15 / 47
15.家事は誰がする?
しおりを挟むこの世界は元の世界とほとんど変わらない生活水準だ。
ライフラインもあるし、電話もあるらしい。
違うところはそれら全部が科学ではなく魔法の力で動いてるってことだけど私は中がどうなってるか知らないから、何がどう違うのかは分からない。
だから、世界が変わっても特に支障なく生活できた。
しかも、キッチンにはツィリムが特別に作ってくれた魔法回路を組み込んだ道具類が並んでいる。
私のワガママで作ってもらったんだけど、これがあれば料理もできる!
家事も仕事もしてなくて、旦那さんたちに頼りっぱなしの生活をしてるけど、私を助けてくれた人たちの助けになりたいって思ってる。
そんな私の想いとは裏腹に。
「今は夫の人数が少なくて家事に手がまわりきらないと思うから、実家から人を連れてきた。いずれ夫が増えたら誰かを家政夫にするだろうが、現状誰も仕事をやめれないからな」
…………ん??
「家事は私がするよ?そのためにわざわざ私が使える家具を作ってもらったんだし。それか、働きに出た方がいい?」
「働きに出るなんてとんでもない!働いている女性なんて、スラムの住民くらいのものだ。
俺たちはそんなに頼りないか?」
「カイルが頼りないとかそういうわけじゃなくて、頼りっぱなしだから何か私にできることはないかと思って」
「頼りっぱなしって……イズミルの感覚ではそうなのかもしれないが、俺たちに任せてイズミルはのんびり生きて欲しい」
「のんびりって……」
「イズミルは俺たちに引け目を感じてるみたいだが、妻の世話を焼くのは夫の楽しみなんだ。
家に帰れば妻があたたかく迎えてくれるとわかっているから仕事を頑張れる。そういうもんだろう?」
「なるほど……」
私の考えとは違うけど、この世界にはこの世界なりの価値観がある。
男性が多いぶん、女性が働かなくても大丈夫だから女性に対して労働力というより癒しとか、優しさを求めるんだろう。
私はカイルたちの役に立ちたいと思って『働きたい』って言ってるけど、それが負担になるなら意味がない。
役に立つって、何も働くことだけじゃないってことはわかるから。
「私はまだカイルたちの考え方とか常識とかがわかってない部分が多いと思う。どうしても嫌なこと以外は、なるべくこの世界に合わせたいと思ってるから、変なこと言ってたら教えてね」
「理解してくれてありがとう。ただ、イズミルの負担になることはなるべくしたくない。どうしても、ってわけじゃなくても嫌なことは嫌だと言って欲しい。イズミルがこの世界のことが分からないように俺たちはイズミルのことが分からないのだから」
いろいろ違うところがあって大変だけど、それは普通の夫婦でもそうだろうと思う。
違うことも言葉を尽くして説明すればわかりあえるから、これからもこうやって話し合って仲良くなっていきたいな。
「カイルは私にとってもよくしてくれてるから、楽しいよ。それで、人を連れてきたって?」
「ああ、今エルが迎えに行ってくれてる。そろそろ着くと思うが、俺の兄貴みたいなもんだから、あまり身構えなくても大丈夫だぞ」
しばらくしてから、リビングのドアが開いた。
「ただいま」
エルが知らない男の人を連れてきた。
たぶんこの人のことかな。
「こんにちは、はじめまして。私はイフレート・カリセナルタです。ケインテット家に仕えておりましたが、このたびこちらに務めさせていただくことになりました。よろしくお願い致します」
軽くまとめられた長い紫の髪と同じ色の瞳。切れ長の目は細い銀縁のメガネと相まって少し冷たい印象の人だ。
でも物腰は柔らかいし、ビシッと着こなした黒のスーツがかっこいい。
身長はカイルと同じくらいで185くらいありそうだけど割とがっしりした体のカイルに対して、イフレートさんはかなり細い。
「私はイズミ・オオモリです。イフレートさん、よろしくお願いしますね」
「はい、奥様。よろしくお願い致します」
いや、奥様って!
なんかイヤ、背中がムズムズするよ!!
「あの、奥様って呼び方はやめてもらってもいいですか?普通に、イズミって呼んで欲しいです」
困惑顔のイフレートさん。
「イフレート、説明したと思うが、イズミルは異世界から来た人だからかなり俺たちと違う考え方をする。よほど支障がない限りはなるべく合わせてやってくれ」
「はい。イズミ様、でよろしいですか?」
「ううーん、本音を言うとイズミって呼びすてにしてほしいけど、それは無理?
こんなに年上の人に様付けされたら変な感じなんだけど」
困ってしまったイフレートさんを見かねてエルが仲裁してくれる。
「イズミルは誰かに世話してもらうことになれていませんから、違和感があるんでしょう。ですが、イズミルには身分もありますし、あまり馴れ馴れしくするのもよくありません。ある程度は慣れて欲しいのですが、嫌ですか?」
「まあ、呼び方だけの問題だし、別にいいよ」
「あと、イズミルはイフレートのことを呼びすてしてくださいね?間違ってもイフレートさん、なんて呼び方はしないで」
…………そういうもんか。
「では、イズミ様と呼ばせていただきます。話には聞いていましたが、お若いのにしっかりしていて面白い方ですね」
「そうだろう?話してると楽しいぞ。自分の意見のある女の人と話すと言うのはこれだけ面白いことだったのか、と思うからな」
「最初に挨拶された時には驚きましたが」
「なんで?」
「イズミルは気にしなくていいですが、女性が自己紹介するということ自体が珍しいですからね。普通、誰か夫が代わりに紹介して、軽く会釈する程度です」
「そうなんだ。イフレート、私なんにもわかってないから、しちゃダメなことしてたら言ってね」
当面、イフレートは毎日午後に来てくれることになった。
“救国の乙女” とか、“龍の姫君” だとかいう私の特殊事情についてはカイルとエルが説明してくれた。
今まで家事は少しだけ手伝ってたけど、大半をカイルたちで手分けしてやってた。
私は役に立ててないって思ってたけど旦那さんたちからしたら私は結構頑張ってるみたい。
新しい家で、できることをちょっとづつ増やしていこうっと。
30
お気に入りに追加
1,098
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
転生したので猫被ってたら気がつけば逆ハーレムを築いてました
市森 唯
恋愛
前世では極々平凡ながらも良くも悪くもそれなりな人生を送っていた私。
……しかしある日突然キラキラとしたファンタジー要素満載の異世界へ転生してしまう。
それも平凡とは程遠い美少女に!!しかも貴族?!私中身は超絶平凡な一般人ですけど?!
上手くやっていけるわけ……あれ?意外と上手く猫被れてる?
このままやっていけるんじゃ……へ?婚約者?社交界?いや、やっぱり無理です!!
※小説家になろう様でも投稿しています
異世界転生〜色いろあって世界最強!?〜
野の木
恋愛
気付いたら、見知らぬ場所に。
生まれ変わった?ここって異世界!?
しかも家族全員美男美女…なのになんで私だけ黒髪黒眼平凡顔の前世の姿のままなの!?
えっ、絶世の美女?黒は美人の証?
いやいや、この世界の人って目悪いの?
前世の記憶を持ったまま異世界転生した主人公。
しかもそこは、色により全てが決まる世界だった!?
異世界から来た娘、武官になるために奮闘する〜相変わらずイケメンに囲まれていますがそれどころじゃありません〜
京
恋愛
異世界に迷い込んでしまった普通の女子高生だった朱璃も祇国にきて早3年。偶然出会った人たちに助けられ自分の居場所を見つけ出すことが出来た。そしてあたたく支えてくれる人たちの為に、この国の為に恩返しをしたい朱璃が自分に何ができるかと考える。
そんな朱璃の次の目標は「武官になる事」
武修院へ入隊し過保護な保護者たちに見守られながら、あいかわらず無自覚的に問題を起こし、周りを巻き込みながら頑張るシーズン2。
助けてくれた人達は何故かイケメンが多く、モテ期到来!なのだが生きていくことに必死でそれどころではないという残念な娘に成長した朱璃だが(誰のせいかはシーズン1を読んでいただけたら少し分かると思います)今回はちょっぴり春の予感!?
続編遅くなってすみません。待っていて下さった方のご期待に沿えるよう頑張りますが、今回は1週に1話くらいの鈍亀ペースになります。申し訳ありませんがお許し下さい。(事情は近況ボードに少し載せています)
初めましての方。この話だけで分かるように努力しますが拙文の為シーズン1を先に読んでくださることお勧めします。どうぞ宜しくお願いします。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる