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第二章 異世界の王都 転移した彼女 謎の白骨遺体

24 勇者クロサキの正体

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 夕暮れの王都は美しいオレンジ色に染まっていた。
 俺は腕を組み、これからの捜査について考える。まず、犯人の動機についてだ。
 おそらく、犯人はクラン『シャドウボーダー』、略してシャドボに何らかの怨みを持つ人物だと推測される。立て続けに発見された白骨遺体の身元は、すべてシャドボのメンバーだったからだ。

 よって、犯人が次に狙うのは、フェルナンドか勇者クロサキの可能性が高い。
 ならば、やることは一つ。二人の張り込みだ。
 アンパンと牛乳の差し入れは必須だな。あかねちゃんに頼んでおこうって……無理か。

「よし、じゃあ、犬飼は勇者のほうを見張ってくれ」
「いや……見張るもなにも」
「ん?」
「ギルドの中におるぞな」
「えっ?」

 俺は背後にあるギルドの館を振り返った。
 夕日に染まった巨大な建物は、こっちにおいで、と言わんばかりに扉を開けていた。
 入り口の看板には『冒険者さんようこそ!』と掲示され学校の入学式を思わせる。
 それにともなって、冒険者たちがひっきりなしに出入りして騒がしい。
 というのも、冒険者に仕事を斡旋してくれる施設で、簡単に言うとハロワ、職安だからだ。
 
 その内容は、トレカという履歴書を作ってからクエストに応募する。
 そして面接して、パーティの主に採用されるという流れだ。
 別に俺は求人情報が欲しくてここに来たわけじゃない。勇者クロサキの調査をしたくて入ってみたんだ。
 そして、心の中では、リンちゃんのことが気になっていた。
 
 大丈夫かな……。
 まぁ、なんとかやっているだろう。リンちゃんは賢いもん大丈夫……だよね?

 そんなことを思いながら、俺はギルドに入った。
 軽いステップで足を踏み入れたとたん、冒険者たちから異様な目で見られた。
 ズラ~と並ぶ冒険者たちは、みんな受付に列を作って順番待ちしていた。合計で二十人くらいいた。
 反対に受付のお姉さんは三人いて、みな忙しそうに冒険者たちのクエスト処理をしている。ご苦労様です。
 すると、順番待ちでイライラした様子の冒険者たちが、口々に俺をバカにしてきた。
 
「あの冒険者、何も装備してないぞ、貧乏だな」
「剣もない杖もない、武道家にしても身体の線が細すぎる」
「しかも、一人ボッチかよ。ソロでクエストなんて、だっせぇ」
「きっとコミュ障なんだよぉ」

 え? 俺が何をした?
 ギルドに入っただけで、このいじめってどんだけルーキーを大切にしないんだ。
 ちょっと泣きそうになりながら、俺は犬飼に話かける。

「なぁ、なんで異世界の冒険者って新人をけなすんだ?」
「ああ、強いやつしか仲間にしたくないからぞな」
「ふーん、弱いやつは排除ってことか」
「まぁな、弱い冒険者をパーティにして、全滅、なんてこともあるぞな」

 それにしても、うるさい。
 さっきからずっとケラケラ笑っている女の集団がいる。
 フロアの奥にある豪華な赤いソファに座って、私たちが世界で一番強くて綺麗なのよって顔を並べている。
 その証拠に、女たちはみんなスタイル抜群で、水着のような防具は上級者っぽい雰囲気をかもし、半裸でおっぱいのぷるんっとした盛り上がりが丸見えだった。やべぇ……露出狂かよ。
 
 ああ、前世を思い出すといたいた、学校のクラスでもいたわ、スクールカーストの頂点を気取ってるやつらがな。
 異世界でもいるんだな。人数を数えて見ると、そんな連中が全員で五人いた。
 いや……違う。
 その真ん中に、ポツンと一人だけ少女がいた。
 いや、少女か? いや、少年か?
 まぁ、どっちでもいいや、無視しよう。とりあえず勇者を『サーチ』してリンちゃんと合流するのが先決だ。
 
「さて、犬飼、勇者とは話せるのか?」
「うーん、話したことはあるが……」
「なんだ?」
「無口ぞな」
「ふーん、で、どこにいるんだ勇者は?」
「そこにおる」

 犬飼がグイッと顎で示した先は、不思議に思っていた少女? いや、少年だった。
 少年は本を読んでいた。背表紙には『合成魔導流体力学・実戦編』と載っていた。
 なんという難しい本を読んでるんだこの少年は、見た目は十代なのに大人かよ。
 よし、さっそく『サーチ』してみようって思ったが……うざい。
 少年の周りにいる四人の女たちのおしゃべりが、本当にうるさい。
 うーん、集中できない。
 お酒を飲んでいるようだ。盛り上がりのテンションが居酒屋の女子会のそれである。
 
「ウェーイ! ダンジョンおつかれ~」
「おつかれ~」
「ってか、勇者たんマジ神だわ~めちゃつえっ~」
「うちらのパーティに来てくれるなんて嬉しみがヤバイ!」

 少年は「ども」とつぶやいたが、目線はずっと本に落としたままだ。
 そして品のある指先で頁をめくる。
 その細い指先は、重たい物を持ったことがない印象を受けた。
 さらに観察すると、拳ダコのない手、サラッとした髪、華奢な身体つき、服装は襟のシャツに勇者っぽい黒いマントを羽織っていた。小さな顔に大きな瞳、ぷっくりした唇、見れば見るほど、まるで男装した少女だった。

 か、かわいい……。

「え? いかん、いかん、いかんっ!?」

 いま一瞬だが、ヤバイ方向に心が傾いた。
 これ、新しい呪いか? いや、逆に現在の呪いの救済措置か?
 
「おい、探偵さん、わしトイレいく」
「は? さっきアルケミストラボでもしただろ?」
「いや~新しい敷地に行くとなぜか小用したくなってな」
「犬かよ」
「うるさいぞな」

 犬飼はトイレに行った。マーキングしたいのだろう。本当に犬みたいだな。
 いずれにしても、早いところ勇者を『サーチ』してリンちゃんと合流しよう。
 俺は勇者を見つめて指を弾いた。キュインと音が鳴りウィンドウが放たれる。
 やっぱり、念じてステータスオープンをするより、指パッチンが一番速い。
 
『 黒咲 無職  性別:男  』
『 レベル:67  年齢:30 』
『 転生者:異世界年齢:12 』

『     ちから: 48 』
『    すばやさ:204 』
『   みのまもり:192 』
『    かしこさ:180 』
『   うんのよさ: 75 』
『  さいだいHP:320 』
『  さいだいMP:999 』
『   こうげき力: 55 』
『    しゅび力:255 』

『  EX:26853100 』
『  G: 4310000 』

『 スキル:セーブ       』
『 のろい:          』
『 まほう:水・風       』
『 水魔法:キュアミスト    』
『 水魔法:アシッドミスト   』
『 水魔法:ダイダルウェイブ  』
『 水魔法:メイルストローム  』
『 水魔法:アルカヘスト    』
『 風魔法:ブラスト      』
『 風魔法:サイクロン     』
『 風魔法:テンペスト     』
『水風魔法:ダイヤモンドダスト 』

 もうあれだね。
 この子と戦いたくないってことだけは、すぐにわかった。
 って……前世で三十歳で無職かよ……きっと正体はやべぇやつだな。
 そして、気になることろが、二点あった。

 一点目、なぜ呪われていないのか?

 そのとき、錬金術師チュ・アーメイの言葉が蘇った。
 
 彼は私たちとは相反する存在なの。彼は転移者ではない……。
 
 そんなことを言っていた。
 その言葉の意味がなんとなくわかった。つまり、彼は転生者だ。地球で肉体が滅び、この異世界で新しい受肉に宿っているということだ。
 そして、次の気になる点に結びつく。
 
 二点目、異世界年齢が十二歳とはどういうことだ?
 
 う~ん、困った。
 リンちゃんか、アーメイなら異世界の知識で推理してくれそうだが。生憎ここにはいない。
 俺が理解するには少し時間がかかる。
 えっと、間違ってるかもしれないが、地球で三十歳のときに死亡して、神に飛ばされ、この異世界に転生し、0歳からスタートした。ということだろうか? ああん、転生者ってややこしい。
 あと、錬金術師アーメイが、勇者は死なないスキルもあると言っていたが、現時点ではまったく意味がわからない。頭が混乱するので宿題にしておこう。
 すると、犬飼がトイレから戻ってきた。若干、手が濡れている。ちゃんと拭けよ。

「あ、すまん、探偵さん」
「遅い。じゃ、リンちゃんが気になるから、俺はもう行く。勇者の見張り頼んだぞ」
「あああ、ちょっと待て」
「なんだ?」
「いつまで勇者を見張ればいいのぞな?」
「はい? やる気ある? ねぇ、聖騎士やるきあるか? おお?」
「あるんだが……腹も減るし……」
「だったら他の騎士、あのジャックとかと交代して見張れよ」
「そうだな、そうするぞな」
「……どうなってるんだよ、異世界の警察は?」
「警察はいない。王都の治安を守るのは騎士団のみ」
「じゃあ、頑張って」

 俺は犬飼の肩を叩いて激励すると、ギルドを去っていった。
 背後から、チラッと勇者の少年から見られてる気がしたが、興味ないので無視した。
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