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14.新居

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新しくお家ができるとは聞いてたけど、私のイメージでは何ヶ月かかかって立てるものだと思ってた。
でもそれはあくまで元の世界の話だったようで……

「そろそろ引っ越しの準備をしましょうか」

今日は休みだというエルにそう言われた。

「えっ?2、3日前にどんな家にするか話したばかりなんだけど?」

「建築ギルドに問い合わせたら明後日にはできると言っていましたから、そろそろ始めないと間に合いません」

「そんなに早くできるの?」

「はいそうですね、イズミルの世界に比べて魔術や魔法を使う分早くできるのではないでしょうか?」

「それにしても早いねー」

「そんなことより引越し準備です。
大きいものはカイルとツィリムの魔術で運んでもらうしかありませんが、小さなものを箱詰めしてしまいましょう」

この作業は魔法なしなのか……
それから2日は引越し作業に追われたとはいえ、この家に来てから1ヶ月ぐらいしかたってないし、ツィリムとエルは職場近くの寮に物を置きっぱなしにしてるのも多かったようで、そんなに大量にはならなかった。

むしろツィリムは師団の寮の部屋を片付けるのにげっそりしてた。




そして迎えた引越しの日。
昨日の夜からウキウキだった私のテンションはとっても高い。

朝イチに起きて、荷物や家具の運び出しをする。
カイルがゴーレム車っていう、トラックみたいなものを借りて来てくれた。

「馬車じゃないんだ!車みたい」

「最近ではじめたゴーレム車ってやつだ。
ゴーレムの核を使って動いてるんだが、高いのと操縦者の魔素を使うから疲れるってのでまだあんまり普及してないんだ。
馬車より馬力が出るから、荷物を運ぶのにはちょうどいいかと思って借りてきた」

トラックの荷台のようになっているところにみんなで荷物を運ぶ。
カイルとツィリムはちょっとだけ浮かせる魔術を使って大きな家具を運んでくれる。
私はそんなことはできないので、軽めな箱をどんどん運ぶ。

カイルたちの感覚では私は作業せずに座ってみてるだけ、ってのが普通らしいけど、それじゃあ面白くない。
せっかくのイベントなんだから楽しみたいじゃん!ってことで作業に参加させてもらってる。
魔術も使えない非力な女だから、むしろ邪魔になってるかもしれないけどね。


さすがに魔術の威力は絶大で、たった4人だけどすぐに運び終わった。
ということはゴーレム車を動かすわけで……


「乗ってみたい!!」

車とあんまり変わらない見た目だし、馬車の方が珍しさはあるんだけど乗ってみたくて。
ちょっと子どもみたいだったかもしれないけど、カイルは笑って乗せてくれた。

ツィリムが魔術をかけて準備をしている横で、カイルと話す。
この車は3人乗りらしく、エルは徒歩で新居に向かうんだそう。


「そういや、術者の魔素を使うって言ってたけど、疲れるんなら私の魔素を使えば良くない?そういうのはできない?」

ツィリムがちょっと驚いたように目を見開き、次いでキラキラした目を向けてきた。

「イズミ、ここ座って」

ツィリムが足の間を指さす。
言われるがままに移動するが、ツィリムに後ろから抱きしめられるようなこの体勢はちょっと恥ずかしい。

ツィリムは全然気にならないようで満足気だ。

「イズミの魔素をもらうけど、疲れたらすぐに言って」


思っていたより静かに車は発進し、肌の表面をさわさわと撫でるようなくすぐったい感覚があるだけで特に魔素を使われているという実感もない。

むしろ私とあまり背丈の変わらないツィリムに後ろから抱きしめられると右肩に頭を乗せられるような体勢になっていて、近すぎる距離感にちょっと緊張しちゃった。


エルが歩いて行くというくらいに近い場所だから、すぐについた。
カイルが鍵を開けてくれて、中に入る。
(鍵は魔法じゃなくて普通の鍵だった)



「うわぁぁぁー!キレイー!」

三階建てのヨーロッパにありそう建物で、めちゃくちゃ大きくて綺麗だし、広い庭までついていた。

「気にいったか?」

キョロキョロと辺りを見回す私に、カイルが話しかけてくる。
ブンブンと縦に首を振りながら答える。

「すっごく大きくてキレイだし、こんなところに住んでいいの!?」

「ああ、当たり前だ。ここはイズミルの家だぞ?」

「すっごく嬉しい!!」

なおもキラキラした目で周りを見てまわってたけと、苦笑いしてるカイルに止められた。

「どこを誰の部屋にするかはいちおう考えてあるから、
とりあえず荷物を入れてしまおうか」




新しい家はこの世界で一般的な大きさだというが、私にとっては豪邸だった。

入るとすぐに広い玄関ポーチがあり、右側は客間で左側は2階への階段。
正面のダイニングキッチンには大きなテーブルが置かれており、大きな窓ガラスからは燦々と日の光が降り注ぐ。
2階には広々としたリビングに、大きなソファがテーブルを囲むように置かれている。
2階と3階には個人用の部屋が8つあり、それぞれ同じくらいの大きさだ。

なるほど、この家が普通だと思う人にとっては今までの家は狭かったんだろう。
個人用の部屋が8個あったということは、この家は8人くらいで生活する前提で作られてるってことで……

まだ旦那さんが増えるのかぁ……


受け入れづらい現実からは目を逸らして、新しい家の探検に夢中になる。
意味もなく各個人部屋のクローゼットを開けてみたり、ダイニングの奥のキッチンに入ってみたり。

私が遊んでた間にエルも到着して3人が荷物の運び込み作業をしてくれてる。
遊んでばっかりで申し訳なけなって、手伝いに参加する。
手伝いになってるのかどうかは謎だけどね。



「イズミルは本当に可愛いですねぇ……」

エルがしみじみとそういうけど。

「どこが?」

最近可愛いと言われすぎて感覚がおかしくなってる気もするけど、私はごく普通の女子大生だ。
別に可愛いくはないし、今までの人生で可愛いって言われたのなんて、幼稚園の頃くらいだと思うのに。

私の旦那さんたちは、ことあるごとに可愛いと言ってくれる。

「子猫みたいに気まぐれで、些細なことにも興味を持って。ちょこちょこ動く姿はとっても可愛いですよ」

これ、褒められてるか?
……褒められてるって思っておこう。



「イズミル、家の中見てまわっただろう?どの部屋がいいとかあるか?」

カイルが聞いてくれる。

「誰がどこの部屋か、決めたって言ってなかった?」

「いちおう慣例があるからそれに従って決めたが、イズミルの希望があればそうするぞ」

「選ばせてくれるなら、もっかい見てくる!!」

そういいおいて階段を駆け上がる。

「コケるなよー!」

心配したカイルの声が追いかけて来たけど気にせずに。


もう一度すべての部屋をみてまわって、リビングの向かい側の部屋にした。
玄関のある大通り側に面した部屋だから少しとはいえ景色が見える。

ヨーロッパみたいな可愛い街並みが見えるこの部屋がいい。



私がいいなって思った部屋はたまたまカイルが決めてたのと同じ部屋だったから、そのまま荷物を運び込んだ。

私の私物なんてほとんどないんだけど、これからどんどん増えていくんだろうな。
私のこの世界での人生を、旦那さんたちとこの家で作っていくんだ。


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