異世界探偵はステータスオープンで謎を解く

花野りら

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第二章 異世界の王都 転移した彼女 謎の白骨遺体

46 ベルゼリウス宮殿は高級ホテル

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 白亜の建造物、ベルセリウス宮殿。
 色鮮やかな花々と幾何学模様の植栽たちが敷かれた宮殿の庭は、豪華絢爛な光景とは裏腹に、しんと静まり、耳に聞こえるのは風に揺れる木々の音と、虫の羽の音のみ。
 俺たちのことを歓迎しているのかどうかは知らないが、自然はみんなに平等だ。

 アーメイもリンちゃんも清々しい顔をして宮殿の庭を歩いている。だが、見た目の格好は海水でずぶ濡れで汚い。ふふふ、あれだけの戦闘をしたのだ、しょうがないだろう。

 そんな俺たちを、護衛騎士たちが変な目で見てくる。
 おいおい、君たち護衛騎士は平和なベルセリウス宮殿でのんびり警護していたのだろうが、俺たちはさっきまで殺人鬼と生死を分けた戦闘をしたのち、やっと倒して凱旋しているようなものなんだぞ。
 
 褒め称えよ! 騎士たちよ!
 
 そんなことを思いながら、俺は護衛騎士の立つ門を抜け、薔薇の匂いが強く漂う庭園へと、ずんずん進んでいく。するとアーメイが、「ベルセリウス宮殿に来るのは久しぶりね」とぼやいた。「来たことがあるのか?」と俺が尋ねると、さらっと赤い髪をかきわけてから答えた。
 
「セガールはお得意さんだからね」
「お得意さん?」
「ええ、探偵さんなら彼のスキルを知っているでしょ?」
「ああ、たしか『アイテムボックス』だったかな。で、それはどんな内容なんだ」
「簡単に言うと、あらゆる物質を異次元空間にしまえるのよ」
「すご……じゃあ、色々な物を大量に運んだりできるってことか?」
「そうよ。さらに、セガールは建築に造詣が深いだけあって、王都のインフラやあらゆる建造物を手がけることができるのよ。そして、着実に民衆から支持を集め、今ではこの通りの生活ね」

 バーン! と両手を広げるアーメイの背後には、巨大な黄金比率を駆使した建造物、ベルセリウス宮殿が鎮座している。たしかに、すごい迫力があるし、豪華絢爛で気持ちもたかぶるが、俺にはいまいちピンとこない。根っからの庶民気質なのだろう。ふーん、って感じで玄関のアプローチを進んでいると、聞き覚えある声が響いた。
 
「おい! 平民ども殿下はもう寝ておられる。明日また来られよ」

 あ、出た出た。赤胄の騎士アルバートだ。
 俺は軽く手をあげると、「おつかれ」と労いの言葉をかけてやった。
 
「何が、おつかれだ! ここは通さんぞ」
「いやいや、今夜はここに泊まっていいってセガールから許可はもらっているが」
「ん? それは確かか? まったく殿下は平民に甘いのだから」
「じゃ、通るぞ」
「まてまて、そっちの赤髪の女はなんだ? うぉぉぉ! ジャケットのなかどうなってる? 下着だけじゃないか? しかも赤いレースのブラとパンティではないかっ! おい、ズボンはどうしたのだ? なぜ服を着ていない? けしからん、怪しいやつだ……ゴクリ」

 アルバートの目の色が変わった。喉仏がうごめき、生唾を飲み込むのが見える。護衛騎士はずっと宮殿にいる生活のため、女の免疫が少ないのだろうか。何か得体の知れないストレスみたいなものを溜め込んでいそうで、なんだか、かわいそうだな。
 アーメイは両手を腰に当てて、ぷるんとおっぱいを張ると弁明する。
 
「服? 海水で濡れたから捨てたわ」
「なんて卑猥な女だ……ちょっとこっちこい」

 アルバートがアーメイの腕を掴んだ。
 
「きゃっ、なんなの? ちょっとぉ探偵さん、助けて~」
「こんな乱れた女を宮殿に入れるわけにはいかん。屯所で縛り上げてやる」
「えっ? ちょっと、縛られるとかされたことないし無理よわたしは!? そういうのっ」

 おいおい、何を言ってるんだ、アーメイ。
 俺はやれやれと首を横に振りながら、アーメイの腕を引くアルバートの手首を持ち上げると、グギッと捻ってやった。

「痛い! イテテテテテ!」

 悲鳴を上げて身体をよじらせるアルバート。
 俺はパッとアルバートの手を離すと、「ここはいいから、他の警護でもしてろよ」と吐き捨ててやった。平民のくせに偉そうに、と言わんばかりに眉根を寄せるアルバートが、キッと俺を睨む。おお、こわい、高圧的な態度だけは一丁前にあるんだよな。ある意味では、かわいいやつかもしれない。いじりがいがあって、面白いではないか。
 すると、アルバートはびっくりすることを言う。

「ぐうう、騎士に暴力を振るったなっおまえ! すぐに処刑してやる! 首を差し出せ!」
「え? 明らかに俺のほうが強いのに、なんでそうなるの?」
「平民はさっさと首を出せばいいのだ。さっさと処刑してやる」
「首ね……いいけど、たぶんその剣が折れるぞ、先に言っておくが弁償はしないからな」
「何を戯言を、では、あっちの広いところで処刑しよう、ちょっとこっちへ来い平民よ」
「……やれやれ」

 リンちゃんとアーメイが、ぽかんと呆れていると、背後の扉がゆっくりと開いた。オレンジ色の明かりが漏れて、暗い外の道を照らす。
 顔を出したのは黒執事。
 アルバートに何か耳打ちで説明をすると、アルバートは「御意」と言って去っていった。こいつは本当に上からの命令にだけは忠実だな。すると、黒執事は頭を軽く下げてから、俺たちに向かって言った。
 
「お部屋を用意しております。男性が東棟、女性は西棟になっております。お好きな部屋をお使いくださいませ。湯のほうは北にある大浴場を御用意させております。部屋着やリネン類は脱衣所にございますので、宮殿ないは装備を外し、ごゆっくり休憩してくださいませ」

 また、さらに深く頭を下げる黒執事。
 うわあ、まるで高級ホテルかよ。心が踊ってしまうではないか。それじゃあ、まずは風呂だな。そんなことを考えていると、廊下からコツンコツンとヒールが鳴る。歩いてきたのは、黒髪の美少女、田中あかねちゃん。もう寝るところだったのか、ゆったりとした薄いネグリジェを着ている。白くて柔らかい肌と黒いブラとパンティのコントラストが透けていて目のやり場に困るのは、言うまでもない。すると、リンちゃんが飛び跳ねた。
 
「あかね様ぁ~、ただいま戻りましたぁ~」
「リンちゃんおかえり~って、その服どうした? ずぶ濡れじゃないか……犯人は捕まえた?」
「う~ん、それがぁ……殺しちゃいましたっ、えへへ」
「げ……、それじゃあ事件が解決したかどうかわからないではないか! 捕らえて牢屋に入れるとかして、目に見える証拠が欲しかったな」
「えへへ、あと、船も損壊しました」
「はぁ? そう言えば、海のほうが騒がしいと思っていたが、まさか派手に戦闘してたのか?」
「はい! 御主人様は大活躍ですよ! それとアーメイ様も」

 リンちゃんに肩をポンと叩かれるアーメイは、少し照れたように小声で挨拶をした。
 目と目を合わせるあかねちゃんとアーメイ。二人の関係は良好に結ばれるだろうか? 見ているこっちがドキドキしてしまう。ああ、仲良くしてくれよ。
 
「はじめまして、チュ・アーメイです」
「あら、ご丁寧にどうも。スカーレットと申します」
「スカーレットさん? もしかしてジャマールとの恋の噂になっていた料理人の美少女?」
「まぁ、そんな風の噂が王都に流れていたこともありましたわね」
「えええ! ウソ、マジ! わたしあのレストランの大ファンだったんですよ! なんで閉めちゃったんですか? 肉汁がじゅわわんってでる小籠包、また食べたいわぁ」
「うふふ、まぁ、色々と事情がありまして……あ、そうだわ。お風呂からあがったらパジャマパーティーを開きませんこと」

 ぴょんぴょん跳ねるリンちゃんは「わーい! 大賛成です!」とはしゃぐ。
 
「じゃ、今夜はガールズトークで月下美人の花を咲かせましょう、ね、チュ・アーメイさん」
「そうね、ありがとう。スカーレットさん、ではお風呂にいってきます」
「あ、ちょっとその前に、そのジャケットは和泉さんのものなのでは?」
「ええ、そうよ」
「では、お返しなさっては?」
「いえ、これはもらったので、返す必要はありません」
「あらあら、そんな御冗談を……和泉さん、ホントにあげたものですか?」

 キッと睨むあかねちゃんの鋭い視線が、俺の身体を小さくさせる。睨まれるようなことは、何もしていないはずなのに。なんで問い詰められんきゃならないんだ? とりあえず適当に答えよう。
 
「ん? アーメイの服が濡れたからさ、下着姿で歩かれても困るしジャケットを着せただけだぞ」
「なるほど」

 ふふんと鼻で笑ったあかねちゃんは、アーメイに向かって、ほら聞こえたかしら、と言わんばかりの上から目線で尋ねる。
 
「和泉さんは、着せただけ、とおっしゃっていますが?」
「ううう、返さなきゃダメ?」
「当たり前です。借りたものは返しましょう」
「ううう」

 ジャケットをぬぎぬぎするアーメイは、また赤い下着姿となった。
 目のやり場に困った俺は、サッとジャケットを奪うように取ると、北の廊下に走った。背後から、「あ、逃げたっ!」とリンちゃんの声が響く。
 
 別に逃げてない。
 俺は忙しいんだ。君たちと遊んでいる暇はない。すぐに風呂に入って出かけなければならない。王宮にいくつもりだ。大聖堂で寝かせてある彼女、真里が無事に宮殿で寝ているか確認するんだ。もう二度と彼女を失いたくない。
 
 それと、気になることがあった。真里に確かめなくてはいけないことがある。

 佐野……何者だったんだあいつは? 殺してしまってよかったのか?

 もしかしたら俺は、とんでもない過ちを犯したのかもしれない。
 
 いやいや、あんなスライムの化け物を生かしておくほうが罪だろう、と自分に言い聞かせるように風呂場に向かった。
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