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23.マリッジブルー
しおりを挟むエルの休みの日に、アクセサリーを選んだりパーティーの食事メニューを選んだりして楽しんでたら、あっという間に結婚式前日。
こちらの世界で楽しく過ごしている私だけれど、ふとした瞬間に不安になることがある。
もとの世界に帰れないことは分かってるし、この世界でも楽しくやっていける。
なのに、やっぱり、「帰りたい」って思う瞬間があるんだ。
自分自身、流されやすい性格だって思うし、どこへ行ってもそれなりに楽しく過ごせる。
周りの人たちも本当に良くしてくれてる。
それでも、こちらの常識に馴染みきれないところだってあるわけで。
『ふたりめの旦那さん』ってことがちょっと許容しにくい。
もちろん今だって4人で生活してるし、それが変わるわけじゃない。
それに、エルやツィリムと結婚しないって選択もあるけど、たぶんしない。
自分がひとりでネガティブになってるだけなんだけど、なんだか落ち着かない気分になってしまってる。
うーん。
こんなことをぐちゃぐちゃ考えちゃうのも、ヒマだからだ! うん、たぶんそう!
ってことで、何かやることないかなー?
エルはお休みで家にいるけど今喋ったら要らないこと言っちゃいそうだし、キッチンで何か作って遊ぼうかな?
なんて思ってキッチンに立ったけど、失敗しまくりました……
計画性なく作り始めたせいでなんとなく中途半端なものが出来上がったし、完成までにもいろんなものをひっくり返したり、こぼしたり、落としたり。
とにかく散々だった。
「イズミル、どうしたんですか?」
心配したエルが声を掛けてくれるけど。
「ううん、大丈夫。ちょっと失敗しちゃっただけだし」
「一度ソファで休みましょう?」
エルに手を引かれて2階へ上がり、半ば無理やり座らされる。
「ホントに大丈夫だって」
「まあまあ、大丈夫ならそれでいいですから、少しは私の相手もしてくださいよ。ね?」
エルが横に座って凭れさせてくれて、ぽんぽんと優しく身体をたたいてくれる。
子どもじゃないって突っ込もうかと思ったけど、気持ちいい。
ちょっと眠たくなってきて、うとうとしていると。
「少しは落ち着きましたか?
何か不安なことがあったら教えてくださいね。
夫はみんな、イズミルを支えるためにいるんですから」
不意にそう言われて、泣きそうになった。
これがマリッジブルーってやつなのかな?
カイルとの結婚の時はこちらの世界に慣れるのに必死だったし、結婚しないって選択肢がそもそもなかった。
だけど今はゆっくり考える余裕があるから、こんなに不安定になっちゃってるんだと思う。
「ちょっと、いろいろ考えてるだけ」
「結婚前に不安になる女性は多いそうですからね。
イズミルは環境がガラッと変わっていますから、不安になるのは当たり前ですよ」
「うん……ごめん……ありがと」
優しく髪を梳いてくれると、それだけでも安心して少し心が軽くなった。
「結婚するといっても今と何も変わりませんから、大丈夫ですよ」
「うん、それはわかってる。
わかってはいるんだけど、今の状況だって変だし。
普段は気にしないようにしてるんだけど、こういうきっかけで自覚しちゃうと、ね」
「それに関しては……慣れてください、としか言えないんですが……」
「そうなの。わかってる。
エルも、カイルもツィリムもとっても優しいし、考えすぎだって。
不安になることなんてないって、わかってるよ?
でも、なんとなくイヤなの」
「イズミルの不安は、僕たちの努力で解決できることですよね?
だから大丈夫です」
「ぼく……?」
「あっ、すみません」
「謝ることじゃないよ。
むしろ、『僕』の方が言いやすいの?」
「神官は丁寧な言葉遣いの方が良いとされてますので、ある程度矯正するんですよ」
「へぇー、大変なんだね」
「慣れればそう難しくもないですけど」
「ホントにそうだよね。人間って慣れるイキモノだから」
「敬語は意識しなくても出るようになりましたけどまだ矯正しきれてない部分もありますから。
頑張って直します」
「家では好きにしてたらいいんじゃない?
でも職場と分けるほうが難しいか」
「イズミルはあまり夫の職業を気にしませんよね」
「ん? 仕事なんて転職したらいくらでも変わるじゃない」
「転職は、ほとんどないですよ。
本人の努力不足とみなされることが多いですから、転職していいことなんてありませんし」
「あっ、そうだったんだ。知らなかった。
じゃあさ、神官さんと結婚したら、家でも神官っぽくしててほしいってこと?」
「しててほしいというか、それが当たり前ですからね」
「それってなんだかしんどくない?
家の中ですら素の自分で居られないなんて」
「……あまりそういう風に考えたことがありませんが」
「私はどっちでもいいから、エルのしたいようにして?」
「うーん……ちょっとよくわからないですが……」
「急に言われたってわからないよね。
エルは何も意識しなくていいってことを言いたいだけだから、何も考えなくていいよ」
「そうですか?」
「私は、今まさにそんな気持ちなんだよ!
突然言われたって、意識したことないから分かんないよ、って感じ。
私の意見をちょっと言ってみただけだからホントに気にしないでね」
「ありがとうございます。
イズミルを励ますつもりだったのに、逆に励まされてしまいましたね」
「ううん。私も、話聞いて貰ってスッキリした!
ねぇ、私、家で出来る趣味がほしいんだけど、何かいいのないかな?」
ひとりでモヤモヤを抱え込んで考えるより、誰かに聞いて貰うほうが絶対にいい。
私の周りには旦那さんたちがいてくれてるんだから、聞いて貰ったらいいんだ。
こういう、ちょっと困った時に気軽に相談出来る人が増えるっていう意味では、旦那さんが増えるのはすごく嬉しいことだな。
****
新連載始めましたのでよければ読んでみてください
『俺の天使は盲目でひきこもり』です
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