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18.コミュ障

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「ツィリム、どうしたの?」

依然左腕に絡みついたままのツィリムに問いかける。
ツィリムは、基本的に口数は少ないけど言いたいことは割とハッキリ言う方だ。
私に突然求婚した時みたいに。

何があったんだろう?

「私に言いづらいことなら言わなくていいよ。ずっとこうやって一緒にいたらいい。
でも、何か私が力になれることがあったら教えてね。私はツィリムの力になりたいから」

首筋に顔を埋めるツィリムを抱き寄せて、背中を優しく撫でると、こわばっていた体が少し緩んだ。

「俺は、イズミに会うまで、魔素酔いっていう、他人の魔素を受けると体調を崩す人だったから、術式を編み込んだローブを頭からすっぽり被ってた。
イズミに会った時に来てたやつ。
だからどうやって人と話たらいいかわからない。
そのせいで、見習いの従者期間が終わるのに所属先が決まらない」

なるほど……
ツィリム、コミュ障だからなぁ……

ずっとコミュニケーションとらずに生きてきて、仕事するようになって困ってる、ってことかな。

でも、そういう人たまにはいるよね?
元の世界の友人にもそんな人がいた。

コミュニケーションなんて、ある程度は慣れだと思う。その友人も少しはマシになってたしね。

「ツィリムは他の人と話すのが難しいって思ってるってことよね?」

躊躇いがちな、軽い頷き。
ヤバい、ダイレクトに言いすぎたかも。

「人と話すのは慣れだから。みんな最初は上手く喋れないものよ?
今だって、言い方が悪かったせいでツィリムを傷つけちゃったし。
みんな、わからないなりに話してみることで慣れていくし、頑張ってるのよ」

沈んだ表情のツィリム。
綺麗系美少年の憂い顔はちょっと眼福、なんて思っちゃったけど、ツィリムにとってはそんなカンタンな話じゃないのよ。

「だから、毎日練習しよう。私と」

そんなキョトン顔されるほど変な提案したかな?

「どうやって?」

「今日あったこととか話をしたこととか、帰ってきてから私に聞かせてよ。私は1日中この家からずーっと出ずにいるんだから、外のことが知りたいし。
それがツィリムの訓練になるっていうんだから、これ以上いいことないかなって思うんだけど」

少しの間沈んだ表情で考え込んでいたツィリムだけど、何か覚悟を決めたみたいな神妙な顔で頷いた。

それから、視線を彷徨わせながらも必死に言葉を紡ぎ、伝えようと頑張るツィリムはめちゃくちゃ可愛かった。






ツィリムが話つかれて部屋へ戻ったら、見計らったようなタイミングでカイルがやってきた。
私の隣に腰を下ろし、軽く抱き寄せられる。

この感覚、いつまでたっても慣れないなぁ……
さっきまでツィリムといて、すぐにカイルといるってこと、ちょっと罪悪感すらあるんだけど。

いやいや、違うこと考えてる場合じゃないって。



「どうだった?」
カイルの目が真剣だ。
家族としても部下としても、心配してるんだろう。

「上手く話せないせいで仕事が上手くいかないって悩んでるみたい」

「本来は見習い期間中に俺がどうにかしないといけなかったんだがな……
必要最低限のことは話すからいいかと思って放ったらかしてしまった。イズミルには迷惑かけるな」

「別に迷惑だとは思ってないよ。むしろ頼ってくれて嬉しいし。でも、コミュ障なだけで所属先が決まらないとか、大変ね?」

「本来、見習い期間に従者として付いた隊にそのまま配属されるんだ。だが、ツィリムの場合は俺と妻が同じになったから、同じ部隊だと何かと支障があるんだ。
俺は隊長だから動かせないから、ツィリムを部隊がえすることになったんだが、どこも引き取ると言わなくてな」

「ツィリム、家にいる時はただの大人しい子なのに。仕事になるとやっぱり大変なのかな」

「うーん……ツィリムの所属先が決まらないのは、強すぎるから、ってのもあるんだ。
ツィリムは年齢や経験に対して、魔術の扱いがとてもうまい。これからますます上手くなるだろうと思う。
魔術師の世界は完全に実力主義だから、自分の地位が取られるんじゃないかと思って、どこの部隊も嫌がってるんだ」

「そんな身勝手なこと……ツィリムがかわいそうじゃない」

「才能溢れる若者は年寄りからしたら恐ろしいんだよ。そのうちどこかしらには入るだろうが、しばらくフォローしてやって欲しい」

「もちろん!私にできることなら、頑張るよ!」

そう意気込むと、いつものようにぽんぽんと頭を撫でてくれた。





**********




翌日。
カイルとツィリムが出ていき、1人でリビングのソファに座り、刺繍をしているとエルが帰って来た。

「ただいま」

「おかえりなさい。ごめんなさい、帰って来たのに気づかなくて」

「刺繍に集中してたのでしょう?構いませんよ。
それより、イズミルが足りません!補充させてください」

私が足りないって何よ!?

一旦私を抱き上げてからエルの足の間に座らされて、後ろからギューって抱きしめてもらえる。

この世界の男性は抱っこがデフォルトなんですね……

「お疲れさま。寝れてないの?」

顔色が悪いエルにそう聞いてみる。

「3日間かけて行う儀式があったんです。三日三晩途切れることなく祈りを捧げて大気のマナを大地に還元する術なんですが」

「大変そうだねぇ」

「普通は人員をたくさん用意して、交代しながらやるんですが、今回は人が少なくて……
南の国境が少しきな臭くなってきているせいなんですが。そのせいで私が丸1日するハメになりまして。」

「お疲れさま。私の魔素、使ってもいいよ?どうやるのかは知らないけど」

「魔素は魔術の源です。私たちが行う神術の源はマナという大気と大地に満遍なく満ち溢れる力です。魔素とは少し違うんですよ。
それに、そんな力などなくてもイズミルを抱きしめているだけで元気になれますから!」

ちょっと苦しいし、何より恥ずかしい……

まあ、頑張ったエルへのご褒美ってことで、好きにしてくれたらいい。
私もけっこう居心地いいしね。

私の首すじにエルが頭を擦り付けるから、ぽんぽんと撫でてみた。
エルがビクってしたから慌てて手を離したら。

「もっと……」

小さな、掠れたような声でそう言われて。

撫でていたら少しづつエルが重たくなってきた。
寝たかな……?

いや、待って、ここで寝ないで部屋で寝てよ!
でもせっかく寝たのに起こすのはかわいそうよね……

エルはだいたいこの世界の人の平均、180cmくらいの身長なんだけど……
耐えるしかないよね……

頑張れ、私の背筋……!
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