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第一章 ノエ、モフモフ島に移住する
2 大聖堂に駆けだしていく
しおりを挟む「王子、昨夜はどなたと一緒でしたか?」
「うーん、だれだったかな……」
「ギルド館で受付嬢をしているエウカさんと一緒にいましたよね? 酒場バッカスにて仲良く乾杯している目撃証言もあるのですが……」
「ああ、思い出した! エウカね、ちょうど道端でバッタリ会ったんだ」
「ふぅん、王子のあなたが城下町の道端で……しかも、変装をしてバッタリ会えるんですね。ふぅん」
「ああ、僕はイケメンすぎるからさ、目立つだろ? 変装は欠かせない」
「……。まあ、いいでしょう、問題はそこではありません。問題はその後の二人の行き先です」
え? と漏らす王子の顔から、サッと血の気が引いていくのがわかった。まさか、尾行されているとは思っていなかったらしい。
「探偵を雇いました。あなたたち二人は、夜な夜な大人たちがお楽しみをする繁華街へと足を運んでいった。そうですね? 王子」
「……うーん、どうだったかな? 強い酒を浴びて記憶があいまいだ……」
「とにかく、二人はピンク色の街で姿を消したそうです」
「なるほど……まあ、そんな日もあるかもな。僕は二十二歳の大人だから」
イラッとしたわたしはラビットを指さして言った。
「その場所には宿泊施設もあるそうです。つまり、ラブホですっ!」
思い当たるふしがあったようだ。彼は肩を落とし、懇願するようにわたしを見つめた。
「なあ、ノエちゃん。本命の女と遊ぶ女は違うんだよ。僕の本命はノエちゃんさ。君のことが大好きなんだ。わかるだろ? まったく君に手を出してないことを。でもな、本当は君と手を繋いだりキスしたりしたいんだ。しかし、結婚してからでないとマズイんだ。君だって王族の掟くらいわかるだろ? もうちょっと我慢してくれよ、な。結婚できたらいっぱいイチャイチャしてやるからさ、ノエちゃん」
わたしの身体は怒りで震えていた。
「ちょっとなにを言っているかわかんないですっ!」
「え? ノエちゃん……?」
「なんでわたしが我慢してることになるんですか? わたしは女の子とイチャイチャする王子なんか大嫌いですっ! 王子なんか……王子なんか……別の人と結婚しちゃえばいいんですよぉぉぉ、ぴぇぇん」
わたしは大聖堂に向かって駆けだしていく。
背後からラビットが追いかけてくるが、完全に無視した。
色鮮やかな花壇が伸びる宮廷から抜け、壮麗な大聖堂を見上げる。
走りだした足が止まらない。
息を切らし、風にように女神様のところまでたどり着いた。
わたしは誰にも縛られたくないんだ。
そう、わたしは……。
風のように自由に。
火のような情熱的な心をもち。
土のようにしっかりとした舞台で。
水が流れるように踊りたいんだ。
あふれる自然のなかで……。
そのような気持ちを胸いっぱいにして、女神様に向かって叫んだ。
「女神様! わたしをモフモフ島に連れてってくださいっ!」
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