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第一章 ノエ、モフモフ島に移住する
5 魔導機械スマホの使い方
しおりを挟むわたし、ノエ・カルディアはこのような冒険者の格好をしているが。
れっきとした公爵令嬢だ。
さらに、大きな声では言えないが、わたしは魔導機械に触れたことがない。
と言うのも、すべての家事は執事やメイドにしてもらっていたので、わたしには魔導機械のことがまったくわからない。照明ひとつ変えたことがないのだ。
灯りが消えたら執事を呼ぶ。
観たい放送番組を録画したいときはメイドに頼む。
髪を乾かす魔導機械ですら触ったことがない。
身のまわりのことはすべてメイドにやってもらっていた。それが伯爵令嬢たるわたしなのだが、大丈夫かな、わたし。無人島生活なんて、もしかすると無謀だったかも。そんな不安を抱えていると、ぬこまるさんは手に持っていた荷物を示し、
「あと、これテントね」
と、告げつつ、ドサっと黄色い袋を地面に置く。
持ってみると重い。こんなもの、か弱い女のわたしが持てるとでも?
「あの、これってなんですか?」
「テントだよ。さっき言ったように強いおっさんがくると俺は思ってたからな。寝るならテントを張ればいいだろうと用意しておいたのさ」
「はあ……でも、こんな重たいものをどうやって運んだら……」
「ノエちゃんって魔法は使える?」
「はい。基礎魔法くらいなら」
「ふぅん、じゃあ魔力はあるわけだな?」
「はいっ! 剣術はさっぱりダメでしたが、魔法だけは魔法学園で優秀でしたよ。風、火、土、水なら完璧に使えます」
「ふぅん、じゃあ、無属性の次元魔法はダメか……」
「無属? 次元? なんですかそれは?」
わたしは未知なる魔法に興味津々。
すすっとぬこまるさんに近づいてみた。
もちろん、上目使いで教えてアピールは忘れない。
彼は頬をバラ色に染めた。
お! モフモフにもあざと女子の魅了は有効か?
彼はニヤッと微笑むと、やおら口を開いた。
「まあ、いいんだ。次元魔法なんて俺も使えないし。もっともそんな高度な魔法は女神様や賢者様レベルの魔力がないと使えない」
「女神様? 賢者? どういうことですか? わたしの住んでいたティンポス王国には次元魔法なんてありませんでしたけど……」
こういうことさ、と言ってぬこまるさんはわたしからスマホを取った。指先で画面をタッチする仕草はまるで絵を描いているように見えた。すると、スッとテントが消えた。ぬこまるさんはスマホの画面に触れながら説明した。
「スマホを使えば誰でも次元魔法が使えるようになる。笑えるほど便利な世の中さ。ほら、この画面をみて」
ん? わたしは画面をのぞいた。
「このアイテムボックスってアプリを指で押してみて」
わたしは、ぽちっと押す。
すると、スッと地面にテントが現れた。まるで魔法みたいに。
びっくりしているわたしの顔がそんなに面白いのか、ガルルもブーコも、けらけらと笑った。ぬこまるさんの説明はつづく。
「テントは別次元の空間で保管される仕組みだ。ここにカメラのレンズがあるだろ? みてくれ」
わたしはスマホに背中をみた。丸いガラスが光っている。
「保管したい物をカメラにおさめるんだ。画面に画像が映るだろ? ほら、こうやって操作してポチッと押せばいい。やってみろ」
ふいに、スマホを渡されたわたしは、「あわわ」と困惑した。
どこを押したらいいかわからない。
「なんだ? スマホを触ったことないのか? ノエちゃん」
「は……はい。わたし伯爵令嬢だったので、こういう魔導機械には疎いのです」
やれやれ、と漏らしたぬこまるさんは、スッとわたしの手をとりスマホを操作してくれた。男性に触れた経験がないわたしは、不覚にもドキッと心臓が跳ねてしまった。
「ほら、ここを押して」
「……はい」
すると、テントは消えた。
ふぅーと、ため息を漏らしたぬこまるさんはつづけた。
「ノエちゃんってなぜ無人島にきたんだ? 冒険だぜ。サバイバルだぜ。大丈夫かよ」
「あのぉ……わたしはモフモフたちとスローライフできるとばかりに……」
「なんだそっちかよ……期待して損したぜ。冒険者かと思ったのに」
「わ……わたし、この島にいても大丈夫でしょうか?」
「いいよ。か弱い女にはどうせ開発はできない。ま、適当にスローライフしてろよ」
「……はい」
「ただし、さっきも言ったように魔力がないとスマホは使えないからな、そこだけ注意すること。じゃあな」
「え? ちょっと、ぬこまるさんっ」
「まあ、なんか困ったことがあったら猫耳商店に来い」
「ええ! ちょっと待ってくださいっ!」
わたしの悲痛な叫びが美しいビーチに響く。
踵を返したぬこまるさんのお尻で、くるんと尻尾が踊っていた。
あざと女子の魅了は、ぬこまるさんにはまったく効いてない。
くそぉ、モフモフの猫耳イケメンは強い……。
「ボクたちもいくわ~ん」とガルルが吠え。
「またぶひ~」とブーコが鼻息を吐く。
とりあえず、わたしは手を振っていると、砂遊びで作っていた歪なお城が、さーと引く波にさらわれ跡形もなく消えた。そして、誰もいなくなった。
「わぁ~~~~~~!」
悲しみが満ちあふれ、わたしは叫んでしまった。しばし、呆然と立ち尽くしながら、青い海を眺めることしかできなかった。これが、無人島に来た者への洗礼なのだろうか。
ざー、ざー、ざざ……。
じわじわと近づく潮騒のメロディが足もとで響いている。もうすぐ日が暮れるだろう。急いでテント張らないと。夜になる前に。
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