5 / 47
5.神官と神託
しおりを挟む「よし、あらかた話はついた」
「あれ、神官さんは帰っちゃったんですか?」
話がうまくまとまったのか、意気揚々と帰ってきたカイルさんは1人だけだった
「うん?いや、表にいるが」
「なんでまた表に放置なんですか?入ってもらったらいいんじゃないですか?」
とてもびっくりした顔をされたけど、そんな変なこと言ったかなぁ
「イズミルは他の男と話すことに抵抗はないのか?」
えっ、ここの世界の女の人ってそんなに男嫌いなんだ
「はい、むしろ本人から話を聞いた方が確実だと思うのですが……変ですか?」
「俺の知っている女性はほとんど他の男と喋るのが苦手だからな。イズミルの世界でそれが普通なんだったら入ってもらった方が楽か?」
「別に何か支障がなければ入ってもらってください」
カイルさんが神官さんを呼びに行っている間にツィリムくんの膝の上から滑り降りる。
さすがに人の膝の上で挨拶するのは失礼すぎるだろうから。
でもツィリム君はそれが不満みたいで、膝から降りた私の横にぴったり隙間なく座ってる。
「お呼びいただき、ありがとうございます。昨日もご挨拶させていただきましたが、アストルド神殿所属の神官エルドルト・ミラマームです。よろしくお願いします」
真面目系イケメンエルドルトさんは見た目通りのきちんとした挨拶をしてくれた。
正直私は名前を忘れかかっていたので、もう一回自己紹介してくれたのはありがたい。
昨日の夜見た時には灰色っぽい髪だと思っていたけれど、明るい中で見るとキラキラ輝くとっても素敵な銀色の髪だった。
カイルさんは椅子に座り、エルドルトさんにも椅子を勧めた。
「まず、神殿のことについてお話させていただきます。私たち神官は魔術師とは少し違う原理で神術というものを扱うものです。細かいことは割愛しますが、魔術と違って個人の資質にあまり左右されない反面、使用用途は回復や神託などに限定されています。
回復は魔術でもできますが、神託を受けることは神術にしかできません。今回のイズミさんの事についても神託がありました。
私は特に目立ったこともない神官ですが、神様は私に神託を授けてくださったのです。」
この世界の神様はちゃんと存在がわかるくらい話しかけてくるんだぁ。
なんか想像つかないけど。
「これは間違いなく運命ですし、今こうしてあなたの前に座っているだけで私はとても幸せな気持ちになれるのです。
あなたにひとめぼれしてしまいました。私はあなたといたらとても幸せですし、あなたの虜になってしまいました」
そうしてキラキラした瞳で語るエルドルトさんはちょっと引くぐらい、信仰心が厚いようで。
私にはあんまり気持ちがわからないけど。
むしろ占いに目を輝かせる女子高生みたいな、そんな印象を持ってしまった。
「きっと私は神託を受けなくても、あなたに恋をしていたと思います」
そう断言するエルドルトさんだけど、私にはその理由は全くわからない
まぁ、恋なんてそんなもんなんだろう、ほとんど恋愛経験のない私はそろそろ感覚が麻痺してきてる
椅子から立ち上がり、机を回り込んで私の足元に跪く
「私を、あなたの夫にしてほしいです。
信託とか神殿とか全く関係なく、1人の男としてあなたのそばにさせてください」
そういって手の甲にそっとキスした。
「すいませんけど、少しだけ時間を頂けますか?」
キラキラの笑顔で軽くうなずくエルドルトさん。
たぶん私と同い年ぐらいなのに、子供みたいに可愛くて。
私としてはエルドルトさんが嫌いだとまでは思わないけど、正直わからない。
まだ会ってから数分だよ?
とりあえず、この世界の常識を訊かないと……
「カイルさんとツィリムくんは?」
「俺としてはイズミルの夫が増えるというのは複雑だが、神殿との繋がりを持つということはいいと思う。エルドルトにするかどうかはともかくとしても夫の数はまだ足りないしな」
「イズミがしたいように」
したいように、と言われても……
「エルドルトさんが好きなわけじゃないんだけど……それでも結婚するものなの?」
「そうだな。イズミルがどうしても嫌だというほどでなければ結婚したらいいんじゃないかと思う。とりあえず当面は夫が足りないのが問題だからな」
「……いやいや、足りないからって理由で結婚するのはおかしくない?」
「そうか?」
真顔で聞き返されて……
うぅ、常識の違いに着いていけない……
「イズミさん、私を夫にはしたくないですか?」
「したくない、ってほどでもないんだけど。正直わからない……」
「イズミルは、好いた相手と結婚したいのか?」
「そりゃあそうでしょ。好きじゃない人と結婚するの?」
「そうですね。私の父たちの中で結婚する前から母のことが好きだった人は少ないですし」
父たちの中でって何!?
お父さんはたくさんいるのが普通だからこういう言い方になるのかっ!
「でも、私はイズミルのことが好きです。私のことが何があっても嫌い、ということでなければ私と結婚していただけませんか?」
政略結婚が普通で、恋愛結婚はレアケースなわけかぁ。
そんな中でエルドルトさんは私のことが好きなんだから、結婚したらいいってこと。
しかも、エルドルトさんの熱意は半端ない。
どちらにしろ夫は増えるみたいだし、結婚したらいいかな?
カイルさんやツィリム君だって、好きだから結婚したわけじゃないんだし。
……だいぶこの世界に染まってきてる気がするけど気づいてないことにしとこう……
よし、覚悟は決まった!
なるようになるだろう!
「エルドルトさん、私の旦那さんになってくれますか?」
不安そうに私を見つめていたエルドルトさんだけど、パーッと雲間から太陽が顔を出すみたいに、すごいキラキラした笑顔を向けてくれた。
「はい、ありがとうございます。よろしくお願いします。イズミは私の運命の人だから、何があっても大切にします。大好きですよ」
神託を受けた人って聞いてたから、もっと契約結婚みたいな感じかと思ってたけど、カイルさんやツィリム君よりずっと、恋愛結婚に近いみたいだった。
多分カイルさんは最初に見つけたから面倒見てくれているんだろうし、ツィリム君はどうも私の魔素目当てな感じがする。
だけど、エルドルトさんはなんだか私のことを気に入ってくれてるみたいだ。
たとえそれが神託のせいだったとしても。
「イズミル、俺とツィリムは午後からは仕事に行かなくちゃいけない。今のうちに婚約魔術を使ってしまってもいいか」
「へぇ、婚約って魔術があるんですか。もう婚約が成立してるもんだとばっかり思ってました」
「魔術じゃない婚約というのは、どんなもんだ?ただの口約束じゃないか?」
「まぁ、そうですね。口約束ですよ。私が知ってる婚約って」
「なるほど、この世界では婚約魔術があって……まぁ契約魔術の1種だな。
それを交わすことで正式に婚約者として認められる。婚約者には夫に準ずる権利があるから色々と出来ることも増える」
ツィリムくんが立ち上がって出ていった。
準備しに行ってくれたのかな。
私の隣が空いたのを狙ったかのように、エルドルトさんが隣に座る。もちろん零距離で。
「イズミさんの愛称はイズミル、というのですね。
それで呼んでもいいですか?もしよければ私にも愛称をつけてくれたら嬉しいのですが」
「好きなように呼んでいただいていいですよ。
そうですね、愛称をつけるなら、エルドルト……うーん……エル、でどうでしょうか?」
「ありがとうございます、イズミル。私に素敵な名前をつけてもらって。大好きですよ」
横から私を抱きしめて首筋に顔をうずめる。
その仕草は子供が甘えるみたいで。
多分ツィリム君より年上なのに、この人の方がずっと年下に見えてしまう。まっすぐに好意を示されるって、こんなに嬉しいことだったんだ。
35
お気に入りに追加
1,101
あなたにおすすめの小説
女性が全く生まれない世界とか嘘ですよね?
青海 兎稀
恋愛
ただの一般人である主人公・ユヅキは、知らぬうちに全く知らない街の中にいた。ここがどこだかも分からず、ただ当てもなく歩いていた時、誰かにぶつかってしまい、そのまま意識を失う。
そして、意識を取り戻し、助けてくれたイケメンにこの世界には全く女性がいないことを知らされる。
そんなユヅキの逆ハーレムのお話。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
二度目の人生は異世界で溺愛されています
ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。
ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。
加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。
おまけに女性が少ない世界のため
夫をたくさん持つことになりー……
周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。
明智さんちの旦那さんたちR
明智 颯茄
恋愛
あの小高い丘の上に建つ大きなお屋敷には、一風変わった夫婦が住んでいる。それは、妻一人に夫十人のいわゆる逆ハーレム婚だ。
奥さんは何かと大変かと思いきやそうではないらしい。旦那さんたちは全員神がかりな美しさを持つイケメンで、奥さんはニヤケ放題らしい。
ほのぼのとしながらも、複数婚が巻き起こすおかしな日常が満載。
*BL描写あり
毎週月曜日と隔週の日曜日お休みします。
私が美女??美醜逆転世界に転移した私
鍋
恋愛
私の名前は如月美夕。
27才入浴剤のメーカーの商品開発室に勤める会社員。
私は都内で独り暮らし。
風邪を拗らせ自宅で寝ていたら異世界転移したらしい。
転移した世界は美醜逆転??
こんな地味な丸顔が絶世の美女。
私の好みど真ん中のイケメンが、醜男らしい。
このお話は転生した女性が優秀な宰相補佐官(醜男/イケメン)に囲い込まれるお話です。
※ゆるゆるな設定です
※ご都合主義
※感想欄はほとんど公開してます。
転生したら美醜逆転世界だったので、人生イージーモードです
狼蝶
恋愛
転生したらそこは、美醜が逆転していて顔が良ければ待遇最高の世界だった!?侯爵令嬢と婚約し人生イージーモードじゃんと思っていたら、人生はそれほど甘くはない・・・・?
学校に入ったら、ここはまさかの美醜逆転世界の乙女ゲームの中だということがわかり、さらに自分の婚約者はなんとそのゲームの悪役令嬢で!!!?
女性の少ない異世界に生まれ変わったら
Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。
目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!?
なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!!
ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!!
そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!?
これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。
最愛の番~300年後の未来は一妻多夫の逆ハーレム!!? イケメン旦那様たちに溺愛されまくる~
ちえり
恋愛
幼い頃から可愛い幼馴染と比較されてきて、自分に自信がない高坂 栞(コウサカシオリ)17歳。
ある日、学校帰りに事故に巻き込まれ目が覚めると300年後の時が経ち、女性だけ死に至る病の流行や、年々女子の出生率の低下で女は2割ほどしか存在しない世界になっていた。
一妻多夫が認められ、女性はフェロモンだして男性を虜にするのだが、栞のフェロモンは世の男性を虜にできるほどの力を持つ『α+』(アルファプラス)に認定されてイケメン達が栞に番を結んでもらおうと近寄ってくる。
目が覚めたばかりなのに、旦那候補が5人もいて初めて会うのに溺愛されまくる。さらに、自分と番になりたい男性がまだまだいっぱいいるの!!?
「恋愛経験0の私にはイケメンに愛されるなんてハードすぎるよ~」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる