐに出迎えれるから玄関ポーチの掃除をする。
イフレートは頑張って家事をしてくれてるけど、家に来てるのは午後の数時間だけだし、ひとりで完璧にするのは無理だと思う。
まぁ、ちょっと手を抜いてくれた方が私のすることが増えて嬉しいんだけど。
ガチャ
あっ、ツィリムが帰って来た!
「おかえりー」
「ただいま。何してる?」
作業しながら玄関で出迎えた私に、とっても驚いたみたい。
「んー? 掃除」
「何で、イズミが? 気に入らなかった?」
「いやいや、気に入らなかったってわけじゃなくて、ただ単に暇だったから」
「イズミがやらなくても、言ってくれたらやるのに」
「私が好きでやってるだけだから、いいのよ」
私のやりたいことがよくわからないみたいで、しばらく考え込んでいたツィリムだけど。
「前に言ってた、『自分で出来ることは自分でする』って、こういうこと?」
「そう。だって、これなら誰にも迷惑じゃないし、なんならイフレートは仕事が楽になるくらいでしょ?
しかも、私は自分でやりたいことができる。
いいことばっかりじゃない?」
「……イズミルは、本当に働きたいんだ」
「うん。別に家の外でなくてもいいから、自分の役に立つことが欲しいだけ」
たぶん、私はツィリムが思っても見なかったようなことをしてるんだと思う。
ただ、玄関で立ち尽くす必要はないわけで。
「ツィリムー? イフレートはまだ来てないけど、お昼ご飯たべる? それとも、来るまで待ってる?」
はっ、と気付いたツィリムが薄く微笑んだ。
「ん、ちょっと、いいこと考えてた。ちょっと待ってて欲しい」
「いいよ?」
私の大好きな綺麗な笑顔はいいんだけど、あんまりいい予感がしないのはなんでだろうね?
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