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10.この世界の女っぽさ
しおりを挟む式が終わって、次は披露宴。
というよりパーティーって感じらしく、カイルが街中のレストランを貸し切ってくれた。
魔術師団の方々は馬車に分乗して向かうそうで、私達もツィリム、エルと一緒に馬車に乗る。
「これで一安心だな」
??何が?
「そうですね。急いだ甲斐がありました」
やっぱ出会ってひと月で結婚式って早いよね?
でも何で?
カイルの隣できょとんとしているとエルが解説してくれた。
「イズミルは、 “龍の姫君” でしかも “救国の乙女” なんです。この莫大な魔素はとても強力だというのはわかりますよね?」
それは知ってるから軽く頷く。
「今のところ “救国の乙女” であることは神殿が知っていますが、イズミルが “龍の姫君” だということはこの3人、あと私の友人の1人以外知りません。
もし王宮中枢に知られてしまったら、イズミルを武器として連れ去られる可能性があったのです」
えっ、そんな深刻な話!?
めっちゃ初耳なんだけど!?
「ですが、もうカイルセルとの結婚が成立しました。
これでカイルに知らせずに連れ去ることはできませんから安心してください」
柔らかなほほえみだけど……
「いやいや、教えてよ!!」
「不安にさせるだけだから言わなかったんだ。でももう大丈夫だからな」
カイルの優しいほほ笑み。
「いや、そうじゃなくて……
気を遣ってくれたのは嬉しいんだけど、私にリスクがあるなら教えておいて欲しかった。
連れ去られるかもしれないってことを知ってるのと知らないのとじゃだいぶ違うでしょ?」
「イズミは変わってる」
ツィリムがぼそっと呟いた。
「確かにな、あんまり女っぽくない考え方をするみたいだ」
「女っぽくないってどういうこと?」
「女性は普通リスクがあると知らされることを嫌がりますからね。未来のことを考えるのはあまり得意ではありませんし……」
「えっ!?それじゃあ何かあった時に困るじゃない!」
「そうならないために多くの夫を持つんです」
なるほど、リスクを気にしなくていいようになってるのか……
「この世界の女性がどうかは分からないけど、私は何かあるなら知っておきたいし、自分の未来は自分で考えたいよ?」
「すまん、夫の順位の時と同じことをしてしまった」
カイルが頭を下げるけど……
「違うの、カイルが悪いわけじゃないの。
私のわがまま。前の世界とこの世界が違うんだから仕方ないとは思うし、できるだけこっちの世界に合わせようと思ってるけど嫌なこともあるから」
その時、馬車の外から御者さんがノックした。
「ごめんなさい。せっかくの結婚式なのにこんな話になって」
「いいや。夫婦はわかり合えるように努力するべきだと思うし、俺はイズミルがなるべく楽しくいられるようにしたいから嫌なことがあればどんどん言ってほしい」
キラキラ王子様スマイルを向けられ軽く口付けられる。
やばい、幸せすぎる。
初めて会った時からずっとイケメンだと思ってるし、この人が私の旦那さんなんだって思ったらすっごく幸せ。
ツィリムが扉を開けてくれてカイルにお姫様抱っこされる。
お洒落なレストランが会場で、入ると大きな拍手で迎えてもらえた。
大広間での立食形式のパーティーで、真ん中に開けられた通路をカイルが堂々と進む。
私は抱っこされたまま……普通に恥ずかしいよ!?
でもカイルの腕の中で大人しくしていると、部屋の一番奥に一つだけ椅子が置かれていて、そこに降ろされた。
私だけ椅子って何かやりづらいけど、こういうもんなんだろう、たぶん。
会場は教室二つ分くらいの大きめのホールで、天井から吊るされたシャンデリアが床のピカピカのタイルに反射してる。
所々に小さな丸テーブルがあって、壁際にお料理が乗ったテーブルが並んでる。
結婚式の披露宴というより、同窓会みたいな感じかな?
招かれている人は男の人ばっかりで、髪や瞳の色は本当に様々だ。
私の旦那さん達もそうだから、この世界の人全部そうなんだろうけど、水色、緑、紫、青、白……色んな色の人がいるし、イケメンが多い。
日本人の私からしたら外人さんみたいな彫りの深い顔立ちはまさに眼福。
いつもカイルやツィリムが着てるみたいなローブを着てる人が多いけど、少しだけ、鎧のできそこないみたいな部分的な鎧を着てる人もいる。
初めてこの世界でたくさんの人の前に出て、人間観察を楽しんでたけど、カイルのスピーチが始まった。
「今日は俺の結婚式のために集まってくれて、ありがとうございます。
俺を迎えてくれた妻は皆さんご存知の通り “救国の乙女” として異世界から呼ばれた女性で、とても賢く、強い人です。
習慣の差など戸惑うことも多いですが、イズミルを幸せにするよう努力したいと思っています。
これから迷惑をかけることもあるかと思いますが、どうぞよろしくお願いします。」
軽く頭を下げるカイル。
大きな拍手に包まれて照れ笑いを浮かべている。
私も何か喋った方がいいのかなと、カイルの隣に立つ。
「私はこの世界に来たばかりでまだまだ何も分かっていない赤ちゃんみたいなものです。
でも私を大切にしてくれる旦那さんたちを大切にしたいし、支えられるようになりたいです。
カイル共々これからよろしくお願いします」
………………
長すぎる沈黙。
何かやらかした?マズイこと言った?
「いやー、ケインテット隊長はずいぶんと賢い方の夫になったようですねー」
大柄な髭ヅラの人が豪快に笑う。
つられて会場全体に笑いが広がり、拍手が起こった。
あとでエルに聞いたら、人前で話すのは夫だけらしい。
その場はカイルがうまくまとめてくれたけど、よくわかってないのに自分勝手に動いて失敗しちゃったなって思った。反省。
カイルが椅子に座らせてくれて、他の人達は料理を取りに行ったりおしゃべりしたりと楽しみ始めた。
私が思ってたよりずっとフランクな集まりみたいで、エルが料理を取ってきてくれた。
花嫁さんだからご飯食べれないかと思ってたけど案外食べれそう。後で取りに行こうっと。
「座ってニコニコしたら大丈夫ですから」
エルがそっと耳打ちしてくれる。
コミュ障ではないけれど知らない人ばっかりだからそう言ってもらえて少し気持ちが軽くなった。
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