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24.こちらの方がいいでしょう?

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いつもの私は目覚まし時計で起きているけれど、今日は違った。
ふんわりたお日様のような香りに包まれて、抱き上げられる。

あ、エルの匂い。


「イズミル、起きてください。もう時間ですよ」

まだ上手く動いてない頭が、ようやくエルの顔をきちんと認識してくれた。

「起きましたか? 今日は忙しいですから、早めに起きてくださいね」

ふんわりとした笑顔を向けてくれて、ようやく目が覚めた。

「おはよう。ごめんね、寝坊しちゃった?」

「いえ、僕が勝手に起こしに来ただけで、そんなに遅くなっているわけではないですよ」


言いながら私をベッドに下ろし、着替えを用意してくれる。

あっ、やばい。
のんびりご飯食べてる場合じゃなかったんだ。

「ごめんツィリム、イフレート。全然準備できてなくて」

申し訳なくなってそういうとツィリムはきょとんとした顔をした。
ん?何かおかしなことしたかな?

横で他の作業をしていたエルが助け船を出してくれた。

「イズミル、そういう時は笑顔でありがとうって言えばいいんですよ。
みんなイズミルのために、イズミルが喜んでくれるようにやってるんですから」

なるほど、考え方の違いかな?

「教えてくれてありがとう。ツィリムもイフレートも朝早くからありがとう。今日忙しいと思うけどよろしくね?」

私の感覚ではこれだけ他人に面倒をかけるのは申し訳なくなっちゃう。
でもしてくれてるみんなが求めてるのは、私が動くことじゃなくて、私が謝ることでもなくて、笑顔でありがとうっていうことなんだってこと。

でも確かにその方が嬉しいよね。
ツィリムも喜んでくれたみたいだし。

「ありがとう、いってらっしゃい」




ふたりを送り出してすぐ私の準備をしなきゃいけない。
とは言っても必要なものはほとんど持っていてくれたから、ちょっと可愛いワンピースに着替えて大人しく待ってるだけなんだけどね。

やることはないのかな?
何もないからむしろソワソワして落ち着かないんだけど。
こんな話も今度しないといけないなぁってちょっと思った。

私のためを考えてしてくれてることだけど、私はそれが嫌ってどう伝えたらいいのかわからないけど……

つらつら考え事をしている間にカイルとエルの準備も終わったみたい。
3人で馬車に乗ってカイルの時と同じ神殿に向かう。

エルの隣に座って景色を眺めているのは本当に楽しい。
けれど 最初とても珍しく感じた景色も、今はちょっとずつ慣れていってて、窓に釘付けではなくなってる。






「そういえば、今日はカイルの時と同じ?」

「そうですね、ほぼ同じです。
家族は来ないんですが、カイルの時も話はしていないからほとんど関係ないと思います」

とってもいい機嫌がいいエル。
普段は結構落ち着いてる人だけど、こういう面もあるんだなぁ。


「出会ってからたった2ヶ月ちょっとですけどとっても長く感じました。今日やっと僕はイズミルの夫になれるんですから」

ゆっくりと髪を撫でてくれる手が気持ちいい。
この手は私は守ってくれるって知ってるから。

「それに、イズミルは僕が素の自分でいてもいいって言ってくれました。
イズミルは何の気無しに言ったことだと思いますが、そう言ってくれたことが私にとってどれだけ嬉しかったか」

イズミルのことはもちろん大切にしたいと思うし、魅力的だと思うのも間違いない。

それでも僕は神殿関係者であり、身元責任者でもある僕は神託の乙女だからイズミルを魅力的に捉えているのではないか、と言われて否定しきれないところがあった。


でも僕は僕なりに、イズミルを大切にしてあげればそれでいい。


大切にしたいと思えるものが自分の腕の中にあることがこんなに幸せだってことイズミルと出会ったから知ることができた。

僕1人のものというわけにはいかないけれど……

今日は、今日だけは僕の腕の中にいて。




馬車から降りる時、イズミルは抱き上げられるのを嫌う。
だから先に降りて、手を貸すだけにしてみたら、はにかんだような笑顔で手を乗せてくれた。

「ありがとう」

このやり方でよかったみたいだ。

普通はこんな風にしないけど、イズミルにはこっちの方がいいようだから。

「では行きましょうか」

イズミルの腰に手を回し支えるようにしてエスコートする。

「本来、どうしても抱き上げられない時にすることですけど、イズミルにはこの方がいいかと思って」

少し驚いたような顔をしたから慌てて聞いてみた。

「いつもの方が良かったですか?」

「ううん、こっちの方がいい。けど、こんな風にしてくれたことなかったからちょっとびっくりしちゃっただけ」

「イズミルは、抱き上げられるのはあまり好きではないですよね?居心地悪そうなので」

「うーん、そうかな。ありがとう、気づいてくれて」


朝からちょっと緊張気味だったイズミルも少し気が紛れたのか、いつものように明るく笑ってくれた。


ツィリムとイフレートが準備をしてくれているから、その部屋にイズミルを連れていく。

「すぐ着替えてきますので、お願いします」

2人にイズミルのことを頼んで自分は先に着替えに行く。

隣の部屋に準備しておいたのは、イズミルが僕のために選んでくれた衣装。
他人が見たらちょっと気持ち悪いくらいニヤニヤしてると思う。

いやいや考え事してる場合じゃない。
早く着替えて彼女のところへ戻らないと。




******

新連載始めました。
『俺の天使は盲目でひきこもり』
可愛い女の子と、それを見守る婚約者のお話しです。
よかったら読んでみてください!

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