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第一章 ノエ、モフモフ島に移住する
8 猫耳商店のトラキチ
しおりを挟む「オレンジか! それなら一個30メガで買い取るぞ」
猫耳商店のオーナーは、ふさふさ髭を生やした陽気なおじさんだった。
名前は、トラキチ。
猫耳美少女アキちゃんの父親らしいが、あまり顔は似ていない。額や頬に古傷があり、昔は冒険者であったことがうかがえる。なるほど、ぬこまるさんと雰囲気が似ている感じがしないでもない……。
うーん、ぬこまるさん、どこにいるのかな?
店のなかは整然としており、並べられた棚には食材や大工道具などが置かれている。アキちゃんは店の片付けを始めていた。そろそろ閉店する時間なのだろう。
「30コあるから、合計で900メガだな。売るか? やめとくか?」
「売ります!」
「じゃあ、オレンジを貰おうか」
「はい」
わたしは尻ポッケからスマホ取りだして操作する。
もう慣れたもので、オレンジ30コをアイテムボックスから取りだすとカウンターの上に置いた。この四角いおもちゃのおかげで、わたしはまるで賢者様になったような気分を味わえる。別次元の空間に物を入れたり出したり。
「じゃあ、スマホをここへ」
トラキチさんは机の上にあったスマホを操作する。
自分のスマホなのだろう。木製のケースに入っている。ふぅん、ああやって自分のオリジナルっぽくするわけね。わたしは思わず尋ねた。
「あの、そのスマホのケースってどうしたんですか?」
「これかい、おじさんが作ったんだよ」
「へ~、わたしも欲しいです」
「自分で作ったらどうだ?」
自分で? と、訊き返したわたしはスマホを見つめた。
「画面のなかに工作アプリがあるだろ? そこにスマホケースのレシピが載ってないか?」
「これですか?」
わたしはスマホの画面にあるトンカチマークを指さした。
「それだ」
「ふぅん、ほんと便利ねこれ……」
「ああ、女神開発のスマホは最高だ」
「女神開発?」
「ああ、魔導機械を作っている企業だ。ノエさん知らんのか?」
「はい。自分のいた世界がどれだけ遅れているのか思い知りました」
「がはは、古き良き時代もまた良いもんだぞ」
「そうですかね……」
「ああ、昔はよかった。馬で駆け、獲物を狩る……」
トラキチさんはスマホの操作を済ませ、遠くを見つめた。
「どれ、もう入金できているはずだ。メガ総額をみてみろ」
「メガ総額?」
「これだ」
わたしのスマホ画面を指さすトラキチさん。
そこには、
900メガ
と表示されていた。
わたしは現実にはお金を持っていないが、どうやらこのスマホのなかで、これだけのお金が入っているということだろう。
「ついでになにか買うか?」
「はい。実はテントをまだ張ってなくてですね。手伝ってくれる人を雇いたいのですが?」
「テント? そんなもん無料でやってやるよ」
「え? いいんですか?」
「ああ、ノエさんは今日モフモフ島に来たばかりなんだ。そういう男の仕事は少しずつ覚えていくといい」
「はい。ありがとうございます」
わたしはにっこりと笑って感謝した。
トラキチさんは頬を指先でかくと、
「おーい! アキ~」
と、叫んだ。「ぬこまるを呼んできてくれ」
は~い、と返事をしたアキちゃんは掃除していた箒を壁にかけ、部屋から出ていった。心なしか面倒くさそうな感じが漂っていた。
わたしは、このモフモフ島に来て、いちばん気になっていたことをトラキチさんに質問してみた。
「あの、トラキチさんたちってこの島でなにをやってるんですか?」
ああ、と言ったトラキチさんはオレンジを箱にしまいながら語り始めた。
「おじさんたちはな、もともとこの島に住んでいたんだ。もっとも、昔はこんな小さな島ではなくて、豊かな大地だったんだ。国があり民がいて繁栄を築いていた。だが、盛者必衰のごとく、大地は母なる海に削りとられ、今ではこのありさまだ。みんな逃げていったよ。あいにく、島はこれ以上は小さくならなかったみたいだがな、ガハハ」
「……」
よく笑って話せるものだ。
今、笑っていられることが奇跡的なくらい辛い人生を歩んできたはず。それでも、額の古傷や腕に描かれている竜の紋章が勇敢な人物だったことを証明している。もしかして、トラキチさんって国王だったとか?
いや、まさかね……。
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