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  プロローグ

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「あなたとの婚約を破棄したいのですが、ラビット王子」
「え? ええっと、なにを言っているのかなぁ、ノエちゃん?」
「婚約破棄ですが、なにか?」
「ちょっとなにを言っているのかわからない」
「……」

 きょとん、とする彼の名前は、ラビット・ロンボス。二十二歳。
 りっぱなテュンポス王国の王子様。
 彼が大通りを歩けば黄色い声が飛び交うので、一緒に歩きたくない。
 王都じゅうの女性が見惚れるイケメンなのだ。
 
 そんな彼の格好は、もう完璧なまでの王子様スタイル。
 紺色のジャケットに短パンを合わせ、黒いタイツを穿いている。
 磨かれた黒革の靴はピカピカ。
 金髪のマッシュヘアがさらさらと流れている。
 わたしを見つめる瞳の色は魔法のような翡翠で、端正かつ賢そうな顔は、偉大なる次期国王であることを象徴しているかのようだ。
 
 はぁ……わたしはため息をつき、下を向く。
 王子はイケメンすぎて、こちらの気苦労が多すぎる。つら……。
 ふいに吹く風が、パステルピンクのおくれ毛をふわりと揺らし、頬をくすぐる。

「髪をポニーテールにまとめて、どこかいくのかい? ノエちゃん」

 と、王子が尋ねた。 
 はい、と返事をしたわたしは、ふと空気を吸った。
 甘い香りが漂ってきて、おもむろに空を仰ぐ。
 花の香り。踏みしめる緑の芝生。心地よい風が吹く青空の下……。
 ここは王族が住んでいる宮殿の中庭。
 きれいに咲いたお花畑から、とてもいい香りがする。
 ああ、美しい庭園。
 花が咲いたような噴水。芸術的な裸体の石像。芝生の絨毯……。
 美しい白亜の宮殿が、巨大な生き物のようにわたしのことを見下げ、荘厳にそびえ立っている。
 
 なに不自由のない環境。きれいな暮らし。変わらない日常……。
 人間が創造したウソだらけの虚構な空間。
 そんな世界に、わたしはいる。
 そして、ラビット王子も。
 
 だが、彼はそのことに関して、あまり興味がないみたい。
 自分が裕福で、人よりも遥かに恵まれていることが、さも当然のように生活をしている。だから、わたしの言葉の意味が、よくわからないのだろう。哀れなラビット王子。本当の自由を知らない悲しい青年。
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