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5.神官と神託

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「よし、あらかた話はついた」
「あれ、神官さんは帰っちゃったんですか?」

話がうまくまとまったのか、意気揚々と帰ってきたカイルさんは1人だけだった

「うん?いや、表にいるが」

「なんでまた表に放置なんですか?入ってもらったらいいんじゃないですか?」

とてもびっくりした顔をされたけど、そんな変なこと言ったかなぁ



「イズミルは他の男と話すことに抵抗はないのか?」


えっ、ここの世界の女の人ってそんなに男嫌いなんだ


「はい、むしろ本人から話を聞いた方が確実だと思うのですが……変ですか?」

「俺の知っている女性はほとんど他の男と喋るのが苦手だからな。イズミルの世界でそれが普通なんだったら入ってもらった方が楽か?」

「別に何か支障がなければ入ってもらってください」




カイルさんが神官さんを呼びに行っている間にツィリムくんの膝の上から滑り降りる。
さすがに人の膝の上で挨拶するのは失礼すぎるだろうから。
でもツィリム君はそれが不満みたいで、膝から降りた私の横にぴったり隙間なく座ってる。




「お呼びいただき、ありがとうございます。昨日もご挨拶させていただきましたが、アストルド神殿所属の神官エルドルト・ミラマームです。よろしくお願いします」


真面目系イケメンエルドルトさんは見た目通りのきちんとした挨拶をしてくれた。
正直私は名前を忘れかかっていたので、もう一回自己紹介してくれたのはありがたい。

昨日の夜見た時には灰色っぽい髪だと思っていたけれど、明るい中で見るとキラキラ輝くとっても素敵な銀色の髪だった。


カイルさんは椅子に座り、エルドルトさんにも椅子を勧めた。


「まず、神殿のことについてお話させていただきます。私たち神官は魔術師とは少し違う原理で神術というものを扱うものです。細かいことは割愛しますが、魔術と違って個人の資質にあまり左右されない反面、使用用途は回復や神託などに限定されています。
回復は魔術でもできますが、神託を受けることは神術にしかできません。今回のイズミさんの事についても神託がありました。
私は特に目立ったこともない神官ですが、神様は私に神託を授けてくださったのです。」

この世界の神様はちゃんと存在がわかるくらい話しかけてくるんだぁ。
なんか想像つかないけど。

「これは間違いなく運命ですし、今こうしてあなたの前に座っているだけで私はとても幸せな気持ちになれるのです。
あなたにひとめぼれしてしまいました。私はあなたといたらとても幸せですし、あなたの虜になってしまいました」

そうしてキラキラした瞳で語るエルドルトさんはちょっと引くぐらい、信仰心が厚いようで。
私にはあんまり気持ちがわからないけど。

むしろ占いに目を輝かせる女子高生みたいな、そんな印象を持ってしまった。


「きっと私は神託を受けなくても、あなたに恋をしていたと思います」

そう断言するエルドルトさんだけど、私にはその理由は全くわからない

まぁ、恋なんてそんなもんなんだろう、ほとんど恋愛経験のない私はそろそろ感覚が麻痺してきてる




椅子から立ち上がり、机を回り込んで私の足元に跪く

「私を、あなたの夫にしてほしいです。
信託とか神殿とか全く関係なく、1人の男としてあなたのそばにさせてください」

そういって手の甲にそっとキスした。

「すいませんけど、少しだけ時間を頂けますか?」

キラキラの笑顔で軽くうなずくエルドルトさん。
たぶん私と同い年ぐらいなのに、子供みたいに可愛くて。

私としてはエルドルトさんが嫌いだとまでは思わないけど、正直わからない。
まだ会ってから数分だよ?

とりあえず、この世界の常識を訊かないと……

「カイルさんとツィリムくんは?」



「俺としてはイズミルの夫が増えるというのは複雑だが、神殿との繋がりを持つということはいいと思う。エルドルトにするかどうかはともかくとしても夫の数はまだ足りないしな」

「イズミがしたいように」

したいように、と言われても……



「エルドルトさんが好きなわけじゃないんだけど……それでも結婚するものなの?」

「そうだな。イズミルがどうしても嫌だというほどでなければ結婚したらいいんじゃないかと思う。とりあえず当面は夫が足りないのが問題だからな」

「……いやいや、足りないからって理由で結婚するのはおかしくない?」

「そうか?」

真顔で聞き返されて……
うぅ、常識の違いに着いていけない……

「イズミさん、私を夫にはしたくないですか?」

「したくない、ってほどでもないんだけど。正直わからない……」

「イズミルは、好いた相手と結婚したいのか?」

「そりゃあそうでしょ。好きじゃない人と結婚するの?」

「そうですね。私の父たちの中で結婚する前から母のことが好きだった人は少ないですし」

父たちの中でって何!?
お父さんはたくさんいるのが普通だからこういう言い方になるのかっ!

「でも、私はイズミルのことが好きです。私のことが何があっても嫌い、ということでなければ私と結婚していただけませんか?」

政略結婚が普通で、恋愛結婚はレアケースなわけかぁ。
そんな中でエルドルトさんは私のことが好きなんだから、結婚したらいいってこと。

しかも、エルドルトさんの熱意は半端ない。
どちらにしろ夫は増えるみたいだし、結婚したらいいかな?

カイルさんやツィリム君だって、好きだから結婚したわけじゃないんだし。
……だいぶこの世界に染まってきてる気がするけど気づいてないことにしとこう……

よし、覚悟は決まった!
なるようになるだろう!




「エルドルトさん、私の旦那さんになってくれますか?」



不安そうに私を見つめていたエルドルトさんだけど、パーッと雲間から太陽が顔を出すみたいに、すごいキラキラした笑顔を向けてくれた。

「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。イズミは私の運命の人だから、何があっても大切にします。大好きですよ」

神託を受けた人って聞いてたから、もっと契約結婚みたいな感じかと思ってたけど、カイルさんやツィリム君よりずっと、恋愛結婚に近いみたいだった。



多分カイルさんは最初に見つけたから面倒見てくれているんだろうし、ツィリム君はどうも私の魔素目当てな感じがする。


だけど、エルドルトさんはなんだか私のことを気に入ってくれてるみたいだ。
たとえそれが神託のせいだったとしても。





「イズミル、俺とツィリムは午後からは仕事に行かなくちゃいけない。今のうちに婚約魔術を使ってしまってもいいか」

「へぇ、婚約って魔術があるんですか。もう婚約が成立してるもんだとばっかり思ってました」

「魔術じゃない婚約というのは、どんなもんだ?ただの口約束じゃないか?」

「まぁ、そうですね。口約束ですよ。私が知ってる婚約って」

「なるほど、この世界では婚約魔術があって……まぁ契約魔術の1種だな。
それを交わすことで正式に婚約者として認められる。婚約者には夫に準ずる権利があるから色々と出来ることも増える」


ツィリムくんが立ち上がって出ていった。
準備しに行ってくれたのかな。



私の隣が空いたのを狙ったかのように、エルドルトさんが隣に座る。もちろん零距離で。



「イズミさんの愛称はイズミル、というのですね。
それで呼んでもいいですか?もしよければ私にも愛称をつけてくれたら嬉しいのですが」

「好きなように呼んでいただいていいですよ。
そうですね、愛称をつけるなら、エルドルト……うーん……エル、でどうでしょうか?」

「ありがとうございます、イズミル。私に素敵な名前をつけてもらって。大好きですよ」

横から私を抱きしめて首筋に顔をうずめる。
その仕草は子供が甘えるみたいで。


多分ツィリム君より年上なのに、この人の方がずっと年下に見えてしまう。まっすぐに好意を示されるって、こんなに嬉しいことだったんだ。




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