17 / 56
17.家族団欒
しおりを挟む晩御飯はイフレートが作ってくれたから、私は茶碗蒸しだけ作って旦那さんたちの帰りを待つ。
今日はエルが帰って来ないって言ってたから、カイルとツィリムだけなんだけどね。
ダイニングの椅子に座って、扉を開けていると玄関まで見えるから、扉を開けっぱなしにして待ってる。
「ただいま」
「おかえりなさい。カイル、ツィリム」
2人に代わる代わるギューって抱きしめられて、とっても幸せ!
1日長く感じたけど、待っててよかった。
ツィリムにギューってしてもらって、軽く頭をぽんぽんって撫でてもらう。
この時間が1日で1番幸せかもしれないなぁ……
もう夕ごはんの時間だからカイルとツィリムはローブを脱ぐだけでそのままダイニングへ。
みんなでワイワイごはんを食べるのもとっても楽しい。
メニューはステーキとサラダ、スープとパンに、茶碗蒸し。
茶碗蒸しだけめちゃくちゃ浮いてる。
「この黄色いスープみたいなやつは何だ?」
興味深々のカイル。
「スープじゃない。固まってる」
怖々茶碗蒸しをスプーンでつつくツィリムは子供みたいでかわいい。
「これは茶碗蒸しって言って、私の故郷の食べものなの。卵と出汁を混ぜて蒸したもので、プリンの甘くないやつだよ」
「ぷりん?」
ツィリム、そんな期待を込めたキラキラな瞳で見つめないでくださいっ!!
「プリンはこれの甘いやつね。それはまた今度作るとして、それ、おいしい?」
「「おいしい!」」
ふたりからキレイにハモった感想をもらえて頬が緩む。
「イズミルの世界にはこんなに変わった美味いものがあるのか!固まってるみたいで固まってない、みたいな」
この様子だと、ゼリーとかもないみたいだなぁ……
「カイルとツィリムは、甘いもの好き?」
「俺はあんまり好きではないかな。なんかベタベタするから」
「好き」
なるほどねぇ……
甘いもの嫌い派と好き派がいるからどうしようかなぁ?
「この世界に、甘いパンとか、麺が入ったパンとかある?」
「メン?」
おぉぅ、麺すらないと!?
「小麦粉捏ねて細長くしたやつのことね。それも今度つくるよ。パンの中には普通、何も入ってない?」
「そうだな。何か入っているパン、というのはあまり聞いた事がないな……探せばあるかもしれんが」
「それなら毎日ちょっとづついろんな料理作ってみるから、食べてくれる?」
「もちろん。楽しみにしてるぞ」
ニカッと笑ってくれるカイルと、すごい速さで首を縦に振るツィリム。
私が役に立てることが見つかったかもしれない。
食事を終えて2階のリビングでまったりしている時。
ソファは10人座れるくらいあるのに3人掛けのソファに私を挟むように座ってる。
「そういえば、お昼にイフレートと、買い物に行きたいって話してたんだけど」
「何かいるものがあるのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけど。外に出たいっていうか、街を見てみたいっていうか……」
見る間にカイルの顔が険しくなって、声が尻すぼみになってしまう。
「無理ではないと思うが、今のイズミルの立場を考えると俺がすぐに許可を出す、という訳にはいかないんだ」
少し考え込むように目を閉じていたカイルが説明してくれる。
「今、イズミルはいちおう神殿預かりっていう立場なんだ。要するに神殿が面倒みて、責任持ちますよ、ってことなんだが。神殿が神託を元にそういうことをするのはよくあることだから王宮も気にしてないんだが……」
カイルによると、私は神殿が面倒みてるってことになってて、エルがその責任者らしい。全然知らなかったけどね。
今のところは、神殿は私に神託があったからとりあえず確保してるだけで今すぐ私に何かをさせようとは思ってない。でも、私が “龍の姫君” だってことがバレたら今みたいなゆるーい生活は送らせてもらえないかもしれないから、あまり出歩かない方が良いみたい。
その上、神殿の他に王宮って呼ばれる政府に狙われるとさらに厄介だとか。
この国では政治と軍事は王宮、宗教と政治に関わる占いは神殿っていう風に役割分担がされてて、その両方が私を利用したいと思うかもしれないってこと。
いずれ両方にバレるだろうけど、なるべく遅い方が良いし、少なくとももう少し私がこの世界に慣れてからの方が良い。
だから、あんまり外には出て欲しくないし、エルも賛成しないんじゃないか、って話らしい。
うーん、複雑。
現代日本ではなかったことだし、良くわかんない。
「そうかあ、それなら無理かもしれないね。明日の昼頃にエルが帰ってくるはずだから、その時に聞いてみるよ」
カイルと話してばっかりだったからか、ツィリムがめちゃくちゃ左腕に抱きついてくるんだけど。
むしろ絡みついてる、みたいな。
この子も良くわからないんだよね……
16歳って言ってたから、本来なら思春期真っ只中だと思うんだけど、そうは思えないくらい甘えてくるし。
子猫みたいでかわいいからいいんだけど、なんか引っかかるんだよね。
「イズミルは今日、何してたんだ?」
カイルに訊かれて、思い出した。
「刺繍をしてたのよ。暇だったからなんだけど、夫の持ち物には刺繍しておくものだっていうから」
立ち上がって取りに行こうとしても、ツィリムが離れてくれない。
「ツィリム、どうしたの?ハンカチ取ってくるだけですぐ戻ってくるから、離して?」
本当にどうしちゃったんだろう?
前から子どもみたいだって思ってたけど、これは子どもどころか赤ちゃんみたいだ。
ツィリムは心配だけどとりあえず刺繍の話だけしておこうと思って、ツィリムに話かけるように気をつけながら、話はじめた。
「これは、カイルの分でこっちがツィリムの。ハンカチは白って決まってるの?すごくたくさんあったから、ハンカチに刺繍するだけでも時間かかっちゃいそう」
「王宮に勤務する人は全員白いハンカチ、と決まっている。謂れはいろいろあるみたいだがな。
それに、刺繍をしてくれるなら、名と姓の間にイズミルの名前を入れて欲しい。
俺ならカイルセル・イズミ・ケインテットっていう風に。それが結婚している証になるんだ」
「わかった。たぶん明日からも刺繍すると思うから、私の名前も入れとくよ。なんかちょっと気はずかしいけどね」
そんなふうに昼にしたことをあるていど話すと、カイルが席を立った。
「悪いが、少しやりたいことがあるから、先に自室へ戻らせてもらう。一緒にいてやりたいんだが」
ちょっと深めに口付けて、それからちらりとツィリムに視線を向けて、部屋から出て行った。
色々言ってたけど、カイルもツィリムが心配なんだな。
そうしてる間もしっかり抱きついてたツィリムの髪を優しく撫でた。なるべく安心させてあげられるように。
65
お気に入りに追加
1,202
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。

異世界で婚活したら、とんでもないのが釣れちゃった?!
家具付
恋愛
五年前に、異世界に落っこちてしまった少女スナゴ。受け入れてくれた村にすっかりなじんだ頃、近隣の村の若い人々が集まる婚活に誘われる。一度は行ってみるべきという勧めを受けて行ってみたそこで出会ったのは……?
多種多様な獣人が暮らす異世界でおくる、のんびりほのぼのな求婚ライフ!の、はずだったのに。

二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
私の愛する夫たちへ
エトカ
恋愛
日高真希(ひだかまき)は、両親の墓参りの帰りに見知らぬ世界に迷い込んでしまう。そこは女児ばかりが命を落とす病が蔓延する世界だった。そのため男女の比率は崩壊し、生き残った女性たちは複数の夫を持たねばならなかった。真希は一妻多夫制度に戸惑いを隠せない。そんな彼女が男たちに愛され、幸せになっていく物語。
*Rシーンは予告なく入ります。
よろしくお願いします!
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。

女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる