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15.家事は誰がする?
しおりを挟むこの世界は元の世界とほとんど変わらない生活水準だ。
ライフラインもあるし、電話もあるらしい。
違うところはそれら全部が科学ではなく魔法の力で動いてるってことだけど私は中がどうなってるか知らないから、何がどう違うのかは分からない。
だから、世界が変わっても特に支障なく生活できた。
しかも、キッチンにはツィリムが特別に作ってくれた魔法回路を組み込んだ道具類が並んでいる。
私のワガママで作ってもらったんだけど、これがあれば料理もできる!
家事も仕事もしてなくて、旦那さんたちに頼りっぱなしの生活をしてるけど、私を助けてくれた人たちの助けになりたいって思ってる。
そんな私の想いとは裏腹に。
「今は夫の人数が少なくて家事に手がまわりきらないと思うから、実家から人を連れてきた。いずれ夫が増えたら誰かを家政夫にするだろうが、現状誰も仕事をやめれないからな」
…………ん??
「家事は私がするよ?そのためにわざわざ私が使える家具を作ってもらったんだし。それか、働きに出た方がいい?」
「働きに出るなんてとんでもない!働いている女性なんて、スラムの住民くらいのものだ。
俺たちはそんなに頼りないか?」
「カイルが頼りないとかそういうわけじゃなくて、頼りっぱなしだから何か私にできることはないかと思って」
「頼りっぱなしって……イズミルの感覚ではそうなのかもしれないが、俺たちに任せてイズミルはのんびり生きて欲しい」
「のんびりって……」
「イズミルは俺たちに引け目を感じてるみたいだが、妻の世話を焼くのは夫の楽しみなんだ。
家に帰れば妻があたたかく迎えてくれるとわかっているから仕事を頑張れる。そういうもんだろう?」
「なるほど……」
私の考えとは違うけど、この世界にはこの世界なりの価値観がある。
男性が多いぶん、女性が働かなくても大丈夫だから女性に対して労働力というより癒しとか、優しさを求めるんだろう。
私はカイルたちの役に立ちたいと思って『働きたい』って言ってるけど、それが負担になるなら意味がない。
役に立つって、何も働くことだけじゃないってことはわかるから。
「私はまだカイルたちの考え方とか常識とかがわかってない部分が多いと思う。どうしても嫌なこと以外は、なるべくこの世界に合わせたいと思ってるから、変なこと言ってたら教えてね」
「理解してくれてありがとう。ただ、イズミルの負担になることはなるべくしたくない。どうしても、ってわけじゃなくても嫌なことは嫌だと言って欲しい。イズミルがこの世界のことが分からないように俺たちはイズミルのことが分からないのだから」
いろいろ違うところがあって大変だけど、それは普通の夫婦でもそうだろうと思う。
違うことも言葉を尽くして説明すればわかりあえるから、これからもこうやって話し合って仲良くなっていきたいな。
「カイルは私にとってもよくしてくれてるから、楽しいよ。それで、人を連れてきたって?」
「ああ、今エルが迎えに行ってくれてる。そろそろ着くと思うが、俺の兄貴みたいなもんだから、あまり身構えなくても大丈夫だぞ」
しばらくしてから、リビングのドアが開いた。
「ただいま」
エルが知らない男の人を連れてきた。
たぶんこの人のことかな。
「こんにちは、はじめまして。私はイフレート・カリセナルタです。ケインテット家に仕えておりましたが、このたびこちらに務めさせていただくことになりました。よろしくお願い致します」
軽くまとめられた長い紫の髪と同じ色の瞳。切れ長の目は細い銀縁のメガネと相まって少し冷たい印象の人だ。
でも物腰は柔らかいし、ビシッと着こなした黒のスーツがかっこいい。
身長はカイルと同じくらいで185くらいありそうだけど割とがっしりした体のカイルに対して、イフレートさんはかなり細い。
「私はイズミ・オオモリです。イフレートさん、よろしくお願いしますね」
「はい、奥様。よろしくお願い致します」
いや、奥様って!
なんかイヤ、背中がムズムズするよ!!
「あの、奥様って呼び方はやめてもらってもいいですか?普通に、イズミって呼んで欲しいです」
困惑顔のイフレートさん。
「イフレート、説明したと思うが、イズミルは異世界から来た人だからかなり俺たちと違う考え方をする。よほど支障がない限りはなるべく合わせてやってくれ」
「はい。イズミ様、でよろしいですか?」
「ううーん、本音を言うとイズミって呼びすてにしてほしいけど、それは無理?
こんなに年上の人に様付けされたら変な感じなんだけど」
困ってしまったイフレートさんを見かねてエルが仲裁してくれる。
「イズミルは誰かに世話してもらうことになれていませんから、違和感があるんでしょう。ですが、イズミルには身分もありますし、あまり馴れ馴れしくするのもよくありません。ある程度は慣れて欲しいのですが、嫌ですか?」
「まあ、呼び方だけの問題だし、別にいいよ」
「あと、イズミルはイフレートのことを呼びすてしてくださいね?間違ってもイフレートさん、なんて呼び方はしないで」
…………そういうもんか。
「では、イズミ様と呼ばせていただきます。話には聞いていましたが、お若いのにしっかりしていて面白い方ですね」
「そうだろう?話してると楽しいぞ。自分の意見のある女の人と話すと言うのはこれだけ面白いことだったのか、と思うからな」
「最初に挨拶された時には驚きましたが」
「なんで?」
「イズミルは気にしなくていいですが、女性が自己紹介するということ自体が珍しいですからね。普通、誰か夫が代わりに紹介して、軽く会釈する程度です」
「そうなんだ。イフレート、私なんにもわかってないから、しちゃダメなことしてたら言ってね」
当面、イフレートは毎日午後に来てくれることになった。
“救国の乙女” とか、“龍の姫君” だとかいう私の特殊事情についてはカイルとエルが説明してくれた。
今まで家事は少しだけ手伝ってたけど、大半をカイルたちで手分けしてやってた。
私は役に立ててないって思ってたけど旦那さんたちからしたら私は結構頑張ってるみたい。
新しい家で、できることをちょっとづつ増やしていこうっと。
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