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第二章 ヴァンパイアの呪い
5 キララ『いきなり実戦か』
しおりを挟む「勇者様ぁ!」
スタッと地面に着地した瞬間、キャンディはそう言って走り出す。
私は、いきなりキャンディから手を離されたので、宙で一回転してバランスをとり、スタッと片膝をついて着地した。
──おや?
街道には、人だかりができている。
民から注目されている先には、勇者パーティーと、それに……。
「え? ハヤテ!」
赤い鎧の正義の味方。数人の聖騎士団が集まっていた。
リーダーはもちろん団長のハヤテ。ああ、いつ見てもかっこいい……。
「おい! ハヤテ! このヴァンパイアは俺たちが先に見つけたんだ」
「……だが、見習いの新人が逃走するヴァンパイアに足を引っ掛けて転がしたのを、私はこの目で見た」
団長のハヤテは、さわやかにそう言った。
嘘はつくはずがない。おそらく、聖騎士がミイヒに加勢したのだろう。
「はあ? ミイヒ! どうなってんだこれ?」
勇者クラリスの問いに、ミイヒは真剣な表情で答える。
「わたしがヴァンパイアを追いかけていたら、あの子が物凄いスピードで走り抜けて、ヴァンパイアを蹴り倒したんです」
そう言ったミイヒの手元は、ピッカピカに光り輝いている。
──光魔法 フラッシュライト
目が眩んでいるヴァンパイアは、意識が朦朧として、フラフラだ。
光りに弱いのだろう。立っていられず、倒れてしまった。
──ん?
そぐそばに立っているのは、黒髪の可憐な美少女。
赤い鎧を装備し、腰には短めの聖剣をたずさえている。
え? ええ!? こんなところで会えるなんて!
「バニーちゃん!」
「キララ様ぁぁ!」
「えっ、えっ!? 何してるの?」
「今日から聖騎士のお仕事体験してまして、今、王都のパトロールしていたところだったんです」
「へー、すごい……ってか、鎧、似合ってるぅ」
「そ、そうですかぁ? バニーにはちょっと重いんですけど、まあ、なんとかやってます」
よきよき、と褒めながら私は鎧を、ぺたぺた触る。
羨ましすぎて、おっと、よだれが垂れてきちゃう、やば……。
「ハヤテ! このようにトドメを刺したのは、うちのミイヒだ」
「……うむ」
「あーははは! こいつにサインしろ! で、この結婚詐欺師を処刑するがいい」
「……だが、バニーくんがいなかったら逃していただろう?」
「あ? 細かいことはいいんだよ。そいつは新人だろ? まだ正式な聖騎士じゃない」
「……たしかに、だが」
「あーんもう、おまえは昔っから融通が効かないな」
「すまん、クラリス……公務は公平でないと」
「ちっ、じゃあ、もういい。こいつはギルド館で捕らえてもらう」
「待て待て、そういうわけにはいかん」
「あ? やんのか?」
クラリスはハヤテの顔に、きつくガンを飛ばす。
すると、横から手を伸ばしてクラリスのことを抑える、マコとリク。
仲間の女の子たちに世話を焼かせるなんて、クラリスって男は、ぜんぜん周りが見えていない。私はこの男が嫌いだ。たしかに甘いマスクで顔はいい。魔力も剣の実力もそこそこあるのだろう。
だけど、なんていうのかな。彼からは、安心感というか、包容力というか、そういった落ち着くものが、何も感じられない。
一方、ハヤテ団長の方は、どうだろう。
憧れている存在、ではある。だけど、馬に乗せてもらったとき、落ち着くものは感じなかった。緊張感から、何を話したのかあまり覚えていない。気づいたら、馬から下ろされて、バイバイ、された。ハヤテは私のことを、子ども、だと思っていたのだろう。
思えば、落ち着くものを感じた男性は、彼だけだ。
──美少女みたいな、変なやつ……。
それにしても、クラリスとハヤテは因縁の相手なのだろうか。
どちらかと言うと、クラリスの方がハヤテに突っかかっているように見えた。
この二人に、いったい何があったのだろう。ちょっとだけ、気になる。
「キララさんの憧れは団長のハヤテさん。わたくしの憧れは勇者様。なんだか面白い戦いですわね、おーほほほ」
「……何言ってんの、キャンディ? 笑ってんじゃないわよ、こんなときに」
隣で、高らかに笑うキャンディ。本当にこの姫は、緊張感がない。
クスクスっと小さく笑うバニーちゃんは、姫の背後から膝に足を入れて、カックンした。
「きゃー! 何するのっバニーさん」
「キャハハ、デカ姫! やってくれましたね。キララ様を勇者パーティに入れるなんて」
「おーほほほ! 魔法が使えなくなったキララさんに社会教育をしてあげようと思っているのですわ」
「余計なことをしなくてもいいのです。キララ様は最強ですからっ」
「あなたこそ、余計な正義感を振りかざすから、こんな大変なことになってるんですわよ」
「逃げるヴァンパイアを捕らえるのは、聖騎士の務めですぅ」
「あらあら、チビ助バニーさんのくせに、生意気ですわ」
「キャハハ、文句があるならバニーに勝ってから言って欲しいです、デカ姫っ!」
「いいですわよ。先日やった水晶玉の魔力測定、あんなものではなく。やはりバトルで魔力は計測すべきだと、思っていましたもの」
「その点についてだけは、同感ですぅ」
ねぇ、二人ともやめなよっ! と私が叫んだ。そのとき。
人だかりの間から、ぬるっと一人の美少女が出てきた。
その肩には、魔獣を乗せている。紫色の長髪、青い瞳、雪のように白い肌……。
──ん? あれは……ヌコさん!
「キララー! 探したぞー」
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