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第二章 異世界の王都 転移した彼女 謎の白骨遺体

40 アーメイと付き合うことになった

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 アルケミストラボの玄関ホール。
 アーメイに声をかけてくる者がいた。受付のお姉さんだ。
 
「あの、チュ様、監視役のポカラ様がお見えにならないようですが……」

 受付嬢にサラッと手を振ったアーメイは答えた。

「えへへ、今日はこのイケメンがわたしの監視役よ。どう、お姉さんたち? 羨ましいでしょ?」
「あ……はぁ、すごくイケメンですね……羨ましいのは認めますが、監視役になれるのは国家の関係者だけです。彼は何か役職についているのでしょうか?」
「うん、彼ってすごいんだから。最新の国家からのエアメールを確認してみてよ」
「しばらくお待ちくださいませ」

 受付嬢は、手もとにある資料に目を落とした。しばらくすると、目を剥いて顔を上げた。確認が取れたようだ。
 
「失礼しました。彼は探偵ですね。すごい……殺人鬼の捜査を国家から依頼されているなんて、見た目以上に強いようですね。それでは御本人様からのアーメイ様と付き合う意思を頂けませんか?」

 受付嬢は俺の顔をジッと見つめると、筆を持つ。
 アーメイが急かすように、俺のことを見つめてくる。
 リンちゃんは、ニャァと大きなあくび。
 ふぅ、呑気なもんだぜ、まったく、言えばいいんだろ、言えば。
 
「アーメイさんと付き合います」

 なぜか、受付嬢もアーメイも頬がぽっと赤くなったぞ。
 意味がわからない。
 なぜ女たちは付き合う、という言葉にこだわるのだろうか。
 もしかしたら、魔法の詠唱のように不思議な力があるのかもしれないな。ホントどうでもいいが。
 
「じゃあ、いきましょ~探偵さん」
「おい、付き合うって言っても今日だけだからな、アーメイ」
「えへへへ、申請しちゃえばこっちのもんよ……」
「ん? なんか言ったか?」
「ううん……なんでもないっ」

 ルンルンで小躍りするアーメイは、大股で歩きだす。
 彼女の身長は、百七十くらいあるから女としては高いほうで、思わずスーパーモデルかよ、と思ってしまう。
 男なら土下座で交際を頼むレベルだろう。
 もっとも呪われている俺にとっては、アーメイとの交際なんて到底できないこと。
 うーん、調子に乗ったアーメイが、俺に触れてくるとマズイな。よし、忠告しておこう。

「なあ、アーメイちょっと話が」
「ん? なあに?」

 顔を上げるアーメイのうわ目使いは眼鏡効果も相まって、美しさのなかにインテリジェンスな雰囲気を醸していた。うわ、ちょっと待ってくれ……スーパモデルの綺麗なお姉さんなんて、たまらないな、これは。
 あかねちゃんのツンデレ美少女もいいし。
 リンちゃんの甘えん坊ロリ巨乳もいいけど。
 やはり綺麗なお姉さんは王道である。

 す、すげぇ……アーメイの女性的な攻撃力は、ことごとく俺の脳天を撃ち抜き、ドキドキと興奮させる。ううう、まぁ、ちょっと硬直しちまったが、ちゃんと言ってやらないとな。俺を男として見るなと。
 
「あの……俺は女に触れると気絶する呪いがあるんだ」
「えっ、マジ? じゃあ、イチャイチャできないじゃない」
「その通りだ。だから、俺に触るな」
「えーーー!」
「うるさいな……まぁ、これを見てみろ」

 アーメイの大声に眉根を寄せた俺は、指先を弾き自分のステータスを開く。
 ウィンドウを見つめるアーメイは、がっくりと肩を落とした。
 そうとうショックだったようで、足を引きずりながら歩くと、虚空を仰いだ。
 
「終わったの? わたしの恋は始まるまえに終わってしまうの?」

 アーメイは、何をぶつぶつ言っているのだろうか?
 まったく理解不能なので、俺は首を傾けていると、腕のなかで抱いていた猫のリンちゃんが飛び出した。
 ボワンッと煙りが舞う。
 すると、トランスフォームしたリンちゃんが現れた。シルバーの髪をかき分けて猫耳にかける。その仕草……やっぱり、かわいいぜ。猫耳美少女は偉大なり。
 
「御主人様ぁ、さっきからアーメイ様の心を揺らすのはやめたほうがいいですよ」
「え?」
「あれを見てください。悶えているじゃないですか」
「はい? もだえてるの? あれ?」

 ぶんぶん首を振るアーメイは、何かを振り払うかのように唇を噛み締めてから、詠唱のような言葉を漏らしている。足も内股でもじもじしているし……何を感じているのだろうか? わからん。
 
「ああ、神よ、あんまりよ。わたしの胸をときめかせておきながらこの仕打ち、酷いじゃない。でもね神よ、運命の悪戯なんてわたしは認めない。これは試練なのね、彼の呪いを解けと、わたしを試しているのね。上等じゃない。わたしを誰だと思っているの、超天才錬金術師チュ・アーメイなのよ。わたしに不可能という文字は、爆発とともに吹き飛ばしてみせるわ」

 真っ赤に染まる双子の月を仰ぐアーメイ。
 その意思は強く、硬い拳をわなわなと震わせていた。自分に活を入れたのだろうか。いきなり風魔法を周辺に撒き散らし、アルケミストラボに植えられた木々や草花をゆらした。物凄い風だ。これが魔導を極めし者の力なのか……恐ろしいものがある。
 
「アーメイ様、すごい気合いですね……」
「なんだろうな? あれ?」
「これは誰が御主人様のハートを射止めるかわかんなくなってきましたね」
「え? 何? リンちゃんなんか言った? 風が強くてよく聞こえない」
「いえいえ、女子トークのネタです。お気になさらず」
「ふーん、女子の気持ちはまったくわからないから、まぁ、適当にやってよ」
「はい、じゃあ、とりあえずあたしをお姫様抱っこしてください。アーメイ様がどう反応するか見てみましょう」
「ん? よくわからんが、まぁ……ギルドに飛んでくれ」
「はい。御主人様ぁ」

 リンちゃんが何を考えているかわからないが、とりあえずお姫様抱っこする。
 よいしょっと……ん? 何をそんなニヤつてる、リンちゃん? その小悪魔のような目線はアーメイのほうを向いているな。え? アーメイ? 君は何をそんなに震えているんだい?
 
「わぁぁぁ! 触れてるじゃん! 嘘つきじゃん、探偵さんのバカっ」
「いやいや、リンちゃんは猫だから大丈夫なんだ」
「そんなのズルい! わたしもお姫様抱っこしてよぉぉぉぉ」

 おいおい、綺麗なお姉さんキャラはどこに行ってしまわれた? チュ・アーメイ。外出したとたん、仕事モードはオフですか? まぁ、全然それはいいんだが、俺に触れるのだけは絶対にダメだ!
 襲いかかるアーメイの綺麗な細い手が伸びる。
 逃げろ! 俺は本能的にそう思った。
 
「リンちゃん飛べ!」

 そう俺が叫んだ瞬間だった。
 ザッと突風が吹くと、俺は夜空に舞っていた。
 だが、アーメイは笑った。
 
「ふふふ、風魔法をあやつり飛行するとは、子猫ちゃんくせになかなかやるわね」
 
 アーメイの足がふわりと浮かぶ。はためく軍服のジャケット、乱れる赤い髪、顔を上げると、まるでロケットのようにアーメイは発射した。
 
「すご……」

 二秒で俺とリンちゃんに肉薄し、間合いをつめると叫んだ。
 
「おーい! 呪いが解けたら、わたしもお姫様抱っこしてもらうからね!」
「なんでそうなる?」
「ご覧のとおりわたしって背が高いだろ? お姫様抱っこできる男子がいなかったのよ」
「じゃあ、呪いが解けたらな」
「やったぁ! じゃあ、あとあと、ついでに色々とその先のステップもいい? 異世界に来てずっと監禁生活されてて、もう限界……」
「どうしたの?」
「わたしひとりの力では、女性ホルモンのバランスが崩れちゃいそうなのよ~たのむぅぅ」
「……?」

 けっこう悲痛な叫びだった。
 うわぁ、面倒なやつが関わってきたなと、思いながら俺はリンちゃんを抱き直した。
 すると、泣くようにアーメイがまた騒ぐ。大きな声が夜空に響いた。
 
「それよ~、お姫様抱っこぉぉぉぉ! わたしにもやって~夢なんだぁぁぁぁ」

 左右に身体を揺して飛行するアーメイは、夜空のなかで狂喜乱舞していた。
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